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2017年04月06日08:07

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◆北陸新幹線「東北とひと味違う」駅前の開拓術  開業から2年「特需」が一段落した信越の今

◆ 北陸新幹線「東北とひと味違う」駅前の開拓術  開業から2年「特需」が一段落した信越の今

【東洋経済オンライン】 04/06
櫛引 素夫:青森大学教授・地域ジャーナリスト・専門地域調査士




 北海道新幹線の開業から1年、北陸新幹線の開業から2年が過ぎた。

どちらの沿線も「開業特需」が一段落し、新たな「新幹線時代」の姿が見えつつある。

両路線とも、筆者は沿線事情を追い切れていないが、2月下旬、真冬の長野県飯山市と新潟県上越市を訪れて、「信越の素顔」に接する機会があった。

そして、開業対策の深化や、ビッグデータ活用の動きが起きていることを知った。

春の節目の沿線模様を点描する。





● 「かまくら」の並ぶ飯山駅前


 真冬の飯山市は、すっぽりと雪に覆われていた。

過去何度かの訪問は夏から秋だったので、筆者にとっては初めて目にする「雪国・北信濃」らしい景観だ。

JR飯山駅前には「かまくら」がいくつか並んでいた。

直前の2月11、12日に開かれた「第35回いいやま雪まつり」と「第17回かまくら祭り」のPRの名残だ。

ともに、「雪と寺のまち」を掲げる同市を代表するイベントで、100体以上の「雪見灯籠」や市民手作りの大型雪像が市内に作られていたという。



 かまくらの中にはベンチとテーブルがあり、寒いながらもくつろげるようになっていた。

そして、5月の大型連休に開かれる「いいやま菜の花まつり」のポスターが。

真っ白なかまくらの中を彩る、鮮やかな黄色い菜の花の写真から、「春にまた会いましょう」という、控えめながら真っすぐなメッセージが伝わってきた。



 地元の人が「この時期にしては珍しい」という、重く湿った雪が降りしきる中、駅前で写真を撮り歩く。

乗降客の何割かはスノーボードや大きなバッグを抱えた外国人で、彼らが乗り込むタクシーはSUVタイプ。

野沢温泉、戸狩温泉、県境を挟んだ新潟県妙高市の赤倉温泉などのスキー場に囲まれ、冬季のアクティビティが観光の柱という、同駅らしい光景だ。



 同じ豪雪地帯・青森市や東北地方との差異を身にしみて感じた。

東北新幹線・新青森駅前は、産直市「あおもりマルシェ」の誕生の舞台となったが、「何もない」と嘆きや揶揄を誘いつつも、まちを挙げての「見せ方、使い方」の議論は今なお空白のままだ。

また東方地方のインバウンド観光客数は、最近増えているとはいえ、国内最少の「真空地帯」と評される水準にある。

何より、国内客も含めて、冬季の観光客の落ち込みが、解けない宿題として残り続けている。





● 「列車の待ち時間」を楽しんでもらう


 飯山市は県内の近隣市町村、妙高市とともに「信越9市町村広域観光連携会議」を構成する。

同会議は「信越自然郷」の名をブランドに掲げ、また、広域観光事業を推進する「DMO候補法人」として、一般財団法人・信州いいやま観光局を運営している。

さらに、飯山市が設置した飯山駅観光交流センター内の施設のうち、「信越自然郷飯山駅観光案内所」と、「信越自然郷アクティビティセンター」については、信州いいやま観光局が指定管理受託者となっている。



 雪のない「グリーンシーズン」にはテントやバッグ、カヌーがアクティビティセンターの入り口を飾っていたが、今回の訪問時は真冬とあって、雪上用の「ファットバイク」のレンタサイクルが英語POP付きで並び、白人男性が興味深げに眺めていた。

30分500円と手頃な値段だ。

しかし、残念ながら筆者には試す時間がなかった。



 飯山駅に停車する北陸新幹線は、各駅停車タイプの「はくたか」のみ、しかも上下26本だけで、次の列車まで2時間ほど間が空く時間帯もある。

「駅での待ち時間が長くなる分、この自転車を借りて、雪の中で地域を楽しんでくださっているお客さまも少なくないですよ」と、スタッフの中田智子さんが教えてくれた。



 停車する列車本数の少なさを嘆くよりも「時間をどう有効に、印象に残る体験に使ってもらえるか」と考え、プランを提示する視点は、ほかの小さな新幹線駅、あるいは長距離の移動を伴う旅にも通底するだろう。

駅前の「空白」に向き合う視点も、同様ではないか。



 いただいた中田さんの名刺には「地域おこし協力隊!!」の肩書があった。

やはり、地域おこし協力隊員として北海道・木古内町に入り、北海道新幹線開業と同時に「道の駅 みそぎの郷 きこない」の観光コンシェルジュとなった浅見尚資さんを思い出す。



 整備新幹線の沿線で、このような仕組みを組み合わせて使いこなせている事例は、どれぐらいあるのだろう。

人口減少・高齢社会に向き合うには、「ない物ねだり」よりも、既存の制度やリソースを最大限に活用する「連立方程式」を編み出す知恵と、そこへたどり着く対話の仕組みが、よほど重要ではないか……と、頭に降り積もる雪を振り払いながら考え込んだ。





● Wi-Fi使い観光客の流動分析


 アクティビティセンターに隣接する観光交流センターで、副所長の大西宏志さんにお話を伺うことができた。

最近まで飯山市や周辺の観光とまちづくりにかかわり、本連載でも紹介した木村宏さんのバトンを受け継ぐ1人だ。

木村さんは今、北海道大学観光学高等研究センターの特任教授に転じている。



 大西さんの出身地や出身大学をめぐって、意外な接点があることを互いに驚きつつ、極めて興味深かったのが、ビッグデータを活用した観光客の流動調査の話題だった。

「信越自然郷」の2016年度事業として、Wi-Fiによる観光客の流動のビッグデータ分析が進んでいるのだという。



 10月から飯山駅、市内の斑尾高原、野沢温泉村、隣接する長野県山ノ内町の湯田中駅、赤倉温泉の5カ所に機器を設置し、Wi-Fiのスイッチが入っているスマートフォンを対象にして、数値を計測中だ。

所有者の国籍や移動状況も分析可能という。

さらに、携帯電話会社の統計システムを活用した来訪者調査と、来訪者への日本人・外国人別のアンケートを加えて、3本立てで、観光客の流動と意識を立体的に把握しようと試みている。



 「とかく飯山駅の利用者数が話題になることが多いのですが、駅利用者の実態や内訳が、地域にどんな影響を及ぼしているか、あまり議論がなされない」(大西さん)という実態に対応して、今後の対応をより広く精密に検討するためデータを集めている。

広域観光の核となっている飯山市として、周辺市町村に対する基礎的な説明資料ともなる。



 新幹線開業に際しては、飯山駅に限らず、特定区間や駅利用者の動向だけが注目されることが多かった。

これはもちろん、実際に公表されたり、入手可能なデータが少ないためだ。

しかし、北陸信越運輸局(新潟市)が実施した、北陸新幹線開業前後でのビッグデータを使った分析が端緒となり、各地に広がり始めている。

従来の、極めて断片的な「新幹線利用者数」や「在来線当時との比較」、さらには観光スポットの入込数といった指標に比べれば、X線撮影とMRIの差異に匹敵するほどの「解像度」の差がある。

データの公表が待ち遠しい。



 飯山市は人口2万人余り、長野県で最北、かつ人口最少の市だ。

観光に今後の活路を見いだしつつ、今後の地域づくりについては、まだ模索も続いている。

2017年3月7日付の日本経済新聞(電子版)は、年末年始と1〜2月の週末における飯山駅の新幹線降車人数が、前年より12%増えたことを伝える一方、駅前のリゾートホテル計画が頓挫したこと、飯山市の中心部は素通りされていること、地元で2次交通など生活者視点からの施策の必要性があらためて確認されたことを伝えている。



 「企業進出が思うに任せない中、私たちのエリアは、まずは観光という視点で、いかに通年で、既存のお客さまとインバウンドなど新規のお客さまに来訪いただき、滞在していただけるかを考えなければ。 そのためのサービスや商品、空間を提供していく必要性を実感しています」と大西さんは語る。



 整備新幹線開業で、最も効果が期待され、また、最もわかりやすい指標は「観光」関連の現象や数値だ。

とはいえ、地元に本当に必要なのは「持続可能性や創造性がどれだけ引き出されたか」という要素だろう。

大西さんの言葉にあった「空間の提供」というキーワードに着目しつつ、今後の信越自然郷の動きを追っていこうと思った。





● 拡張続くコンテナ商店街


 短い滞在を終え、11分の「はくたか」乗車で県境を越えて、隣の新潟県・上越妙高駅に着いた。2016年7月、コンパクトながら存在感の大きさに驚いたコンテナ商店街「フルサット」は、さらに成長を遂げようとしていた。



 「1棟で始まったフルサットは現在、8棟。 さらに11棟に拡張します。 雪室食材を使ったスイーツショップなどが入居する構想もあります」。

運営する観光コンサルティング会社・北信越地域資源研究所(上越市)の代表取締役、平原匡さんの顔がほころぶ。



 近隣の十日市町にあるピザ店の予約限定販売、カレーショップの移動販売車の出店、2月に始まった「プレミアムフライデー」に対応した企画などを試みる一方、地元アーティストによる写真展やイラスト展も開催し、「地域社会への感度」を上げる取り組みを絶え間なく展開してきた。



 上越市と上越商工会議所が、北陸新幹線開業2周年のイベントやセレモニーを見送る中、3月18、19日には東京のクリエーティブ企業と連携して、「フルサット市ウィズ・プレイマルシェ」を開催した。

地元と県内各地に加え、富山県高岡市、さらに東京都から43店舗が出店。

予想を大きく上回る6600人が来場し、駐車場から車があふれて、「イベント時の駐車場確保」という新たな課題も浮上した。



 この来場者数も、実はビッグデータの技術で推計した数字だ。

フルサットが利用しているNTT東日本新潟支店のオフィスWi-Fiサービス「ギガらくWi-Fi」のビジネスサポート機能を活用して算出した。

フルサットが提供する無線LANを使ったユーザーの計測数を基に、携帯電話やスマートフォンの普及率、インターネット利用率などで補正・推計した人数だという。





● 周遊パターンの変化に期待


 上越妙高駅前は開業以降、フルサットが孤軍奮闘する状態だったが、地元紙などの報道によれば、東横インやアパグループのホテル開業が決まった。

地元企業による温浴施設や賃貸オフィス、飲食店ビルも建設予定で、フルサットから程遠くない場所に、温泉掘削用の大きな鉄塔が立っている。

区画整理地域の7割の利用メドが立ったという。



 「ここにホテル群ができれば、広域観光客の周遊パターンが変わる可能性がある。 これまで、特に西日本から信越観光のために移動してくる外国人にとって、上越市は宿泊の選択肢に入っていなかった。 しかし、駅前にホテルができることによって、『まず上越妙高駅前で1泊』という流れができるのでは」と平原さんは期待を込める。



 思いがけず、平原さんからフルサットのスタッフジャンパーをプレゼントされた後、上越市議会に向かった。

今回の訪問はもともと、同市議会の依頼による、北陸新幹線の課題と可能性をさぐる講演が目的だった。

青森市から締めていった北海道新幹線デザインのマフラーと、フルサットのジャンパーを身にまとって会場入りしてしまい、居並ぶ議員の皆さんの目には、いささか異様に映ったようだ。



 それでも、筆者が提示した「脱・『昭和の発想』」や「人口減少・高齢社会の再デザイン」という視点は、何人かの議員には届いたようで、ブログ等で好意的に取り上げていただいた。

その後、飯山駅へ視察に出向き、市議会の常任委員会で問題提起した議員もおられた、と上越市内の方々から連絡をいただいた。

また、3月14日の開業2周年に合わせて、地元紙・新潟日報が組んだ特集紙面には、筆者のインタビューが掲載された。



 引き続き、北陸新幹線沿線と北海道新幹線沿線を対比させながら、ウォッチと提言を続けていきたい。




      ◇◇◇

櫛引 素夫(くしびき もとお)
青森大学教授・地域ジャーナリスト・専門地域調査士

1962年青森市生まれ。
東奥日報記者を経て2013年より現職。
東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。
整備新幹線をテーマに研究活動を行う。
記事一覧 http://toyokeizai.net/category/ChangeCityOfftheShinkansen

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