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2017年04月04日19:14

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◆クロ確定の“顧客”に尽くす弁護人の「胸の内・腹の内」

◆ クロ確定の“顧客”に尽くす弁護人の「胸の内・腹の内」

【PRESIDENT Online】 04/04
コラムニスト:北尾トロ




● 極悪の被告人に従う弁護人「それが仕事ですから」


 裁判における刑事弁護人は、被告人の権利と利益を守るため、被告人にとって有利な事情を主張・立証する。



 客観的に見て「被告人以外に犯人はいない」と思えるような事件で、刑事弁護人が被告人と会って事情を聴くときに「勝ち目はない」 「認めるほうがいい」と説得することはあるとしても、いざ裁判となれば、被告人の希望に沿った弁護を行うのだ。



 その立場は徹底して代理人であり、弁護人自身の見解が求められることはない。



 以前、ある弁護士に、どう考えても有罪だと思える被告人を「無罪である」と弁護するのは虚しくないかと質問したら「それが仕事ですから」と即座に返されたことがある。



 弁護人は被告人を、こう説得するかもしれない。

悪あがきするより潔く罪を認めるほうが情状酌量されやすく、有罪になった場合の量刑も軽くなる、と。

しかし、被告人がどうしても無罪を主張すると言い張れば、弁護人はそれに従うのが職務だ。

そして、無罪にはならないとしても、どうすれば少しでも量刑が軽くなるかと頭を切り替え、与えられた役割を果たすのである。



 検察が揃えた、有罪を示す証拠の数々を前に、負けると知りながらも弁護人は言う。



 「被告人が被害者と会い、もみ合った末、被害者が命を落としたことは事実ですが、被告人は不意に殴りかかられ、そばにあった刃物を反射的に手にして防ごうとしただけです。 殺意などあるわけがなく、正当防衛を主張します。 被告人は無罪です」



 この例はまだいいほうで、よくある窃盗事件などでは無理がありすぎるやりとりも繰り広げられる。

しらじらしさ満点の被告人質問を再現してみよう。





● 腕利き弁護士は「7掛け」の量刑を目指す



▼とある窃盗事件の被告人質問


弁護人(以下、弁)

 「バッグの中に衣料品その他18点が入っていたことは認めるが、故意にやったのではなく、レジで精算するつもりでいたんですね」


被告人(以下、被)

 「その通りです」




 「店の外に出たところで警備員から声をかけられましたが、精算するのを忘れていただけで支払う意思はあった?」




 「はい。お金は持っていましたから。 警備員にもそう言いましたが信じてもらえず、警察に突き出されました」



人差し指普通、信じないってexclamation





 「衣料品のタグがポケットに入っていたのはなぜですか」




 「無意識に外したとしか……」




 「タグを捨てようと思えばトイレに行くこともできたのに、そのまま店を出たのですね」



人差し指おいおい、どう考えても確信犯だろexclamation



 傍聴経験がまだ浅かった頃には違和感のあった弁護人の言い分も、それが代理人として当然の仕事だと理解できてからは平常心で聴くことができるようになった。



 技術が問われるのは、被告人が罪を認めている場合だ。



 いかにして情状酌量の余地を増やし、執行猶予付き判決に持ち込むか。

実刑なら、年数を減らすか。

量刑にはなんとなくの相場があって、検察の求刑が懲役10年なら判決は7年、5年なら3〜4年というように、求刑の7掛けくらいの判決に落ち着くことが多い。



 執行猶予を取れれば文句なし、実刑判決でも、10年が5年になるなど、相場を下回ったときは依頼者(被告人)に実質的な利益をもたらしたことになる。



 求刑から大幅減の判決を受けた被告人が、法廷を出ていくとき、弁護人に深々と頭を下げたり、執行猶予付き判決で済んだ被告人が、閉廷後、涙ながらに礼を言ったりするのは珍しい光景ではない。

弁護人は笑顔で受け止めつつ、あくまでクールに「良かったですね」 「しっかり更生してください」で終わらせ、いつまでもベタベタしない。



 腕のいい弁護人に出会うたび、プロだなと思う。



 土俵際に追い込まれた人の味方になり、減刑という結果を出す。

これはやりがいのある仕事だろう。

だが、冷静に考えてみれば、弁護人は職務を果たしただけ。

特別な能力を発揮した訳ではない。

それでも大いに感謝されるのは窮地を救ったからである。



 医者もそうだ。

やるべきことをやり、素早い処置を施したり手術が成功したりすると、患者に大感謝される。

消防士だってレスキュー隊だって同じ。

ピンチを救えば、助けられた人はありがたく思うのだ。





● 無欲で善行をするビジネスパーソンの「落とし穴」


 ビジネスシーンで、大したことをしたと自分では思わないのに、相手のリアクションが思いのほか大きくて困惑した経験はないだろうか。



 (1) 仕事を円滑にすすめるため、上司に新しく導入されたソフトの使い方を教えたら、大げさなほどにホメられた。

 (2) チームで動いているプロジェクトに関係する企業の最新ニュースを知り、同僚と情報を共有しておくため朝一番にメールで伝えたら、「ありがとう、今日の昼飯おごるよ」と返信が来た。

 (3) 収拾がつかなくなってから仕事を振られても困るので、先輩に付き合って数時間残業し、目の前の課題を片付けたら、先輩からの信頼が目に見えて厚くなった。



 どうしてそうなるのか。



 あなたにとっては特別なことではなくても、相手にとって「ど真ん中の直球」だったからである。

それに対してあなたが驚いたのは、「自分のためにした」ことの結果が大きかったからだ。



 (1)のケースなら、あなたは、単に「ソフトの使い方がわからないから代わりにやってくれ」と上司から頼まれるのは嫌だった。

(2)では情報を共有できているチームのほうが、仕事がうまくいくと思った。

(3)では先輩に仕事のペースを乱されたくないから先手を打った。

多少の時間は割いたけれど、そのために努力した自覚はないし、努力してまで協力する気もなかった。



 結果的にそれが相手を助けることになったのは、タイミングが良かったから。

自分の仕事をスムーズにするための行為が、何かで困っている人から、大きな親切ととられたのだ。



 上司はソフトのことがわからず(1)、同僚は仕事先の担当者との話題作りで悩み(2)、先輩は週末の休みを犠牲にして働くしかない、とあきらめかけていた(3)。

彼らから見れば、あなたは苦しいときに頼りになる人。

あなたは自分の能力を普通に出しただけで、感謝という”褒美”を得ることになったのである。



 しかし、人差し指これを読んで「なるほど、そうなのか」と思う人は気をつけたほうがいい。





● 「気遣い」 「気配り」乱発は単なるお人よしか?


 社内で「気が効く」と評価されるのは、こういうことが日常的にできる人なのだ。

彼らは、上司や同僚、部下、取引先の担当者が今求めていることを察知する感度が高く、それに対して自分の能力の中で使える部分を提供しようとする。

本人にしてみれば、無理せずにできそうなことをしているだけなのだが、してもらうほうは大助かりで、実質以上のありがたさを感じてしまう。



 そうやってありがたがられる気配り上級者になるコツは、やはり想像力を磨くこと。

代理人たる弁護人が、被告人の利益を最優先にして振る舞うように、あなたの仕事に関わる人の状況に目配りしておく。

そして、困っているタイミングでサポートをするのだ。



 ただし、欲張ってはならない。



 行動するのは気づいた時だけに限定する。

努力して気配りしても、相手に悟られて、親切の押し売りだと思われたらかなわないではないか。

もしくは、気配りを乱発することで結果的に自分を安売りしまうリスクもある。



 期待すれば裏切られるのが世の常――。

優れた弁護人も、有罪確率99%以上の現実の中で、「それでも被告人は無実です」とがんばっている。

助けるのは後々自分がピンチに陥らないためと割り切り、感謝されようとされまいと、マイペースでやっていく。

それぐらいのバランスがちょうどいいのかもしれない。




      ◇◇◇

北尾 トロ(きたお・とろ)
コラムニスト

1958年福岡県生まれ。
法政大学卒。30歳前に、北尾トロのペンネームで『別冊宝島』『裏モノの本』などに執筆し始める。
『裁判長!これで執行猶予は甘くないすか』(文春文庫)のほか、『キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか』(幻冬舎文庫)などの代表作が。
最新刊に『にゃんくるないさー』(文春文庫)、『ニッポン超越マニア大全』(イースト・プレス文庫ぎんが堂)など。
公式ブログ「全力でスローボールを投げる」(http://kitaotoro.blogspot.jp/)。
記事一覧 http://president.jp/search/author/%E5%8C%97%E5%B0%BE%20%E3%83%88%E3%83%AD
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