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2017年04月01日01:26

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第三のせんたく

寒かったり暖かかったり、桜も咲いているというのに体にはきつい陽気が多いですな。
はやく暖かな陽気になって、真っ白な洗濯物が風に翻る光景が映える季節になってほしいものだ。


ところでこの『洗濯』とはどのような行為だろうか?
家庭での洗濯、お店での洗濯,叩いたり揉んだり踏んだりと、世界中で色々な洗濯方があるが突き詰めて言ってしまえばすべて「液体に汚れを溶かして移す」行為だ。
したがって、洗濯には『水』を使ったものと薬剤を使った『ドライ』クリーニングの二種類があることになる。

実は、最近第三の方法が加わろうとしている。

その名も『サブ』クリーニング。

なんと液体を全く使わない洗濯方法だ。
名前の由来は『サブマリン』。
・・・そう、これは潜水艦で使われることを目的にして研究されていた軍事機密だったのだ。

「なぜ洗濯が軍事機密?」といぶかしがられる方も多いだろうが、このことは実に切迫した要求からきている。
冷戦中期以降、潜水艦の性能は進化を続け、出港してから帰港するまでの期間がどんどん伸び、戦略原潜に至っては、数か月潜ったままというのが当然のスペックになった。
ハッキリ言って、乗組員の肉体的・精神的健康と食料の補給の問題さえなければ年単位で潜り続けられるのが現代の潜水艦なのだ。
しかし、人間の乗務員が乗り込んでいる限り、補給と健康の問題からは逃げられない。
そして洗濯の問題からも。

知っての通り、船では真水が貴重品だ。ましてや潜水艦の中では閉じられたサイクルの中で水を使わなければならないので、洗濯に回せる水はほとんどない。
電力にゆとりのある原子力潜水艦ならば海水から蒸留する余力も大きいのでシャワーや洗濯に使える水も比較的豊かだが、それでも限界がある。
ましてや通常型の潜水艦では、推して知るべしだ。
現在でも海上自衛隊基地近くのタクシーの運転手の話では、任務明けの潜水艦乗りは乗車したときにすぐに匂いでわかるという。

隠密が第一の潜水艦乗りが、陸上に上がったとたんにプンプンと潜水艦乗りだと自己紹介しながら歩き回っているのでは話にならない。
これを問題視した冷戦中のアメリカ・ソ連は水を使わない洗濯方法を研究せざるをえなくなったのだ。
ちなみにドライクリーニングは人体に悪影響のある溶剤を使うため、換気のできない潜水艦に持ち込むことは始めから除外された。


話はいきなり飛ぶが、昔「アンドロメダ病原体」という映画があった。
落下してきた人工衛星に付着してきた未知の病原体にアメリカの片田舎の村が全滅。
全地球に飛散する前に正体を突き止めて対応策を見つける任務を帯びた研究チームの息詰まるドラマ、いやハードSFだった。
この映画の中に出てきた舞台というのが牧場の地下に偽装して設けられた最高レベルの隔離施設を備えた細菌研究所だった(しかも、バイオハザードを防ぐための核の自爆装置付き)。
幾重もの隔離レベルがあり、科学者たちは次の階層に移動するたびより厳重に全身を滅菌していく。
その中の一つに、眼だけはゴーグルで護って全裸で強烈な紫外線のフラッシュを浴びて一瞬で皮膚の薄皮一枚だけを焼き尽くして消毒するというシーンがあった。
当時はUVがどれくらい皮膚の深いところまで届くのか知られてはいなかったとはいえ、筆者はこの描写の新しさに驚いたものだ。

そして、公開当時これを見てひらめいたのが、潜水艦の洗濯技術開発を命じられた技術者だった。
軍事機密とはいえ、兵器そのものの開発ではないため、つけられた予算は限られていた。
あれこれと試し、試行錯誤していたが一向に解決策が見つからず、たまたま公開していたこの映画館に入ったのだ。
「人間相手にはまだ無理だが、衣類にはこの手が使えるかもしれない」と考えた彼は急いで研究施設に戻り、試作品を作り上げた。
『紫外線クリーニング』
実験の結果、これは雑菌を殺し、汚れもある程度分解してくれるので有力視されたが、同時に衣類の色あせ、繊維の劣化も激しく、何より装置の発する熱と消費電力は大変なものだった。
とても潜水艦に載せることはできないと、研究はとん挫したまま冷戦は終結し、何も解決しないまま棚上げされていた。

しかし21世紀になり社会的・環境的需要と技術の進歩から、「アレ」をもう一度考えてみようという機運が再び浮上してきた。


アメリカなどの食糧輸出国では大規模農業による地下水のくみ上げすぎで環境問題が起こり、途上国の人口増加とともに需要が増大の一途をたどる生活用水の問題が深刻なものとなり、社会的に少しでも水の消費の少ない技術が求められるようになった。

一方で「宇宙開発」という最先端のフロンティアも、ここにきて一気にこの技術が求められる事態となった。
アメリカのオバマ大統領が公約し、トランプ大統領が改めてぶち上げた『火星有人探査計画』にこそ、この技術は欠かせないものとして浮上したわけだ。

補給の全く期待できない宇宙船の中で、短くても往復二年半ものあいだ閉じ込められる。
たとえ理性ではわかっていても、密閉された空間の中にたまっていく自分や他人の「匂い」のストレスは想像を絶する。
消臭剤や芳香剤にも限界があるし、何より雑菌の繁殖は極力抑えなければならない。
ましてや宇宙開発で恒常的に基地や入植を考えるのなら、なおさら必要な事なのだ。


冷戦中の技術では、強烈な紫外線ライトで照射するところで終わっていた。
先にも述べたとおり衣服へのダメージが大きく、加えて装置から発する熱や装置自体もバカにならないサイズであったし、何よりも省電力化がネックになっていた。
しかし現在では、さらに強力なレーザー光線が使える。

半導体レーザーの進歩がより少ないエネルギーで強力な紫外線レーザーを作り出し、微細なスキャン技術がピンポイントで汚れに照射し、汚れを瞬時に炭化させることが可能になった。
一通りレーザーが照射したあと叩いて炭素の粉になった汚れを表面から落とすと、次に高圧の不活性ガスのタンクに入れて、繊維の中の汚れを染み出させてガスに溶け込ませる。
これが水も液体溶剤も全く使わない『第三の洗濯』だ。


40年以上前、深刻化する公害や環境問題と人口爆発などが引き金を引く核戦争の恐怖。この二つの問題から人類を救う『第三の選択』として、火星に移住する計画がまことしやかに語られたことがあった。
現在、火星有人探査計画が現実のものになろうとしている。
その時この『第三の洗濯』が困難なミッションの成功の可能性を大きく引き上げてくれることは間違いない。
















という四月一日のでまかせうんちくでした。
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