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2017年09月26日13:20

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【創作】竜喰いのリド  episode1-A:鈴木健太と選ばれし仲間たち【その4】

【創作まとめ】
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【前回】
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seen9

 黒いマントを羽織った男は、まるで地面から影がぬらりと生えたような印象を受けた。
 髪はこれまた黒で短く刈り込みおっ立ててこり、グレーのバンダナを額に巻いている。
 開いてるのか閉じてるのか解らない糸目からは、何を考えているのか表情が読めない。
 控えめに言って不気味な雰囲気を漂わせる男だった。
「アンタたち、暁の山賊団のアジトを探してるんだろ?」
「あなたは?」
 リンゼが警戒するように一歩距離を置いて訪ねる。
「おっと失礼しやした。俺っちはソロの情報屋でゼアルってんだ」
 ゼアルと名乗った男は、見た目の不気味さとは裏腹に、軽快な口調で話しかけてくる。
 そのギャップが一層不信感を強める。
「どうして俺たちに情報を?」
「どうしてって、暁の山賊団のアジトを探してるんだろ?」
「だからどうして待ち構えてたように情報を持ちかけてくるんだ?」
 俺は不信感を隠すことなく、そのまま男にぶつけてみた。
「そんなの簡単さ。実はアンタたちとは別口で山賊団のアジトを探してくれって依頼があったんだよ」
「ならそちらに情報を提供するのが筋ではないでしょうか」
 リンゼが当然とばかりに促す。
 たしかに依頼があったのなら、そっちに情報を渡すのが当たり前だ。
 そういった意味でもこの男は信用出来ない。
「俺っちもそのつもりだったさ。でもな、東の砦に竜が出たって話は聞いたか?」
 ブックマン社長が言っていたな。
 なんでも冒険会社の社員のほとんどが出撃しているっていう話だったな。
「ああ、噂程度にはな」
「兄さん話が早いね。そしたら依頼主の連中はそっちに行くから情報はいらないってキャンセルしやがったんだよ。信じられるか? こっちは相応の労力を使って情報を集めたのに、その情報を渡す直前にキャンセルだぜ?」
「それは……ちょっと悪質ですね」
「だろ?」
 同情したリンゼに相槌を打つゼアル。
「それで困ってたら、今度はアンタたちの話が聞こえてきた。いや盗み聞きする気はなかったんだけどさ。内容が内容なだけに気になったわけよ」
「はあ」
「そしたら山賊団の奴らが今夜中にもアジトを移動するかもしれないって言うからさ、そうなったらせっかく集めた俺っちの情報が無駄になるわけじゃん? ならそうなる前にアンタたちに情報を売っちまおうと思ったわけさ」
「なるほどな」
 男の事情はわかった。
 ただこの男を信じていいのだろうか。
「ちょっと相談させてくれ」
「どうぞどうぞ」
 俺たちはゼアルから距離を置き、三人で輪になる。
「どう思う?」
「話の辻褄は合っていると思います」
 俺の問いかけにリンゼが答える。
「そうなのか?」
「実力のある冒険者なら、チンケな山賊よりも竜退治を優先するわね」
 カリファの意見も同じようだ。
「そりゃ報酬が全然違うものね」
「なら信用出来るってことか?」
「聞いた限りではね」
「だいたい、私たちを罠に嵌める理由もありませんしね」
「でも情報を買うと経費がかかっちゃうよ?」
「文無しの俺が言うのもアレだが、金額にもよるだろ」
「一度社長さんに相談した方がいいかもしれませんね」
「社長、午後から役所に出かけるって言ってたわよ」
「では戻るまで少し時間がかかりますね」
「でも時間をかけたら山賊どもがアジトを移すかもしれないぞ」
「そもそもあの男の情報が正しいかどうかわからないわよ?」
「でも確かめようがないだろ」
 俺たちのプチ会議は速攻でグダりだす。
 情報を買うにしても、決裁権を持った人間がここに居ない。
 だが状況から察するに、のんびり議論している暇も無いわけだ。
「あのー、ちょっといいですか?」
 ゼアルが離れた位置から声をかけてくる。
 一応は話し合いが聞こえない距離を保っているようだ。
「なんだ?」
「アンタたち、冒険会社の社員だろ?」
「どうしてそれを?」
 リンゼがいぶかしむ。
「ギルドの受付から聞いたんだ。冒険会社とブッキングしてるって」
 さすが異世界、個人情報ダダ漏れだな。
「そうですか」
「社長に相談しないと決裁出来ないんだろ?」
「ええ、まあ」
 男はこちらの悩みを見透かすように話を進めてくる。
「だけど事態は一刻を争う。連中がアジトを移動しちまったら、俺っちの情報も無駄になっちまう」
「それはわかってるけど……」
「そこで俺っちからの提案なんだけど、こういうのはどうだろう?」
 ゼアルは笑ってるのかどうかわからない糸目のまま口の端を吊り上げる。
「まずは俺っちがアンタたちを暁の山賊団のアジトへ案内してやる。その時点でもし奴らがアジトを移動した後ならお代はいらない。俺っちも情報屋としての意地があるからね。スカ情報で金は貰えない」
「はあ……」
「だけど奴らがまだアジトに居た場合はアンタたちに戦ってもらう。俺っちは情報屋だから戦いは専門外なんでね。で、お互いに依頼を達成したら、後日改めて俺っちが社長と情報料を交渉させてもらう」
 ゼアルの提案は悪くないと感じた。
「これならアンタたちが勝手に経費を使い込む心配も無いし、俺っちも法外な請求は出来ない。そしてせっかく集めた情報も無駄にならない」
「なんか私たちにばかり、都合がいいような」
 たしかに俺たちに都合が良すぎる。
 無駄足だった場合は料金が発生しないしな。
 何か裏があるのかもしれない。
「そうでもないさ。この依頼を達成すれば、社長と交渉するだろ? つまり俺っちは大陸全土に勢力を広める冒険会社の社長とコネクションが出来る。もし今後も俺っちの情報を贔屓してもらえるなら、今回の情報料なんてタダでも釣りが来るってもんよ」
 なるほど、損して得を取るってやつか。
 情報屋という仕事をやっているだけのことはあり、頭がキレるようだ。
「もちろん交渉が今後に繋がるかどうかは俺っち次第。アンタたちには迷惑はかけないさ」
 聞く限りはフェアな話に聞こえる。
 まあ社会経験ゼロの俺では本当にフェアなのかはわからないが。
「アンタたちは速やかに依頼が達成できる。俺っちはビッグビジネスのチャンス。ウィンウィンというよりも、上手くすれば少しばかり俺っちが得する、かもしれない話なわけだ」
 ゼアルにとっては少しどころじゃないチャンスのような気がする。
 だが本当に俺たちだけで決めていいのだろうか。
「いいわ、それで手を打つわ!」
「交渉成立、よろしくお願いしますね!」
 俺の懸念を無視するように、今まで黙っていたカリファが話を進める。
 なんでお前が仕切ってんだよ。

seen10

 俺たちはゼアルの言葉を信じることにした。
 山賊団が居るにせよ、居ないにせよ、何の情報も持っていない俺たちにとって損は無いと判断したからだ。
「こっちっすよ」
 街を出た俺たちはゼアルの案内で山道を進む。
 山賊というだけあって、山中にアジトを構えているらしい。
「なんて不便な場所にアジトを構えてるんだよ」
「そう言いなさんなって。奴らにとっちゃ、その不便さが外敵を阻む要塞になるってことですから」
 ゼアルは軽快に歩を進める。
 対照的に俺はバテバテだ。
 今朝まで引きこもりニートだった俺の体が、こんな強行軍に耐えられるわけない。
 この後、山賊と一戦交えるとかマジかよ。
 ここはリンゼとカリファに期待するしかないな。
「アンタ、ホントに体力無いわね」
「うるせえ、俺はお前らみたいに冒険者としての訓練を受けてないんだ」
 肩で息をしながらカリファの声に答える。
 やべ、顔を上げるのもしんどいわ。
「ケンタさん、頑張ってくださいね」
「ああ、リンゼはカリファと違って優しいな」
「そ、そんなことありませんよ」
「なにをー!」
 抗議の声をあげるカリファ。
 そしてリンゼの顔が朱に染まる。
 わかりやすいよなあ。
「青春っすねえ。アニキ、そこの丘を越えたら奴らのアジトは目の前ですぜ」
 前方を指差しながらゼアルが励ましてくる。
「さ、先に行って様子を見てきますね」
 まだ顔の赤いリンゼがゼアルを追い抜きスピードを上げる。
 そんなに照れなくてもいいのに。
 改めて転生者のモテ力(もてりょく)ってスゲエな。
 だけど女の子に体力で負けていては面目が立たないな。
 俺は脚に力を込めて一気に丘を駆け登る。
 息を荒げながら進むと、リンゼの背中が見えてくる。
「あなた、山賊団の仲間ですか?」
 リンゼは何者かと話しているようだ。
 山賊団の見張りにでも見つかったのか?
 俺は様子を確認するように、上がった息を整え潜める。
「山賊団? そんなんじゃないわ」
 どうやら相手は女のようだ。
 身を潜めた岩場から様子を伺うと、そこには透き通るような銀髪を腰まで伸ばした美少女が立っていた。
 整った顔立ちで吸い込まれるような美貌をしているが、ガッチリと固めた装備がアンバランスで違和感を感じさせる。
 とりわけ目立つのは両腕を覆う銀の手甲と、太腿まで伸びる銀の具足。
 この二つのアイテムが、絶世の美女にはとてつもなく不似合いだった。
「人を探してるの」
「こんな所でですか?」
 銀髪の美女の言葉にリンゼは警戒を強める。
 そりゃ山の真っ只中で人探しとか不審にも程がある。
「スズキ・ケンタって言うの。知らない?」
 突然呼ばれた名前に俺はドキリとする。
 全く覚えはないが、こんな美女にまで効果をおよぼすのか。
 転生者のモテ力!
 感心している俺とは裏腹にリンゼはさらに警戒を強めたようだ。
「どうしてその名前を知ってるんですか?」
「どうしてって……そう、あなたがスズキ・ケンタなのね」
 いやどう見ても違うだろ!
 反射的にツッコミを入れそうになった瞬間、俺は自分の目を疑った。
 あるものがリンゼの背中から生えてきたからだ。
 紅の液体を纏った銀色の物が。
 それが何なのか理解するのに、さらに数秒かかった。
「てんめえ、何してやがるッ!」
 そして理解した瞬間、俺の感情は爆発していた。
 リンゼの背中から生えたそれは、彼女の血に染まった剣だった。
「フレイムアローッ!」
 駆け出す俺よりも早く、炎の矢が銀髪の女に向かって飛んでいく。
 言わずと知れたカリファの魔法である。
 しかし銀髪の美女は魔法に動じるわけでもなく、そのまま剣を傾ける。
 すると串刺しになったリンゼの体が、銀髪の美女に被さるように火球の前に立ち塞がる。
「お姉ちゃんッ!?」
 一度放たれた炎は術者であるカリファの制御を離れ、そのままリンゼの体を焼く。
 水分を含んだ、生々しい肉と油の焼ける嫌な臭いが立ち込める。
「お姉ちゃん? この子、スズキ・ケンタとは違うの?」
「うるせえ、リンゼを離しやがれッ!」
 俺は声を荒げながら一気に距離を詰める。
 冒険会社から借りた剣を引き抜こうとした瞬間。
「なら返すわ」
 銀髪の美女が剣を振り抜くと、その反動でリンゼの体は俺に向かって放り出される。
「リンゼッ!」
 咄嗟に剣から手を離し彼女の体を受け止める。
 炎を受けて焦げた衣服がまだ熱い。
 しかし反比例するかのように彼女の体温はみるみる下がっていく。
「おい、しっかりしろよッ!死ぬなッ!」
 彼女の血で全身が濡れることも構わずに抱き締める。
 リンゼの魂が肉体から抜け出さないように。
「心臓を一突きしたから無駄よ」
 頭上からの言葉に顔を上げると、銀髪の美女が剣を振り上げて立っていた。
 ヤバい、リンゼだけでも守らなくちゃ。
 俺はリンゼをより一層力強く抱き締め、彼女に覆い被さる。
「あなたがスズキ・ケンタ?」
「させるかああああッ!」
 カリファが放った火球が再び銀髪の美女に襲いかかる。
 しかし、まるで飛んでいる蝿を叩き落とすかのように剣で炎を斬りつけると魔法は四散する。
「邪魔が入るのは煩わしいわね」
 銀髪の美女はカリファに目を向ける。
 この女、今度はカリファを狙うつもりか!?
「逃げろ、カリファッ!」
「煩い」
 反射的に叫んだ俺は、銀髪の美女の蹴りで吹き飛ばされる。
 銀の具足が鈍器となって俺の鳩尾を抉りやがる。
「アンタやお姉ちゃんを置いて逃げられるわけないでしょッ!」
 目に大粒の涙を蓄えたカリファが叫び返す。
 ダメだ、あんな状態でまともに戦えるわけがない。
 すると後方で状況を眺めるゼアルの姿が目に入る。
「ゼアルッ、カリファを守ってくれッ!」
 俺は懇願するように情報屋の名前を叫ぶ。
 カリファを助けたい一心で。
「なに言ってんすか? 俺っちは戦わない約束でしたよね?」
「え?」
 なに言ってんだ、こいつ。
 この場をどうにか切り抜けないとお前も殺されるんだぞ?
「いやいや、だから戦いはアニキたちに任せるって話じゃないっすか」
 何を今さら、といった表情でゼアルは答える。
 こいつ正気か?
「分が悪くなると契約内容を無視して戦いを強制する。バカ言っちゃいけませんよ。こっちは提供する情報に命を張ってるんですよ? ならアニキたちも戦いに命をかけてくださいよ」
「お前の情報には、こんな女が出てくるなんて無かったぞ!」
「そんなの知りませんよ。契約内容は山賊団のアジトへの案内。途中のトラブルまでは責任持てませんて」
「てめえ」
「それにこのお姉さん、目的はケンタのアニキみたいじゃないっすか。自分のケツくらい自分で拭いてくださいって」
 言い争っている間も、銀髪の美女はカリファとの距離を詰めていく。
 決して早くはないが、最短のルートで確実に距離を縮めていく。
「フレイムアローッ! フレイムアローッ!」
 カリファは魔法を連射するが、そのことごとくが剣に斬り伏せられ四散する。
 このままじゃカリファも危ない。
「すまねえリンゼ、少し待っててくれ」
 リンゼの体を地面に横たえると、俺は剣を拾い上げ駆け出す。
 ハッキリ言ってめちゃくちゃ怖い。
 おそらく剣の腕じゃ全く敵わないだろう。
 だけど、この見知らぬ世界で、こんな俺に親切にしてくれたカリファを、憎まれ口も多いが言葉の裏では常に気遣ってくれてたカリファを失うことはもっと怖い。
「やらせるかあああああッ!」
 気合い一閃。
 渾身の力を込めて剣を振り下ろすが、銀髪の美女は軽く体重移動させただけで切っ先は空を切る。
 勢い余ってつんのめるが、足を引っかけられ無様に転倒する。
「こっちを攻めればあっちが手を出し、あっちを攻めればこっちが手を出す。まるで子供のオモチャみたいね」
 倒れた俺の腹に銀の具足がめり込み吹き飛ばす。
「あんまり手間をとらせないで」
 銀髪の美女は左腕を真っ直ぐカリファに向けて突き出し、そして腕と肩が直線になるように剣を握った右腕を引く。
 格闘ゲームでも見たことのある構えだ。
「突きが来るッ! 射線から逃げるんだッ!」
 地面に倒れたままカリファに向かって叫ぶ。
 咽が潰れたっていい、この叫びでカリファが助かるなら。
「無駄よ」
 信じられない光景が目の前で起きた。
 腕の付け根まで伸びる銀髪の美女の手甲、その肩甲骨部分のノズルからジェットエンジンのような炎が吹き出る。
 その瞬間、銀髪の美女は視界から消えた。
 いや、目で追い付けないほどの、爆発的急加速でカリファとの距離をゼロにまで詰める。
 そこから繰り出されるは必殺の一突き。
 それはリンゼの時と同様に、寸分たがわずカリファの心臓を刺し貫く。
「カリファアアアアアアッ!」
 絶望の叫びが辺りに響く。
 どうしてこうなった?
 なんでこいつは俺たちを狙う?
 わからねえ、何にもわからねえッ!
 俺の心が慟哭の闇に飲み込まれる寸前、胸を貫かれたカリファが動く。
「簡単には……やられない…………わよ」
 カリファは残った力を振り絞り、銀髪の美女を抱き締める。
「大丈夫…………アンタは私が…………守ってあげるって……言ったでしょ?」
 剣は肺にまで到達しているのか、カリファの口元からは言葉と共に血が溢れてくる。
「なに言ってんだよ」
 溢れ出る涙を止めることは出来ない。
 俺は立ち上がりカリファに駆け寄ろうとする。
「来ないでッ!」
 鬼気迫る声が俺の体を打ち付け、足を止まらせる。
「こいつは私が…………道連れにするわ……」
 そう言い放つとカリファは杖を逆手に持ち、呪文を唱える。
「炎よ、矢となりて敵を……」
 まさに自分へ向けて魔法を撃つ瞬間。
 サクッ。
 そんな擬音が聞こえたような気がした。
 銀髪の美女はカリファの胸に刺さった剣を、そのまま上方へ斬り上げ、鎖骨、喉を通り、憎まれ口を叩いていた、小憎たらしくも太陽のような笑顔を見せてくれた可愛い顔を、真っ二つに切り裂いた。
「カリファアアアアアアッ!」
 上半身を二つに斬られた断面からは、おびだたしい血が吹き出る。
 俺は銀髪の美女の横をすり抜けカリファを抱き止める。
「カリファ、しっかりしろッ!」
「可哀想に。スズキ・ケンタに関わらなければ、死なずに済んだのにね」
 背後から聞こえた冷ややかな声に理性が吹き飛ぶ。
 何故リンゼが死ななきゃならない。
 常に優しい笑顔で俺を受け止めてくれたリンゼがッ!
 何故カリファが殺されなきゃならない。
 常に明るい笑顔で場を暖めてくれたカリファがッ!
 カリファの体を地面にそっと横たえ、銀髪の美女に向き直る。
「何で俺を狙う?」
 目的は何だ?
「あなたが転生者だからよ」
 転生者ってだけで殺される理由になってたまるか。
「答えになってねえ。なら何で転生者を狙う!?」
「転生者はこのマギアルクストに無い知識や技術を持ち込み、世界を歪めるわ」
「知ったことかッ! 俺は何も持ち込んじゃいねえだろッ!」
 言っている意味がわかんねえ。
「あなたが転生した。それにより世界は歪められ、死なずに済んだ命が死んだわ」
「てめえが殺したんだろッ!」
 自分で殺しておいて、何を言ってやがる。
 どう考えても元凶はこいつじゃねえか。
「世界に存在するはずの無いものが存在している。それがどれだけ世界に負荷をかけているかわかる?」
「別に来たくて来たわけじゃねえよ」
 どいつもこいつも勝手なこと言いやがって。
「存在するだけで世界を歪めておいて、被害者面とはあきれるわね。だから害虫は駆除しないといけないのよ」
「俺は害虫じゃねえッ!」
「害虫も自分たちが害をもたらしている自覚は無いでしょうね。自覚があるなら行動を控えるはずだもの。だから駆除されるのよ」
「なら俺だけ狙えばいいじゃねえか」
「バカね。私はこの子たちを救ってあげたのよ?」
 二人を殺しておいて救っただと?
「さしずめ害虫に寄生され、操られた哀れな母体ってところね。救うには殺すしかなかったわ」
 何をいけしゃあしゃあと。
 許さねえ。
 こいつだけは絶対に許さねえッ!
「てめえだけは俺が絶対に殺してやるッ!」
「あなたには無理よ」
 復讐の炎に彩られた眼光が冷たい瞳を射抜く。
 負ける訳にはいかない。
 どんな手を使ってでも勝たなければならない。
 心は復讐の炎で燃え上がれ。
 だが頭脳は氷のように冷静になれ。
 今にも心の制御を離れて暴れ出しそうな体を必死で制御する。
 二人の死を無駄にしないために。
「無理でも殺すッ!」
 銀髪の美女はやれやれと言った風に首を振る。
 そうだ、その調子でせいぜい侮れ。
 俺がこの手で、その表情を絶望に染めてやる。
 トレース。
 心に描くは格闘ゲーム『レジェンドサムライバトルロイヤル!』。
 その中でも最強のラスボスと名高い混沌斬首のアシュラ。
 何度も何度も戦った最強の姿を思い描く。
 狙うは最強の超必殺技。
 そのためには相手の体制を崩さなければならない。
「うおおおおおッ!」
 弱斬りからの足払い、そして中段斬り上げ。
 俺はイメージ通りにコンボを繋げていく。
 しかし相手も一筋縄ではいかず、紙一重で全てをかわす。
 避けられてもいい。
 相手に攻撃させないことが大事だ。
 呼吸も忘れ剣を繰り出す。
 だんだん間合いが分かってきた。
 俺の太刀筋は完全に見切られているのか、全て最小限の動きで空を切る。
 だがそれでいい。俺の動きに慣れて油断しろ。
 お前が俺の技を全て見切った時、その時こそが勝機だ。
「温い攻撃ね、そろそろ終わりにしましょうか」
 銀髪の美女の剣が俺の剣を弾く。
 その反動で俺の上体が開く。
「さようなら」
 必殺の突きが繰り出され、切っ先が心臓に迫る。
 絶体絶命のピンチ。
 だがッ!
「この時を待っていたッ!」
 トレースチェンジ、戦国丸ッ!
 俺はこの戦国丸で何度も混沌斬首のアシュラを倒してきた。
 最も使いなれた最強の主人公。
 弾き上げられた剣を両腕でガッチリ掴み直す。
 トレースするキャラを変えたことで、今までとは違う太刀筋に変わる。
「戦国乱世覇王斬ッ!」
 勝利を確信しトドメを刺す瞬間こそ、心に隙が出来る。
 その隙を衝くべく、両の腕に魂を込め、一気に振り下ろす。
 リンゼ、カリファ、仇はとったぞ!
「そんな大振り、当たるわけないでしょ」
 銀髪の美女は突きを止め、ヒラリと体を回転させ軌道から外れる。
 標的を失った剣はそのまま振り抜かれ地面に突き刺さる。
 今のを避けるだと!?
「いい表情ね」
 絶望に染まった俺に、再び繰り出される必殺の突き。
 大振りの一撃を外し体制を崩した俺にはどうすることも出来ない。
 まるでスローモーションのように切っ先が胸に食い込んでくる。
 服を切り裂き、皮膚を突き破る。
 一瞬遅れて襲いくる激痛。
「ぐぁッ! かはッ!」
 肺を潰され叫び声すら形にならない。
 脳を焦がす激痛は、全身から力を奪い去っていき、俺はその場に倒れこんだ。
 意識が薄れ、遠くから声が聞こえる。
「お疲れ様です、リドの姐さん」
「ゼアル、その呼び方辞めてくれない?」
「どうしてっすか? 姐さんは姐さんじゃないっすか」
 ああ、カリファを助けるのを断られた時から気づいていたが、やっぱりゼアルも女とグルだったんだな。
 なのにまんまと乗せられて、バカみたいにホイホイついてって、ホント救いようがねえな。
「まあいいわ。で、この後始末はどうするの?」
「そうっすね、こいつら山賊団に負けたことにしましょう」
「でも山賊団が捕まったら、奴らの仕業じゃないってバレるわよ」
「たーかーらー、姐さんにはもう一働きしてもらいます」
「嫌よ、それよりもお腹が空いたわ」
 俺、何やってんだろ。
 日本ではロクに働きもせず親の脛齧って、それでゲームの世界ランカーになってイキがって。
 死んで転生しても、親切にしてくれた女の子も守れやしない。
 俺の人生って何だったんだろ。
 なあ、リンゼ。
 あんなに親切にしてくれたのに、何も恩返し出来なくてゴメンな。
 なあ、カリファ。
 いっぱい憎まれ口を叩きあったけど、お前のお陰で異世界でも意地張れてたんだぜ。
 二人とも、巻き込んじまってすまない。
 この異世界に転生してきてすまなかった。
「おや? こいつまだ生きてますよ?」
「あら、本当ね」
「しっかりトドメお願いしますよ。後々復讐に来られても面倒ですし」
「そうね」
 ああ、俺って何のために生まれてきたんだろう。
 父ちゃん、母ちゃん、リンゼ、カリファ、迷惑かけてごめん。
 こんな俺にも親切にしてくれてありがとう。
「さようなら、転生者さん」
 そして、生まれてきてごめんなさい。


episode1-Bへ続く。
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