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2017年06月10日06:23

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国際私法的観点からみた平成23年武富士最高裁判決への疑問

国際私法的観点からみた平成23年武富士最高裁判決への疑問

                 弁護士 岡本 哲

最高裁第2小法廷判決 平成23年2月18日 判例タイムズ 1345号115頁 判例時報1111号 1頁の事案の概要は以下のとおりである。
消費者金融大手の株士会会社武富士(後に経営破綻、消費者被害はほとんどが放置された)の創業者兼代表取締役の長男である上告人(原告・被控訴人)が平成11年に父母から外国法人A社にかかる出資持分の贈与を受けたことにつき所轄税務署長から相続税法(平成15年改正前)1条の2第1号及び2条の2第1項に基づき贈与税1157億円余の決定処分及び無申告加算税173億円余の賦課決定処分の取消を求めたものであり、平成15年改正前は受贈者が日本国内に住所を有することを1条の2第1号で決められていた。
地裁から最高裁までこの住所について日本民法の解釈をおこない、また、租税回避意図を住所決定に関して考慮してよいか争われた。
最高裁では住所は日本民法にてらしてないとされ、上告が理由ありとなった。
日本民法で住所を解した法律構成について疑問を呈している判例評釈は筆者の知る限りない。本稿の存在意義もありそうである、筆者は1条の1は国際税法規程だり国際私法的規程であり、「住所」概念は国際私法的に実質法からはなれて独自に決めることができること、二重課税防止がフォローできている限り日本の住所を認めてよいと思料してよく、最高裁の判旨には疑問があり、結論には反対という立場である。

2 国際私法と実質法
 外国的要素がはいることを渉外的という。国際的な場面は私法・刑法・行政法でも生じる。その場合どの国の法律をどのように決めるかという問題がある。
 法律の適用に関する法律は,私法に関しては国際私法である。国際私法は実質法と異なる性質があり、例えば結婚の場合は当事者の本国法、というようにある法律関係(「結婚」)について連結点(「当事者の国籍」)をさだめ、それによって実質法を決定する。国際私法は実質法とは異なるものであり、その概念は国際私法独自に決定される。例えば日本法には婚約概念が条文上存在しないが、婚約についても「結婚」概念に含ませることが可能である。法律関係の性質決定問題について国際私法自体説が通説・判例となっている。
相続税法は公法であり、国際私法は最狭義では渉外的私法関係に対して内外私法の適用関係を定まる法律であり、適用の準用もありえないのではないか、という問題がある。
通常は私法に付随する民事手続(国際民事訴訟法・国際手続法)も含めて広義の国際私法とされている。公法私法の区別のない英米法(香港法もこれに含まれる)の存在もあり、公法についても国際私法の範囲とする説は有力ではあるが、日本では国際行政法・国際刑法は国際私法ではないとしている。ケーゲル・ニボワイエなど外国でも有力学者が公法も含めた教科書を書いている(山田鐐一「国際私法 新版」有斐閣・2003年16頁以下。
 再狭義の国際私法の場合は双方的抵触規程であり連結点を確定したら内国実質法・外国実質法と関係なく準拠法が決定される。国際刑法・国際行政法の場合は、日本法が適用される範囲のみを決定する一方的抵触規範のかたちで規定される。この差はあるにしても連結点の考え方、法律における交通の円滑化等は国際私法と共通するものであり、同様に関げてよい。
 本稿では、国際私法の適用ではなく国際私法的な考え、準用ということで相続税法1条の2を解釈することになる。

3 判決への疑問 
 判決が実質的に不当であるということは平成23年当時から指摘されていた。
多額の相続税・贈与税を逃れるために外国へ財産を写し、住所を日本にないことにしたうえで贈与されれば課税されなくなる、という租税回避を結局みとめているからである。
 理論面については国際私法的観点がないことが疑問である。
 国際私法的概念が地裁から最高裁でまったく検討されていない。
 さらに、香港法では香港に住所がないことが地裁から最高裁まで認定されていない。
 香港での課税がなかったことは須藤意見からは推測される。須藤意見でも、結論が国民感情に反することは認めている。1条1項が実質法であり、租税法律主義の適用を受けるという前提からきたものである。課税要件ではなく国際私法上の日本法適用要件であれば全く異なることになった。

3 国際私法的住所概念
 住所概念についても日本法の概念を外国法との検討もなく採用している。調査官の技量が問題とされるべきであるが、調査官名はいわゆる民集(最高裁民事判例集)に登載されず、調査官解説も公表されなかったため、わからない。
「住所」についてどのように決定すべきだったか。
 国際私法上の住所についてどのように考えるか国際私法総論の性質決定問題とされるが国際私法説・実質法説・領土法説の対立がかつては存在した。平成11年段階では国際私法学会レベルでは国際私法説が定説となっていた。本件では二重課税をさけるためのっ規程として実質法(本件では香港法と日本法の住所に関する規定)からはなれて住所を定義することになる。二重住所がおきなければ、過去に住所が日本にあった場合は、日本に住所があるとして法適用をしてよいことになる。国際税法的には、1条の1は、国際的二重課税を避けるための準拠法指定ととらえられるからである。
香港にドミサイル(住所)が認められないことについて、日本法で住所を認められるからといってドミサイルが認められるとは限らない。本件ではまず無理である。英米法上のドミサイルは日本のように都道府県市町村の番地レベルで変更されるものではなく、法域単位で指定される。たとえばニューヨーク州かマサチューセッツ州かというものである。そしてドミサイルとするにはそこをhomeとする意思が必要である(山田鐐一「国際私法の研究」有斐閣・1969年・45〜68頁 出口耕自「論点講義 国際私法」法学書院・2015年・62頁)。民主主義国家で市民とは兵士である伝統からして永住の忠誠心があるところがドミサイルのあるところになる。本件ではその後の行動からも永住意思ありとは認定できない。

4 須藤補足意見の明確性への疑問について
適用範囲については困難な問題もあるので上位規範である国際私法・国際租税法については明確性の問題は憲法31条レベルでは生じない。
本裁判例では、むしろ、日本国民から日本国民への贈与に日本の贈与税が課税されることについて要件は明確である。


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