私の愛した忠臣蔵は

私は忠臣蔵が大好きなのですよ。
忠臣蔵、赤穂浪士、どんなタイトルであろうともむさぼるように見てきた。
今は全くやらなくなったけど、私がションベンくさい小娘だったころなんて、年末になると毎年のように特番が組まれてたよ。
たまに、もう古くって画面なんかショリショリしてるのとか、セリフが武士語で何を言ってるのかさっぱり理解できないくらい難しかったりしても、それでも好きでＴＶにかじりついて見ていたものだ。

その中でね。今でもずっと忘れられない一本があるんだよ。
私がまだ小学生くらいのころで、やっぱり難しくて意味なんかわからなかったはずなんだけどね。俳優の演技が凄すぎてね。
浅野の殿の演技がね……ホント凄くてね……。今でも思い出すだけで涙が滲んでくるほどに。
悔しい。悔しい。そして彼を慕う家臣への深い感謝の思い。
く、と唇を引き結び、眉根を寄せる。たったそれだけの表情で、彼の思いが伝わってきたんだ。
顔面びしょぬれになるくらい泣きながら見たものだ。
無言の演技。いま、あんな演技できる俳優なんてどこにも居ない。
あれは誰だったんだろう。
ママンが言った。『あれは、有名な歌舞伎役者の息子よ』と。
けれど、いま訊ねてもママンはそれを思い出せないようだ。
あれを、あれをもう一度見たい。

その忠臣蔵は他にも凄かったんだ。書き始めるときりがないんだけど、本当に全てにおいて完璧だった。

声たてて泣くとセリフが聞こえなくなるから、唇噛んで声を出さずに大泣きしながら見たアレを、もう一度見たいのだよ……。

ＤＶＤになってない作品の方が多いんだもんな……。きっとそのなかに埋もれてるんだ。
この世への心残りがあるとすれば、きっとこれは必ず含まれるだろうな。


とかなんとか言いつつな、ぜんぜん違うと思いながらも、別の忠臣蔵見ながら今も泣いてるわけだが。
くっそ。昔の俳優はみんな神だぜ。演技が。
目だけで演じきられる俳優多すぎだろ。もっと残すべきだよ！勿体無いよ！！