三浦瑠麗のツイッターが炎上しているというので、見に行きました。（笑）
元記事と関連ツイートを末尾に引用しておきますが、彼女特有の高飛車な物言いを別にするなら、東浩紀の解釈にボクもおおむね同意です。
炎上の原因としては、以下の4点が考えられます。
(1) インタビュー記事であること。
(2) 少ない文字数に、多くの論点を盛り込みすぎ。
(3) 質問内容から見て、「最後の二年間」という観点が、唐突かつ斬新すぎる。
(4) 三浦瑠麗のキャラクター上の問題。物言い。
で、ボク自身が注目かつ感心したのは(3)なので、それについて書いておきます。
ボク自身はここ数年、昭和19年前後の日本に関心があったので、彼女が言う「最後の二年間」というのは、ボクの関心と合致します。
ボクの関心を単純化してまとめてみると――、
昭和16年の開戦時には好戦的だった日本国民が、厭戦気分に転向したのは昭和19年前後だった。反東条の動きが顕在化したのが19年だったのは、そのことと無関係ではない。岸信介が、憲兵の弾圧をはねのけて、反東条を貫いたのも、そうした国民世論（感情）の変化が背景にある。
そしてなにより、国民の多くが昭和20年の敗戦を積極的に受け入れたのは、前年の19年の時点ですでに転向していたからである。で、東条の遺族が、今でも陰気な顔してブツブツ文句を言い続けているのは、「国民に梯子を外された」という籠池的な気分を引きずっているから。
――という感じ。
実は、朝ドラ「ごちそうさん」の戦争描写というのは、これに近い。開戦当初は暢気なシーンが多くて、終戦が近くなってくると、深刻なシーンが増えてきました。
ちなみに、この観点でボクが最も着目しているのは、「暗黒日記」の清沢洌が、昭和20年元旦に書いていたことです。
日本国民は、今、初めて「戦争」を経験している。
戦争は文化の母だとか、「百年戦争」だとかいって戦争
を讃美してきたのは長いことだった。僕が迫害された
のは「反戦主義」だという理由からであった。戦争は、
そんなに遊山に行くようなものなのか。それを今、彼
等は味っているのだ。だが、それでも彼等が、ほんと
に戦争に懲りるかどうかは疑問だ。結果はむしろ反対
なのではないかと思う。彼等は第一、戦争は不可避な
ものだと考えている。第二に彼等は戦争の英雄的であ
ることに酔う。第三に彼等に国際的知識がない。知識
の欠乏は驚くべきものがある。
当分は戦争を嫌う気持ちが起ろうから、その間に正
しい教育をしなくてはならぬ。それから婦人の地位を
あげることも必要だ。
日本で最大の不自由は、国際問題において、対手の
立場を説明することができない一事だ。日本には自分
の立場しかない。この心的態度をかえる教育をしなけ
れば、日本は断じて世界一等国となることはできぬ。
総べての問題はここから出発しなくてはならぬ。
日本が、どうぞして健全に進歩するように――それ
が心から願望される。この国に生れ、この国に死に、
子々孫々もまた同じ運命を辿るのだ。いままでのよう
に、蛮力が国家を偉大にするというような考え方を捨
て、明智のみがこの国を救うものであることをこの国
民が覚るように――。「仇討ち思想」が、国民の再起の
動力になるようではこの国民に見込みはない。
（出典）
http://book.geocities.jp/mikizen09/dnl/dkiyonikki.html
これを読めばわかるように、日本国民の間に「戦争を嫌う気持ち」が生じたのは、昭和19年ごろだったことがわかります。物資の欠乏などが深刻化したのもこの時期だし、農産物の生産も19〜21年くらいが底だっとと思います（未確認）。また、最後の一文などは、石原慎太郎や百田尚樹みたいな人に読ませてやりたい言葉ではあります。
そしてなにより、清沢が批判しているのは軍部ではなくて日本国民全員だということに注目してほしいです。清沢は日記の中で、リベラル派の知識人ですら、戦争を容認・肯定していることを嘆いています。清沢に同調してくれたのは、石橋湛山と馬場恒吾の2人だけだったと。
また、「暗黒日記」とは別ネタですが、昭和20年に投獄死した三木清ですら、日中戦争開戦時は、近衛の“聖戦”を肯定する論文を書いていたくらいですから、戦前の戦争が“軍部の独走”でも“政府の強圧”でもなくて、国民の意思だったと理解する方が無理がないんだと思います。
ちなみに「はだしのゲン」には、戦時中は好戦的だった大人に対する批判が含まれています。戦後になって「軍部が悪かった。男が悪かった」と責任転嫁する女性を、ゲンが批判するシーンがありました。こういうシーンがあるから、「はだしのゲン」はあなどれません。
話を清沢洌に戻すと、清沢という人は、当時の日本人からは、西洋かぶれした生意気な帰国子女と思われていたようですが、そういうところは三浦瑠麗に似ているのかもしれないです。
いずれにしても、ボクとしては、昭和19年に日本国民が転向した――という視点にとても興味があるわけです。
P.S.
ちなみに以下の記事、三浦瑠麗以外の2人の見解も、なかなか面白いです。
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気分はもう戦前？ 今の日本の空気
2017/8/12 紙面から
http://chuplus.jp/paper/article/detail.php?comment_id=480459&comment_sub_id=0&category_id=562
◆全否定は過去見誤る 国際政治学者・三浦瑠麗さん
まず、「戦前回帰」を心配する方々が思い描く「戦前」のイメージに不安を覚えます。大日本帝国が本当の意味で変調を来し、人権を極端に抑圧した総動員体制だったのは、一九四三（昭和十八）〜四五年のせいぜい二年間ほどでした。それ以前は、経済的に比較的恵まれ、今よりも世界的な広い視野を持った人を生み出せる、ある種の豊かな国家だったと考えています。それを全て否定するのは一面的で、過去を見誤っています。
「今は、あの二年間に似ていますか」と聞かれたら、私は「全然似ていない」と答えます。「『共謀罪』法が治安維持法に似ている」というのも誤った分析。現代は当時のような共産主義やアナキズム（無政府主義）の脅威がありませんし、民主政治は成熟しました。人権を守る強い制度も定着した。あの時代のような拷問や弾圧が容認されるはずがないでしょう。警察官もはるかにプロ意識のある集団に育ち、抑制が利いています。
「戦前回帰？」の議論は元をたどれば改憲論議。現在の憲法改正を巡る議論は、護憲派、改憲派ともに不十分な点が多い。
まず護憲派。悲惨な敗戦と、あまりに大きな犠牲を払った総力戦への反省に立脚する平和主義は、一国だけのものですか、と問いたい。日本が戦争をしないことにしか関心がない考え方は、世界に向かって普遍的に説明できるものではありません。志が低い。矮小（わいしょう）化された平和主義が、すでに国民の過半数の支持を得られなくなっている。それが今の状況でしょう。
改憲派は、一九四七年に連合国軍総司令部（ＧＨＱ）に押しつけられた憲法を否定し、少しでも変えることに固執していますが、こちらも小さい。安倍晋三首相は五月、憲法九条に三項を加える「自衛隊の明文化」を提案しました。連立相手の公明党への配慮だと思います。でも、それでは本質的な矛盾は解決しない。私は「戦力不保持」を定めた二項を削除すべきだと考えています。
改憲の議論を見ても、国家観、歴史観を持ち、理念を掲げられる日本人が育たなくなっていることが分かる。残念なことです。台湾の李登輝・元総統を見てください。困難な状況下で骨太の政治理念を養い、民主化を主導した名指導者ですが、彼を育てたのは戦間期（第一次世界大戦と第二次大戦の間）の日本であり、戦後の日本ではないのです。
（聞き手・中野祐紀）
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三浦瑠麗 Lully MIURA
@lullymiura
インタビューに答えました。博論以来のお題ですが、国民対政府という構図で政府に全ての悪をおしつけると民主主義は自省しません。敗戦前の二年こそ学徒動員はじめ全国民が動員されましたが、それまで国民は度々自発的に好戦主義を選んできたのです。
7:36 - 2017年8月12日
三浦瑠麗 Lully MIURA
@lullymiura
戦間期、各国で全体主義の萌芽が見られた。なぜ日本が止まれなかったのかが重要。新聞で一括りにされる戦前・戦中には様々な時期がありました。語られ易いのは総動員で大学生らが出陣した最後の2年。その2年を元に政府と国民の関係があたかもずっとそうだったように措定してしまうのが誤りなのです。
8:12 - 2017年8月12日
三浦瑠麗 Lully MIURA
@lullymiura
いま気づいたのでメモっておくけど、記事を戦間期と今の日本がまるで似てないと言っていると誤読するわけね。そうではなくて�〇�てる部分は確実にあるが似てない部分もある�△修發修眄鐐阿猟迷�的イメージが悪すぎる。戦中の最後の二年は例外的事象��ゆえに現代人は志高く頑張るべきだ。なのだが。
10:32 - 2017年8月12日
三浦瑠麗 Lully MIURA
@lullymiura
で、現代日本人がどうかというと、政府が悪をもたらしていると考えがちだが、民主主義なのだから自分たちで国を形作っていかねばならない。そんなとき、左右両派が国内の関心にとどまり孤立主義を選んだり、あるいは社会の進歩を担うべき革新側に、保守に対抗すべき国家観が育たないと困るというお話。
10:38 - 2017年8月12日
東浩紀認証済みアカウント
@hazuma
例の炎上中の件、ぼくは決して氏と同じ政治的立場ではないけれど（だってむこうは総理とディナーだぜ！）、彼女が言いたいのは要は「戦前のひともそれなりに幸せだったがあっというまに大政翼賛に堕落した、そこが怖いのであり、戦前全体を悪にしてるとそこ見えないよ」ってことではないだろうか。
16:06 - 2017年8月12日
東浩紀認証済みアカウント
@hazuma
1943年以前にもひどい人権抑圧があったというのはまったく正しいけど、そんなこと言ったら当時は世界中で人権が抑圧されていた。問題は当時の日本が同時代の先進国に比較し突出して悲惨な国ではなかったにもかかわらず、あっというまに自滅したことで、そここそいま他山の石とすべきだということ。
16:11 - 2017年8月12日
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