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2017年09月30日21:05

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ハンブルクバレエ2018年来日公演について(1)作品紹介:椿姫

バタバタしていてだいぶ遅くなってしまいましたが、これから6回に渡ってハンブルクバレエ2018年来日公演について、ご覧いただく方々に楽しんでいただくための情報や、興味を持っていただくための情報をお出ししていこうと思います(完走できるよう頑張ります!)。

作品やダンサーについての見解はあくまでバレエ団の大ファンの一人としてのスタンスなので、バレエ団本体や招聘元の立場と違う部分もあるかもしれません。どうぞご了承ください。

初回は、椿姫の作品紹介から。バレエファンなら既によくご存じの方も多いし、あらすじはネットを探せば見つかるので、私はもっとエモーショナルな紹介を。

公式サイトの作品紹介(英語版)はこちら。
http://www.hamburgballett.de/en/spielplan/play.php?AuffNr=146729#pagenav

wiki日本語版にもあらすじがあります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/椿姫

一般的には、椿姫といえばヴェルディのオペラの方が有名なのではないかと思います。バレエとしても1963年にアシュトンがフォンティーンとヌレエフのために振付けた「マルグリットとアルマン」という作品が有名。

ノイマイヤーの椿姫は1978年にシュツットガルトバレエで初演。マリシア・ハイデがマルグリットの初演キャスト。彼女とイヴァン・リスカでDVDにもなっています(私も持ってます)。

多くのアーティストを魅了してきた椿姫のストーリーですが、ノイマイヤー版はヴェルディやアシュトンの作品よりアレクサンドル・デュマ・フィスの原作に忠実です。ジョン(ノイマイヤー)の作品は椿姫に限らずそういうところがあります。リリオムもミュージカルの回転木馬ではなくモルナール・フェレンツの劇曲「リリオム」から発想していたり。ヴェルディやアシュトンとのストーリー上の大きな違いは、マルグリットの死に際にアルマンが間に合っていないこと。アルマンは彼女が亡くなってからそのことを知るのです。それが、ラストシーン間際のマルグリットの姿やラストシーンのアルマンの慟哭により大きな悲劇性を与えているのは間違いありません。

私が初めてこの作品の全幕を観たのは2009年のハンブルクバレエの来日公演でした。ファーストキャストはサーシャことアレクサンドル・リアブコとジョエル・ブーローニュ。文化会館の後方に座っていた私ですが、生まれて初めて、バレエを観て嗚咽を止めるのが大変なほど席で号泣してしまいました。それが、ハンブルク詣でとサーシャに心酔するきっかけになったのです。

この世で一番美しくて悲しいバレエ。それがノイマイヤー版の椿姫だと思います。

何が美しいのか。

まずは、音楽。ノイマイヤーの椿姫、音楽はヴェルディではなく、全編ショパンです。ショパンのいろいろな曲を持ってきて一つの作品に仕立て上げている。その使い方に節操ないと思われる方もいるかもしれませんが、もともとショパンの曲に馴染みがあった私でも(実は長いことピアノを習ってました)、一度この作品を観ると、まるでこの音楽はこのバレエのここに使われるためにあったのではないかと錯覚するような素晴らしいはまりっぷり。まさに音楽がストーリーを語っている。ジョン(あるいはジョンのチームかもしれない)の音楽選択眼には感服するしかありません。

特に、最終幕での印象的なパドドゥで使われるバラード一番は、マルグリットとアルマンの着ている衣装から「黒のパドドゥ」と言われ、ガラで上演されることも多い部分。バラ1を聴くと黒のパドドゥが浮かんでしまうというバレエファンは多いはずです。お互いに相手に対してわだかまりがあるのに抑えきれない愛情があふれ出る場面になんとぴったりなことか・・・!(羽生君のファンも、是非ご覧くださいませね。私はゆづのバラ1も別物として好きです)

他にも、クラシックファンでなくても馴染みがあるショパンの曲がたくさん使われています。今回の来日公演では音楽は生演奏ですから、初見の方はそちらもお楽しみに!

パドドゥといえば、この作品ではマルグリットとアルマンの有名なパドドゥが3か所あります。

一番最後は前述した黒のパドドゥ。最初は二人の恋が始まるシーンでマルグリットのドレスの色から「紫のパドドゥ」と言われています。ここは、高級娼婦のマルグリットがウブな貴族の若者の純情にほだされていく心理描写が見事。彼女の足元に身を投げ出すアルマン、その彼の姿にふと自分の深い感情を呼び覚まされて彼に手を差し出すマルグリット。ダンスとしての技術的な要求も高いパドドゥではありますが、演技も重要。今回の来日公演では3日ともキャストが違うので、彼らがそれぞれの個性を活かしてどういう表現をしてくるのかも楽しみです。

もう一つのパドドゥは作品の中盤、マルグリットとアルマンが幸せな時を過ごしている時期のもので、やはり衣装の色から「白のパドドゥ」と言われています。ここはリフトが多くてアルマン役は大変ですが、それをスムーズにこなして更に二人の愛に溢れる幸福感が伝わってくると作品がより深く見えてきます。(頑張れアルマン!)

さて、美しさのもう一つの要素は、衣装。このバレエの衣装と装置はユルゲン・ローゼ。

ローゼはオペラファンの方々も名前はご存知かもしれません。バレエ界ではクランコのオネーギンの衣装と美術を担当したというとほぉ、とおっしゃる方が多いのでは。ノイマイヤーとは関係が深いようで、彼の他の作品でも衣装と美術の担当をしています(2016年来日公演で上演された真夏や、他には、幻想〜白鳥のように、眠り、くるみ、シンデレラ・ストーリー、など)。

元々パリの社交界を舞台にした作品ということもあり、ローゼの美的センスがいきていてクラシカルな衣装がとても美しい。紫のパドドゥのマルグリットのドレスは、紫の中に(たぶん)茶色とかいろんな色が複雑に混ざっていて、胸元の赤い椿と相まって本当に綺麗だと思います。タキシードの男性とドレスの女性がわさわさ出てくる舞踏会のシーンとか、これぞ一般人の思い描くバレエという世界の美しさなのでは、という気がします(あ、ちなみにチュチュは出てきません)。だからこそ、パリ・オペラ座バレエが上演するとハマるんでしょうね。

次に、悲しさ。

椿姫は原作からして悲恋の物語ですが、ジョンの作品はマルグリットやアルマンの感情を踊りで描くことでより悲恋感が強まっていると思います。

黒のパドドゥは既に書いたので他のところを挙げると、まずはマルグリットとムッシュー・デュヴァル(アルマンの父親)のシーン(白のパドドゥ直後)。マルグリットとアルマンが別荘で楽しく過ごしているところに、彼のためを考えて身を引いてくれと父親が言いに来るシーン、これが何ともいいのです。最初は娼婦だとタカをくくっていたデュヴァル氏、彼女の高潔な姿とその真摯な愛情に打たれて最後は彼女に敬意を払います。でも息子からは身を引いてくれと言うしかない。マルグリットもできるだけ娼婦ではなく気高い女性としてふるまおうとするが、彼をあきらめてくれというオファーに泣き崩れる。その彼女をそっと助け起こすデュヴァル氏。これがセリフ無しで踊りで表現されるノイマイヤーワールドすんばらしい。

マルグリットは彼のために身を引く決心をし、元のパトロンのところに戻ります。背景を知らずに自分の元を去ったこどだけを知ったアルマンの怒りのシーン、これはアルマン役の大きな見せ場の一つ。サーシャ・リアブコのはここが本当に凄いんだよなあ・・・。彼女が残していった手紙を何度も放り投げ、激しい踊りで表現。そのあと舞台を走りまくって倒れ込む。このシーン、ダンサーにとっては体力的にかなり過酷なんじゃないかしら。

あと、地味なシーンではありますが、マルグリットが病気で余命いくばくもない時期に無理に劇場に出かけて行き、アルマンに似た人物に思わず声をかけてしまうシーンとか、もう本当に泣けてたまりません。台詞がないのにこんなに登場人物の心理が伝わってくるのは、ノイマイヤーの真骨頂です。

バレエというよりは映画やドラマチックな演劇を観た気分になれるのが、椿姫という作品の持ち味だと思います。

バレエファンだけでなく、ロマンチックなものを好きな人、ショパンを好きな人、に是非おすすめしたい作品。みなさまどうぞバレエファンだけではなく、幅広く知人の方とご一緒に劇場にお越しください!

ハンブルクバレエ団2018年来日公演のNBSの公式サイトはこちら。
http://www.nbs.or.jp/stages/2018/hamburg/index.html

*参考までに、2016年来日公演前のご紹介記事一覧はこちら
http://kikoworld.blog.fc2.com/blog-entry-140.html

また、過去に私が観た椿姫の感想へのリンクを。(ハンブルク以外も含めて)

2016年1月 ボリショイ・バレエ・イン・シネマ(ザハロワ&エドウィン)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1949583893&owner_id=2438654

2014年3月 パリ・オペラ座バレエ団来日公演(オレリー&エルヴェ)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1923616465&owner_id=2438654

2012年6月 ハンブルクバレエ(コジョカル&サーシャ)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1856012360&owner_id=2438654

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