「東京スカイツリー」

もう完成してから何年も経つし
そこからの眺望を眺めるために観光客が大挙して足を運んでいるが
おれはいまだに東京スカイツリーにいったことがない

物見高い江戸っ子だし
高いところが苦手なワケでもない
そのうえスカイツリーの立っているところは
おれの生まれ故郷だ

もっともおれが生まれた時代から
スカイツリー計画が持ち上がるまで
東京都墨田区業平はシケた下町の貧民窟で
自慢できるような場所ではなかったが

とにかく当然訪れるべき場所におれはいっていないワケだ

行かないのにはハッキリした理由はない

漠然とした違和感があるだけだ

東京タワーは完成してすぐにいった
あの感動はいまでも覚えている

サンシャイン６０も横浜ランドマークタワーにも
新宿副都心の高層ビル群にもすべてのぼった

時代時代に次々出来ていく高層建造物にはほとんどのぼった

しかし東京スカイツリーにはのぼる気がしない

東京スカイツリーは都内各所から見える
とくに上野・浅草あたりからは確実に見える
周辺に高い建物が少ないせいか
ものすごく目立つ

東武鉄道で浅草を出ると
普通の姿勢では見えないほど（見上げなければならない）の角度で東京スカイツリーが立っている
しかし
周囲の建物はシケた下町のままで
多少整理はされてはいるが
おれの生誕地のままそれほど変わっていない

そこに違和感をかんじる

ふとむかしのことを思い出す
横浜にマリンタワーが立ったときの違和感
京都に毒キノコみたいな京都タワーが立ったときのアンマッチさ
いずれ消えてしまう違和感だとは判っていながらも
見るたびに「なぜこんなものを」とかんじる奇妙な気持ち

それが東京スカイツリーにはある

おれの友だちは全員が似たような下町生まれの下町育ちだが
ひとりもスカイツリーにいったことがない
そして口をそろえていう
「あんなののぼる気にもならねえよ」

もう死ぬまでいかないんだろうなぁと思う