mixiユーザー(id:4997632)

2017年09月01日10:29

176 view

原発雑考第350号   科学的特性マップ  原発事故と動物など

原発雑考第350号の転載です。


2017・9・5
発行 田中良明
転載自由
連絡先 豊橋市富士見台二丁目12-8 E-Mail tnk24@tees.jp


科学的特性マップ

  7月末に経産省が高レベル放射性廃棄物の地層処分に向いている可能性がある場所を示した全国地図(科学的特性マップ)を公表した。
 火山、活断層、地下資源がある地帯を除き、海岸線から20キロ以内にあるところはすべて〈好ましい地域〉とされている。海岸線から20キロ以内という条件が付されているのは、ガラス固化体にされた高レベル放射性廃棄物の輸送用キャスクが非常に重く(総重量100トン以上)、輸送は海上を主にし、陸上は極力短くする必要があるためである。
 その結果、日本全土の3割が好ましい地域とされた。地域の政治力学で地層処分受け容れを認める可能性がある自治体が現れたら、そこを取り逃がさないように適地の網をできるだけ広く掛けておいたのだろう。
 高レベル放射性廃棄物処理の事業主体はNUMO(原子力発電環境整備機構)で、これまでも候補地選定のための活動を行ってきたが、まったく成果をあげることができないでいる。無害化に数万〜数十万年も要するものを確実に安全処理する方法などあるはずがないと考えるのが良識というもので、その良識に逆らうことをやろうとするのだから、難渋するのは当然である。
 この難題を解決するには、高レベル放射性廃棄物処理についての社会全体としての責任意識の共有が不可欠である。その責任意識は原子力事業全体についての社会的合意が存在してはじめて醸成される。しかし日本では、とりわけこの数年の自民党政権下では、特定の勢力(原子力マフィア)の要求に盲従して、社会の多数派の明白な指向とは正反対の原発推進政策が強引に押し進められてきた。政府が問題解決を遠ざけているのである。
 これでは、しょせん産廃処理業者にすぎないNUMOがあれこれやっても、経産省がそれを応援するために「科学的特性マップ」を作ったりしても、ほとんど意味がない。必要なのは政府の姿勢の根本的転換である。それがあってはじめて問題解決のスタートラインに立つことができる。


原発事故と動物

 福島原発事故による住民避難で無人化した地域で、イノシシ、アライグマ、ハクビシンなどが農地のみならず市街地にも大量に住み着き、帰還した住民の農作や居住に大きな支障になっているらしい。
 1986年に原発事故があったチェルノブイリを事故の10年あまり後に訪問した際に、無人になったプリピャチ(原発から3キロの地点にある原発労働者の街)でオオカミの姿を見かけるようになったという話を聞いた。 
 2005年に出版されたメアリー・マイシオの『チェルノブイリの森 事故後20年の自然誌』(邦訳はNHK出版、2007年)では、チェルノブイリ原発周辺の立ち入り禁止区域(ゾーン)でイノシシが顕著に増加し、事故前にはあまり見かけなかったアカシカやヘラジカがよく姿を現し、ウクライナやベラルーシでは絶滅危惧種に指定されているヒグマやオジロワシまで見かけるようになったと記述されている。
 数年前にNHKで放映されたフランスのテレビ局製作のドキュメンタリー(番組名は失念)では、ゾーンで子育てに成功するツバメの数は激減し、逆にある種のネズミは大繁殖していることが報告されていた。ネズミは世代交代が早い。このネズミは、世代交代を重ねるあいだに被曝の影響が特に問題になるセシウムを体内からすばやく排除する機能を獲得することで新しい環境に適応し、天敵や競争相手が被曝の直接、間接の影響で減少するのにつけ込んで大繁殖したのではないかと説明されていた。
 事故前には狩猟や駆除などで人間によって排除されていた動物は、人間が居なくなることのメリットが被曝のデメリットを上回って、増加している。もともと人間の影響をほとんど受けていなかった動物については、被曝の影響を強く受ける動物は減少し、他方で被曝の影響を克服して増加している動物もいる。このようにゾーンでは、放射能の存在とそれによる人間の不在が持続することで、事故前とは異なった生態系が形成されつつあるようだ。
 福島ではどうなるのか。避難によっていったん無人化した地域の多くで避難指示が解除され、住民の帰還が始まっている。政府や県は帰還を促しているが、残存する放射能を恐れて帰還する人は少なく、かつほとんどが高齢者である。帰還が見通せない地域=帰還困難地域も残っている。最終的に住民がどのように居住することになるかが、地域における人間と野生動物の関係を決める最大の要因になることは疑いないが、野生動物が被曝したことが地域の生態系になんらかの影響をおよぼす結果になることもありえるだろう。
 ところで、人間に依存して生きるしかない家畜とペットについては、原発事故は野生動物の場合とはまったく異なる状況をもたらす。
 福島原発事故の際に20キロ圏内で飼われていた家畜(牛3500頭、豚3万頭、鶏44万羽など)は殺処分を指示された。牛は、他所に移されたケースや、飼い主が殺処分を拒否して飼育し続けたケースもあるが、大半は殺処分された。鶏はすべて殺処分されたと思われる。豚やその他の家畜の詳細は分からない。いずれにせよ基本的に家畜は殺処分されたと見なすことができる。 
 ペットは、多くが避難の際に置き去りにされた。避難先で受け入れを拒まれるケースも多々あった。立ち入りが可能だった地域では置き去りにされたイヌとネコを救出する活動が行われたが、それで保護されたのはごく少数である。置き去りにされたイヌ、ネコに給餌する活動も細々と行われ、現在も続けられているようである。これらはすべてボランティアの活動である。
 イヌやネコは餌を貰わなければ生きていけないから、置き去りにされれば餓死する。餌をやらずにペットを餓死させるのは動物虐待に当たり、立派な犯罪行為であるが、責任を負うべき東電も行政も知らぬ振りである。
 ペットの避難対策の不在を批判された環境省は、2013年に災害避難時には飼い主とともに避難すること(同行避難)を基本とするガイドラインを定めた。ペット保護の観点から一歩前進ではあるが、同行避難を保障する態勢(避難先でのペットの受け容れなど)が整備されるかどうか疑問だし、そもそも原発事故避難ではその他の災害避難に較べて避難する距離も避難する期間も桁違いに長くなるので、仮に同行避難ができたとしても、ペットにとっては人間(避難者)以上に大きなストレスとなることは明らかである。
 私は捨てられたネコを保護する活動(繁殖しないように避妊・去勢して、餌場を設けて餌を与える)に関わっている。これらのネコを避難させることを考えると、まず捕獲する必要がある。人間も避難しなければならない緊急時である。人手も時間も限られるので、捕獲できるのはごく少数だろう。ほとんどのネコは捕獲できず、餓死させることになるだろう。
 チェルノブイリにおいても住民避難に際してペットの同行は認められなかった。放置されたペットは後に狂犬病など伝染病の蔓延を恐れて殺処分された。ノーベル賞作家スベトラーナ・アレクシェービッチの名著『チェルノブイリの祈り』には、空き家になった家々を回ってイヌやネコを射殺する作業に従事した猟師の話が載っている。チェルノブイリを見ても、フクシマを見ても、原発事故によっていちばん残酷な運命に見舞われるのは、さまざまな形で人間に依存して生きている動物たちであることはまちがいない。


雑 記 帳

この夏は、オホーツク海高気圧が強く(これは地球温暖化のせいらしい)、太平洋高気圧が張り出せなかったので、梅雨のような状態がずっと続いた。私の住む辺り(渥美半島太平洋側)では、8月末に高温の日もあったが、オホーツク海高気圧に発する東からの冷たい風の吹く日が多く、全体としては比較的低温だった。ただし湿度が高く、涼しいという体感ではなかった。
 この気象と関係があるかどうか分からないが、身近でいくつかの自然の小さな異変が観察された。
 ツバメの繁殖活動が遅れ気味だった。散歩コースの万場緑地で8月19日になってやっとヒナが巣立ったケースがあった。これまでにない遅さである。このヒナたちは渡りの長距離飛行に耐えるまでに成長できるだろうか。
 セミは少なく、特にツクツクボウシは極端に少なかった。かつては6月から鳴くことがあり、それはそれで異常だったが、今年は立秋を過ぎてもほとんど鳴き声を聞かず、姿を見ることはまったくなかった。
 ヘビも、家の周辺のみならず万場緑地でもまったく見かけなかった。ヘビは好きでないので、個人的にはそれでよかったのだが。
 これは異変とはいえないかもしれないが、庭の水甕にトノサマガエルが居着いた。そこで飼っているメダカを食べているようで、少し困っている。

3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2017年09月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930