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2017年06月12日00:56

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花開くコリア・アニメーション2017

韓国の自主制作映画が中心のアニメイベント、
花開くコリア・アニメーション2017、
いわゆる「花コリ」、in 名古屋会場。

6/10(土)に、社会派テーマに切り込んだ
「短編プログラム2・宇宙の形」の
9作品だけ観てきました。

時間の都合で今回は残りは観れなくて残念。


***以下、ネタバレ感想レビュー***

フォト



『PEACE ROAD』は、韓国を中心とする
各国のインディーズ監督が
リレー形式で綴った反戦アニメ。

鮮やかな色彩感覚に引き込まれました。

『ジオット』は、NHKのどーもくんや
チェブラーシカの制作にも携わって来られた
ホ・ジュンソク監督による、
実写と人形アニメーションのミックス作品。

ライオンの人形と恋に堕ちる
中年男の物語という体裁ですが
非常に深い問題を抉っていました。
詳細は後述。

『私はフランス語ができません』は、
ディスコミュニケーションを生み出すのは
果たして「言語の壁」なのか、
それとも「心の壁」なのかという問いを
鋭く突きつけてくる諷刺作。

『Before & After』は、
いまや韓国で隆盛を極めている
美容整形手術の問題、

『役割ごっこ』と『ピクニック』は、
「命を奪うこと」に対する告発、

『Insect Bite』は
同族相食む人間社会の狂気、

『疲労度』は都市文明社会の病理を
それぞれ取り上げた作品でした。

そして最後の『白い沈黙』は、
友人への嫉妬から罪を犯した少女が
その罪の重さに震えおののく姿を
ひたすら描写した作品で、
絵柄の可愛らしさとのギャップも相俟って
今回観た9作品の中では、
後味の悪さピカイチでした(笑)

以上9作品の上映終了後、
『ジオット』のホ・ジュンソク監督による
トークショーが開始。

人間大サイズのライオン人形の
制作費が50万ウォン(約5万円)だったこと、

人形の名前「ジオット」の由来、

実写パートのキャストは家族やその友人で
ジオットの声は監督自身が当てていること、

アフレコではなくプレスコで制作されていること、

※筆者注:プレスコとは、
先に音声を録って後から映像を作る方式。
韓国アニメではこの方式が結構多い。

韓国社会におけるアメリカの影響力の強さ、

※筆者注:実際、アニメの世界ひとつ取っても
今年『君の名は』が少々ヒットしたとは言え、
韓国における日本アニメの人気は、
ディズニーの人気には遠く及ばない。

そして、「ジオット」のテーマである
同性愛問題について、
韓国社会では「反同性愛派」が
積極的にデモやビラ配りまでやって
同性愛者への差別を煽動しようとしており、
国民分断のひとつの焦点ともなっている、
という作品の背景解説、等々。

とても興味深いお話を
監督の口から直接伺うことができました。

思えば、先日逝去された
申東憲(シン・ドンホン)監督による
韓国初の長編アニメーション映画
『ホン・ギルトン』(1967年1月公開)に
遅れること僅か数ヶ月、

日本の人形アニメーション作家・持永只仁の
弟子であった康太雄(カン・テウン)監督の
韓国初の人形アニメーション映画
『フンブとノルブ』 흥부와 놀부 
が公開されたのは、1967年6月のことでした。


https://www.youtube.com/watch?v=LgSnK_Wikxk

すなわち今年は、
韓国の人形アニメーションの歴史にとっても
記念すべき50周年の年であるわけですが、

まさにその節目の時に当たって、
韓国の人形アニメーション業界が
ホ・ジュンソク監督という優れた人材を得、
その作品をわれわれ日本人も
こうして観賞できる運びとなったことは、
実に喜ばしいことです。

ホ監督、スタッフ・キャストの皆様、
そして「花コリ」運営の皆様に
改めて感謝したいと思います。

作中、ライオン人形のジオットは
「弱い心」に言及します。

圧迫と偏狭、対立と分断は
まさにこの「弱い心」から
生まれるのではないかと、
ジオットは私たちに問いかけています。

そして、問いかけたジオット自身も、
暴力と「権力」の幻影に、振り回されています。

「弱い心」、その本質は、

「自分という存在を本心から肯定できず、
したがって他人も肯定できない心」

ということではないでしょうか。

33歳になっても無謀な夢を追い続けていて、
やがてジオットとの恋に走った、
中年男ジェグン。

しかし、彼の背中に常に漂っていたのは、
周囲からの視線に圧迫されて
やがて自己を否定し、
他者をも否定してしまうという
悪循環へと追い込まれがちな、
やり場のない一種の無力感でした。

ちょうどいま、私が追いかけている
商業アニメの『フラワーリングハート』でも、
悪の王子であるトランプが

「漆黒のように濃い闇の魔法で
弱き者どもの心を支配せん!」

칠흑같이 짙은 어둠의 마법으로
약한 자들의 마음을 지배하리라!

(チルッカディ チドゥン オドゥメ マボブロ、
ヤガン チャドゥル マウムル チベハリラ!)

フォト

などとカッコつけた呪文を吐きながら
悪の使命に頑張ってますが、

実際のところ、トランプ自身が
主人公との禁断の恋に悩んで
使命への姿勢も常にブレまくっていて、
実母である悪の王妃カンナビスからも

フォト

「あの子は心の弱い子・・・」

などという評価を受けている始末で、

「弱き者」云々という彼の魔法の呪文も、
どう見ても「自己紹介乙」の
ブーメラン発言となってしまっている、
という設定があります。

トランプ自身が、操られている人形でしかない。

そして、トランプの心の弱さを育てたのは
疑いようもなく母親カンナビス自身です。

トランプは幼い時から親に低い評価を受け、
親に見捨てられてきた結果、
一種の愛着障害と無力感に
苛まれているわけですね。

「ヘル朝鮮」

などとも自虐される現代の韓国社会で、
若い世代を覆い尽くしつつある無力感を
象徴する悲劇的存在が
『ジオット』のジェグンだと思われますが、

それは、われらが『フラワーリングハート』の
トランプ王子にも、何か共通するものが
あるのではないだろうかと、
私は個人的に感じました。

日本でも、表現にまだまだ自由があるうちに
インディーズでも、商業ベースでも、
社会派テーマを取り上げた高品質アニメが
もう少したくさん、作られることを
期待したいものです。

私も、そうした動きを微力ながら
応援して参りたいと思います。

権利の上に眠る者が、
何もせずに保護されることは
あり得ないのですから・・・
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