20年近く連れ添った妻が駅の階段を登っていく。
「ありがとう」私はその後姿に声をかけた。
彼女は振り返ると
「もういいよ」
そういい残して去っていった。
私が何かプレゼントすると
彼女はいつも怒った。
腕時計や時間をかけて作った皮の財布の時も。
「こんなのいらない」
一番最後は自転車だった。
パンクしたから見てくれと言われ
自転車のタイヤを見ると磨り減ってチューブも切れているようだった。
各所が錆びて傷んでいる。
私は自転車屋さんを訪れ新車を注文した。
お金を多く渡し
彼女が選んでつり銭を受け取れるように
自転車屋に頼んだ。
帰宅すると彼女は烈火のごとく怒った。
それから二ヶ月もしないうちに
彼女は出て行った。
倉庫にはピカピカの自転車が眠っている。
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