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2017年03月29日14:35
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◆ 日本良くするため一つ制度を変えるなら 論題委員の提案
◆ 日本良くするため一つ制度を変えるなら 論題委員の提案
【朝日新聞】 03/29 13：28
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座談会に臨んだ（左から）中北さん、木村さん、赤石さん、小熊さん、井手さん、津田さん（遠藤さんは海外出張のためｽｶｲﾌﾟで部分参加）=東京・銀座、門間新弥撮影
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「日本を良くするための提案」
朝日新聞で毎月掲載中の「論壇時評」を支える論壇委員会には、６人の論壇委員がいます。
いつもは実務的な会議をしているメンバーが今回特別に座談会を企画し、時評筆者の歴史学者・小熊英二さんも参加しました。
テーマは「日本を良くするために一つ制度を変えられるとしたら？」。
個性的な提案が並びました。
■ 「保育と幼児教育の予算を拡充する」 赤石千衣子さんの提案
★ 赤石
私の提案は、保育支援と幼児教育の予算を拡充することです。
単に子どものいる家族の負担が軽減されるだけではなく、日本社会全体に良い影響が出るだろうと考えます。
社会学者の柴田悠さんによれば、子育て支援の拡充は労働生産性や経済成長率の向上につながります。
「どうせ少子化で子どもが減るから」という理由で、自治体が保育所の増設に及び腰になっているとも聞きますが、最近の日本総研の試算によれば保育所のニーズは2040年まで今の規模で存在し続ける。
女性が仕事を継続できるようにするためにも、予算拡充が必要です。
先日集会で、子どもを保育園に預けたいのに出来ない母親たちが真剣な表情で参加しているのを見ました。
子どもが保育園に入れないという理由だけで彼女たちに就労できない１年を送らせるのは、あまりにもったいない。
官製失業とも呼ばれています。
女性の継続就労率が上がっていけば、シングルマザーたちの経済的な苦しさも軽減されていくと思います。
★ 小熊
「支援」の中身が議論になりそうです。
「専業主婦を増やすことが最大の子育て支援だ」と言う人もいますよね。
★ 津田大介
社会学者の古市憲寿さんは、保育園の義務教育化を提言していた。
★ 赤石
「０歳は育休だとしても１歳からはみんな保育所に入ることができる」社会にした方がいいと思います。
★ 中北浩爾
高校の授業料無償化や大学生の奨学金よりも子育て支援にもっと注目すべきだと私も思うのですが、なぜそうならないのでしょう。
★ 赤石
自治体が及び腰なのです。
少子化でいずれ保育所ニーズは去ると思っているうちに、ニーズがどんどん増えている。
★ 津田
建てても少子化で無駄になってしまうというコスト論はよく聞きますね。
自民党などの政治家から見れば票にならないという面もあるでしょうが。
★ 小熊
待機児童問題は都市型の問題だが、国会議員は地方から選出されている割合が高い。
また働き方も、妻が専業主婦をしているという議員が多い。
そのため想像力が働きにくい、という問題もあります。
★ 井手英策
大学の授業料収入は３兆円規模です。
そこでさえ無償化の議論が起きている。
だから予算的には赤石さんの意見はもっと大胆に言ってもいいはず。
保育園・幼稚園の自己負担は８千億円規模なのだから。
■ 「生活保護の名称を変える」 井手英策さんの提案
★ 井手 生活保護の呼び名を変えるという提案です。
保護、看護、介護、養護……。
どの言葉にも「守ってやる」「助けてやる」という考え方が含まれていて、それらが行政サービスの言葉に入っている。
この意識を改革することがすごく重要だと思うのです。
一見どうでもいい提案だと思われるかもしれないけれど、言葉やイメージが持つ力はものすごく強いから。
イメージが重要だと最近感じたのは、神奈川県小田原市で生活保護担当職員のジャンパー問題を調べたときです。
衝撃的だったのは、生活保護の担当現場に女性ケースワーカーが異常に少なかったこと。
職員が受給者に悪いヤツというイメージを持ち、「危ない職場だ」と認識されていたのです。
（呼び名については）たとえば「生活基本保障」とかを想定しています。
★ 津田
前例はありますよね。
ドイツが「失業手当�供廚箸いμ松里砲掘�韓国も変えたとか（「国民基礎生活保障」）。
コスト無しで偏見が減ったと聞きます。
★ 木村草太
「安倍晋三記念補助金」とか（笑）。
★ 井手
財政の議論で「国民負担率」という言葉が使われて、みんな「下げればいい」と考えます。
でも呼び名がもし「国民受益率」だったら、みんな「上げたい」と言うのではないか。
言葉の使い方について議論をすることで人々の認識が変わっていく。
そういう効果を期待しています。
★ 赤石
井手さんの提案は、生活保護の捕捉率（受給条件を満たす人々のうち実際に受給している人数の割合）が１５〜２０％と低い現状を変えるための戦略でもあるのですね。
★ 井手
ヨーロッパの「パブリック」という概念を輸入するとき、日本では「公」と翻訳しました。
ただ公は「公共性」を指す言葉ではなく、朝廷や国家、お上などの「支配する主体」を指す言葉だった。
だから「公的な支援」と言うとき、「お上から恩寵（おんちょう）的に与えられるもの」との意味がこめられてしまう。
■ 「移民基金を創設し、地域協議会を設置する」 遠藤乾さんの提案（ｽｶｲﾌﾟで部分参加）
★ 遠藤
外国人労働者の社会への包摂を進めるため、移民基金の創設を提唱します。
併せて移民の集中する地方には、自治体や移民、雇用者などで構成される地域協議会を設置する。
基金は、移民を送り出す国と受け入れる国が共同で設立します。
どちらの国も経済的な利得を得る中、責任が伴うはずです。
具体的には、受け入れ国での住宅環境の整備や医療、語学教育などの支援が考えられる。
地域協議会は、基金の執行にあたって立場の異なる関係者たちが互いに協働する場です。
地元議会や自治会、労組も含めた多様なアクターが集い、包摂推進のために協議する。
私が英国の「ラストベルト」にあたる地域を歩いたとき、そこにはポーランド人などがたくさんいました。
以前から現地に住む人々は、住宅や医療などの基本的インフラへの逼迫（ひっぱく）感と、自分たちの国が自分たちのものでなくなる危機感を抱き、移民たちをその原因であるかのように指さしていた。
受け入れた後の方策を考えないまま人の移動を自由にしたらどういう公共政策的災害が起きるか、の例だと思いました。
受け入れ国の労働力不足を補い、送り出し国に送金をする……。
移民は受け入れ国にも送り出し国にもメリットがあります。
他方で地域にどう定着できるかの問題は、放っておけば関係する地方と個人の努力に押しつけられてしまう。
日本で働く外国人労働者は１００万人を超えました。
だが移民を国内に入れるか否かの議論ばかりが続き、社会にどう包摂するかの議論が不足している。
まずは政府が送り出し国であるフィリピンとの協議や、外国人人口の多い市町村との国内協定づくりを進めていくのがよいでしょう。
★ 小熊
提案のアイデアが、従来の「地域振興」の延長線上に位置づけられてしまう可能性もありそうです。
使途は適切に管理される必要がありますね。
★ 遠藤
基金を使う際の決定権は基本的には、日本の法のもと政府と自治体が共同で担うイメージです。
★ 井手
意地悪な質問かもしれませんが、特定の人のために税金を使うとむしろ分断が深まるのでは？
★ 遠藤
僕は発想が逆でした。
外国人に自ら門戸を開くのに無策のまま放置すると、分断が深まってしまうと思う。
外国人労働者に住宅や医療などを手当てできる仕組みがない場合こそ、多数派側は「何であいつらだけが少ない資源を食っているのだ」と考えてしまうのではないでしょうか。
■ 「最低賃金を時給２５００円に」 小熊英二さんの提案
★ 小熊
社会の分断を解消するための手がかりとして、最低賃金を２５００円に引き上げることを提案します。
日本の場合、正社員とそうでない者、社会保障に包摂されているものとそうでない層との分断が大きい。
乱暴な提案ですが、一つの進め方だと思います。
まず人材流動性が高まります。
アルバイトでも時給２５００円もらえるのなら、死ぬ思いで長時間労働をしてまで正社員の座にしがみつくよりも辞めよう、という人が増える。
ワーク・ライフ・バランスでいったん職を離れてまた戻ることもやりやすくなる。
他方、副作用もあります。
失業率は上がるでしょう。
流通業や飲食業といった生産性の低い分野では、経営が成り立たなくなる企業も増える。
職を探すのは大変になりますが、職の間の流動性は高く、どの職に就いてもそれほど損はしない。
そんな社会への変化が起こり得ます。
★ 遠藤
失業が増えると、また違う分断が生じるとも言えるのでしょうか。
★ 小熊
そこは考え方次第でしょうね。
普遍的な社会保障の一環として考えればベーシックインカムの導入という手法もありますが、日本は「働くこと」が評価される社会なので、最低賃金の方が実現可能性が高いかなと思いました。
★ 津田
劇薬ですよね。
良い面と悪い面が両方ある。
★ 中北
最低賃金を上げる方向には、安倍政権も労働運動も向いている。
どのレベルまで上げるか、どういうスケジュールで上げるかの差でしょう。
この提案の場合、経済がドラスティックな変化に耐えられるかどうか。
★ 小熊
考えられる副作用はたくさんあります。
★ 井手
正社員であることに誇りをもって生きている人が大勢の社会で「正社員でなくても生きていける社会」をつくるのは、ものすごく正社員の反発を食らうのではないかと思う。
★ 小熊
それはある意味、既得権益層ですよね。
★ 井手
転勤をする人がいなくなるでしょうね。
★ 小熊
「日本の生き方」を一撃で変えてしまうことが、この案の狙いです。
■ 「学校から教師の主観が入る評価をなくす」 木村草太さんの提案
★ 木村
提案は、学校から教師の主観が入る評価をなくすことです。
授業中の態度などで評価される部分で、結果的に入試の合否にも影響しています。
いじめ問題を研究する社会学者の内藤朝雄さんによれば、学校には「共同体型」と「教習所型」があり、共同体型が強い地域ではいじめが深刻になるそうです。
日本の学校で、金髪の生徒がいること（津田さんのような人がいること・笑）と九九を覚えられない人がいることのどちらが注意されるかといえば、明らかに金髪の方です。
でも学校は本来、技術を身につける場なのだから、技術点で評価すべきでしょう。
つまり、学校を「ベタベタとした共同体」じゃない存在にしていくことです。
今の日本の学校は学校内での制裁手段をたくさん持っています。
子どもの態度にかかわる面を悪く評価するのもそうだし、法的に問題があることも簡単にできてしまう。
それをなくすには学校の「技術の教習所」化を進めるべきで、その第一歩がこの提案です。
★ 小熊
ドロップアウトする生徒が増えそうです。
ほかの国の学校は確かに共同体的ではなく、全面的に教師が面倒をみることはない。
そうすると確かに学校内での息苦しさはなくなるでしょうが、代わりにドロップアウトが増える。
★ 木村
英検やＴＯＥＩＣにはドロップアウトという概念はありませんよね。
技術が身につけば、どこでどういう手段で勉強していようと構わない。
基本的にそれでいいと考えます。
★ 小熊
小学校では問題は少ないでしょうが、高校になるといろいろと起きてきそうです。
教習所は、来る人は来るけれど来ない人は来ない場所ですから。
★ 木村
学校が何か別の機能を果たしている、ということですよね。
その機能がポジティブに評価できるものなのかどうか。
★ 小熊
旧来の学校が危機に陥った1970年代に、地域社会は学校が強制的に秩序維持することを期待した。
部活動や厳しい校則など本来学校がやるべきではないことが増えた。
秩序の立て直しに一応成功し、「日本の学校はドロップアウトが少ない」と米国の人が評価したりもしたが、弊害も生み、８０年代の管理教育批判につながる。
現在では実態に合わず形骸化しているので、木村さんの提案には基本的に賛成です。
★ 津田
一番受け入れづらいのは教師でしょうね。
★ 木村
そうですね。
既得権の問題です。
★ 井手
教習所だとすると、学校に来なくてもよくなるわけですよね。
そうすると金持ちの子は、学校に来ず塾に行ってどんどん成績が伸びるようになる。
★ 木村
伸びる人がいることはいいことです。
金持ちだけ伸びるのが問題ならば、バウチャー（金券）を支給するなどして、行きたい人が塾に行ける環境をつくればいい。
★ 中北
色々な人を一緒に受け入れる「平準化」の機能をなくしていいかどうかは、気になります。
■ 「『地域おこし企業人』派遣をＮＰＯにも」 津田大介さんの提案
★ 津田
大企業が従業員を地方自治体に派遣でき、受け入れるための経費支援を政府がするのが、総務省の「地域おこし企業人」制度です。
ただ、殆ど利用されていない。
そこで目的と派遣先を拡張し、保育支援やシングルマザー支援などの役割を担っている各地のＮＰＯにも、企業が社員を派遣できるようにすることが、僕の提案です。
森友学園問題を見ていると、政と官には期待できないと感じる。
僕の発想は、「公」の分野に民の力を資源配分することです。
まず、資金や担い手やマネジメント能力が不足しているというＮＰＯの課題が解決できます。
企業は人材育成もでき、ノウハウを持ち帰ることもできる。
★ 小熊
遠隔地に行きたい人は少なそう。
東京圏のＮＰＯになら行きたいが、転居してまで行きたいかという問題です。
いい提案ですが、遠隔地の地域振興にはあまり貢献しないのでは？
★ 津田
遠隔地に行くケースには支援額を１００万円増やす方法もあります。
★ 井手
総務省には、都会の人が地方自治体から委嘱を受け、転居し地域で生活しながら地域協力活動をする「地域おこし協力隊」という制度もあり、大ヒットしています。
制度上は一定期間の滞在を想定していますが、実際にはその後も地域に定着する人が少なくない。
その点、大企業から地方のＮＰＯに出る場合は、おそらく終了後はまた都会に戻ってきてしまうので、効果は限定的なのでは？
★ 津田
水が合えばそのまま転職する人が出てくるかも、と思います。
★ 中北
社員が戻ってこず行ったきりになってしまうと、企業側に派遣するメリットはあるでしょうか。
★ 津田
人材交流が起きたり販路を開拓できたり。
★ 赤石
ＣＳＲ（企業の社会的責任）になり、企業イメージが向上するとか。
★ 中北
企業にメリットがあるとすると、逆にＮＰＯが企業に引っ張られる危険も出てくるのでは？
★ 津田
非営利のＮＰＯが特定の企業と結びつきが強くなる問題ですね。
そこには何かしらの限定をかける必要があるでしょう。
★ 小熊
その弊害があっても、やった方がいい。
ただし私の知る限り、様々な格差を緩和することに成功した国はあるけれど、地域間格差についての明確な成功例は知りません。
■ 「政党交付金を廃止し、個人献金を促す」 中北浩爾さんの提案
★ 中北
政党交付金を廃止し、それを財源として、政党への個人献金を促進させる税制を導入することを提案します。
いま政党は、党費を払う党員や献金を集めなくても国政選挙に勝ちさえすれば、多額の政党交付金を得られます。
この制度では、政党は選挙至上主義に傾きやすく、無党派層の増加や投票率の低下も進みやすい。
無党派層が熱狂的に動員された選挙で極端に政治が変わるか、分厚い支持基盤を持つ自民・公明ブロックが低投票率のもとで勝つかという「熱狂と停滞の二者択一」しかない状況に陥っています。
そこから抜け出すための提案です。
政党交付金の代わりに、寄付した際の税額控除を大幅に拡大すれば、個人献金が促されて政党との日常的なつながりが生まれ、政治への関心も高まるはずです。
なお、１００％の税額控除の場合、上限額は２千円から５千円を想定しています。
★ 小熊
面白いですね。
ただ短期に限って見れば、自民党と公明党と共産党以外の政党が壊滅するという可能性が予測されます。
★ 中北
確かに、民進党にわざわざ献金しようという個人があまりいない可能性はある。
でもそれなら、そういう政党でしかないということです。
地道な日常活動が必要なのです。
民進党の今の苦境は、まさにその欠如が一因になっています。
支持基盤が弱く、「風」任せから抜け出せない。
★ 木村
中北さんは以前、バウチャー制度を提唱しましたね。
政党に交付金を渡す代わりに有権者にバウチャーを配り、それを有権者が政党に投じる。
★ 中北
控除よりバウチャーの方が有権者間の平等性は高いけれど、制度が煩雑になるデメリットがある。
★ 赤石
格差を縮める方向に作用するでしょうか。
★ 中北
しないでしょう。
★ 井手
逆進的ですよね。
★ 中北
はい。
だからその点ではバウチャーを配った方がよいとも言えます。
★ 木村
危惧するのは、誰が何党の支持者なのか簡単に調査できることです。
★ 中北
ただ今でも政党への寄付には一定の控除があって、確定申告の際に提示しています。
★ 小熊
支持政党がわかることがマイナスイメージになる社会の方が本来おかしいのですよね。
★ 中北
政党にコミットするのはおかしなことだ、無党派層がいいのだ、ということが支配的言説になっている。
その点を変えない限り、政党政治は機能しないのではないでしょうか。
■ 終わりに
★ 小熊
今日の討議全体を通じて思ったことは、ある時期以降の「日本社会の特色」と思われていたもの（その多くは高度成長期以降のものです）を変えよう、という意見が多かったことです。
失うものが多少あっても変えるという決意が共通して感じられました。
マイナスを怖がっていると何の改革もできないという地点にきている。
改革によるマイナスは弱者に行くことが多い。
そのことをよく意識している方々からも今回、「多少の弊害はあっても変えなければ」という意見が出てきた。
そこが２０１７年という時代なのかなと感じました。
(構成 藤井裕介、赤田康和、編集委員・塩倉裕)
【朝日新聞】 03/29 13：28
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座談会に臨んだ（左から）中北さん、木村さん、赤石さん、小熊さん、井手さん、津田さん（遠藤さんは海外出張のためｽｶｲﾌﾟで部分参加）=東京・銀座、門間新弥撮影
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「日本を良くするための提案」
朝日新聞で毎月掲載中の「論壇時評」を支える論壇委員会には、６人の論壇委員がいます。
いつもは実務的な会議をしているメンバーが今回特別に座談会を企画し、時評筆者の歴史学者・小熊英二さんも参加しました。
テーマは「日本を良くするために一つ制度を変えられるとしたら？」。
個性的な提案が並びました。
■ 「保育と幼児教育の予算を拡充する」 赤石千衣子さんの提案
★ 赤石
私の提案は、保育支援と幼児教育の予算を拡充することです。
単に子どものいる家族の負担が軽減されるだけではなく、日本社会全体に良い影響が出るだろうと考えます。
社会学者の柴田悠さんによれば、子育て支援の拡充は労働生産性や経済成長率の向上につながります。
「どうせ少子化で子どもが減るから」という理由で、自治体が保育所の増設に及び腰になっているとも聞きますが、最近の日本総研の試算によれば保育所のニーズは2040年まで今の規模で存在し続ける。
女性が仕事を継続できるようにするためにも、予算拡充が必要です。
先日集会で、子どもを保育園に預けたいのに出来ない母親たちが真剣な表情で参加しているのを見ました。
子どもが保育園に入れないという理由だけで彼女たちに就労できない１年を送らせるのは、あまりにもったいない。
官製失業とも呼ばれています。
女性の継続就労率が上がっていけば、シングルマザーたちの経済的な苦しさも軽減されていくと思います。
★ 小熊
「支援」の中身が議論になりそうです。
「専業主婦を増やすことが最大の子育て支援だ」と言う人もいますよね。
★ 津田大介
社会学者の古市憲寿さんは、保育園の義務教育化を提言していた。
★ 赤石
「０歳は育休だとしても１歳からはみんな保育所に入ることができる」社会にした方がいいと思います。
★ 中北浩爾
高校の授業料無償化や大学生の奨学金よりも子育て支援にもっと注目すべきだと私も思うのですが、なぜそうならないのでしょう。
★ 赤石
自治体が及び腰なのです。
少子化でいずれ保育所ニーズは去ると思っているうちに、ニーズがどんどん増えている。
★ 津田
建てても少子化で無駄になってしまうというコスト論はよく聞きますね。
自民党などの政治家から見れば票にならないという面もあるでしょうが。
★ 小熊
待機児童問題は都市型の問題だが、国会議員は地方から選出されている割合が高い。
また働き方も、妻が専業主婦をしているという議員が多い。
そのため想像力が働きにくい、という問題もあります。
★ 井手英策
大学の授業料収入は３兆円規模です。
そこでさえ無償化の議論が起きている。
だから予算的には赤石さんの意見はもっと大胆に言ってもいいはず。
保育園・幼稚園の自己負担は８千億円規模なのだから。
■ 「生活保護の名称を変える」 井手英策さんの提案
★ 井手 生活保護の呼び名を変えるという提案です。
保護、看護、介護、養護……。
どの言葉にも「守ってやる」「助けてやる」という考え方が含まれていて、それらが行政サービスの言葉に入っている。
この意識を改革することがすごく重要だと思うのです。
一見どうでもいい提案だと思われるかもしれないけれど、言葉やイメージが持つ力はものすごく強いから。
イメージが重要だと最近感じたのは、神奈川県小田原市で生活保護担当職員のジャンパー問題を調べたときです。
衝撃的だったのは、生活保護の担当現場に女性ケースワーカーが異常に少なかったこと。
職員が受給者に悪いヤツというイメージを持ち、「危ない職場だ」と認識されていたのです。
（呼び名については）たとえば「生活基本保障」とかを想定しています。
★ 津田
前例はありますよね。
ドイツが「失業手当�供廚箸いμ松里砲掘�韓国も変えたとか（「国民基礎生活保障」）。
コスト無しで偏見が減ったと聞きます。
★ 木村草太
「安倍晋三記念補助金」とか（笑）。
★ 井手
財政の議論で「国民負担率」という言葉が使われて、みんな「下げればいい」と考えます。
でも呼び名がもし「国民受益率」だったら、みんな「上げたい」と言うのではないか。
言葉の使い方について議論をすることで人々の認識が変わっていく。
そういう効果を期待しています。
★ 赤石
井手さんの提案は、生活保護の捕捉率（受給条件を満たす人々のうち実際に受給している人数の割合）が１５〜２０％と低い現状を変えるための戦略でもあるのですね。
★ 井手
ヨーロッパの「パブリック」という概念を輸入するとき、日本では「公」と翻訳しました。
ただ公は「公共性」を指す言葉ではなく、朝廷や国家、お上などの「支配する主体」を指す言葉だった。
だから「公的な支援」と言うとき、「お上から恩寵（おんちょう）的に与えられるもの」との意味がこめられてしまう。
■ 「移民基金を創設し、地域協議会を設置する」 遠藤乾さんの提案（ｽｶｲﾌﾟで部分参加）
★ 遠藤
外国人労働者の社会への包摂を進めるため、移民基金の創設を提唱します。
併せて移民の集中する地方には、自治体や移民、雇用者などで構成される地域協議会を設置する。
基金は、移民を送り出す国と受け入れる国が共同で設立します。
どちらの国も経済的な利得を得る中、責任が伴うはずです。
具体的には、受け入れ国での住宅環境の整備や医療、語学教育などの支援が考えられる。
地域協議会は、基金の執行にあたって立場の異なる関係者たちが互いに協働する場です。
地元議会や自治会、労組も含めた多様なアクターが集い、包摂推進のために協議する。
私が英国の「ラストベルト」にあたる地域を歩いたとき、そこにはポーランド人などがたくさんいました。
以前から現地に住む人々は、住宅や医療などの基本的インフラへの逼迫（ひっぱく）感と、自分たちの国が自分たちのものでなくなる危機感を抱き、移民たちをその原因であるかのように指さしていた。
受け入れた後の方策を考えないまま人の移動を自由にしたらどういう公共政策的災害が起きるか、の例だと思いました。
受け入れ国の労働力不足を補い、送り出し国に送金をする……。
移民は受け入れ国にも送り出し国にもメリットがあります。
他方で地域にどう定着できるかの問題は、放っておけば関係する地方と個人の努力に押しつけられてしまう。
日本で働く外国人労働者は１００万人を超えました。
だが移民を国内に入れるか否かの議論ばかりが続き、社会にどう包摂するかの議論が不足している。
まずは政府が送り出し国であるフィリピンとの協議や、外国人人口の多い市町村との国内協定づくりを進めていくのがよいでしょう。
★ 小熊
提案のアイデアが、従来の「地域振興」の延長線上に位置づけられてしまう可能性もありそうです。
使途は適切に管理される必要がありますね。
★ 遠藤
基金を使う際の決定権は基本的には、日本の法のもと政府と自治体が共同で担うイメージです。
★ 井手
意地悪な質問かもしれませんが、特定の人のために税金を使うとむしろ分断が深まるのでは？
★ 遠藤
僕は発想が逆でした。
外国人に自ら門戸を開くのに無策のまま放置すると、分断が深まってしまうと思う。
外国人労働者に住宅や医療などを手当てできる仕組みがない場合こそ、多数派側は「何であいつらだけが少ない資源を食っているのだ」と考えてしまうのではないでしょうか。
■ 「最低賃金を時給２５００円に」 小熊英二さんの提案
★ 小熊
社会の分断を解消するための手がかりとして、最低賃金を２５００円に引き上げることを提案します。
日本の場合、正社員とそうでない者、社会保障に包摂されているものとそうでない層との分断が大きい。
乱暴な提案ですが、一つの進め方だと思います。
まず人材流動性が高まります。
アルバイトでも時給２５００円もらえるのなら、死ぬ思いで長時間労働をしてまで正社員の座にしがみつくよりも辞めよう、という人が増える。
ワーク・ライフ・バランスでいったん職を離れてまた戻ることもやりやすくなる。
他方、副作用もあります。
失業率は上がるでしょう。
流通業や飲食業といった生産性の低い分野では、経営が成り立たなくなる企業も増える。
職を探すのは大変になりますが、職の間の流動性は高く、どの職に就いてもそれほど損はしない。
そんな社会への変化が起こり得ます。
★ 遠藤
失業が増えると、また違う分断が生じるとも言えるのでしょうか。
★ 小熊
そこは考え方次第でしょうね。
普遍的な社会保障の一環として考えればベーシックインカムの導入という手法もありますが、日本は「働くこと」が評価される社会なので、最低賃金の方が実現可能性が高いかなと思いました。
★ 津田
劇薬ですよね。
良い面と悪い面が両方ある。
★ 中北
最低賃金を上げる方向には、安倍政権も労働運動も向いている。
どのレベルまで上げるか、どういうスケジュールで上げるかの差でしょう。
この提案の場合、経済がドラスティックな変化に耐えられるかどうか。
★ 小熊
考えられる副作用はたくさんあります。
★ 井手
正社員であることに誇りをもって生きている人が大勢の社会で「正社員でなくても生きていける社会」をつくるのは、ものすごく正社員の反発を食らうのではないかと思う。
★ 小熊
それはある意味、既得権益層ですよね。
★ 井手
転勤をする人がいなくなるでしょうね。
★ 小熊
「日本の生き方」を一撃で変えてしまうことが、この案の狙いです。
■ 「学校から教師の主観が入る評価をなくす」 木村草太さんの提案
★ 木村
提案は、学校から教師の主観が入る評価をなくすことです。
授業中の態度などで評価される部分で、結果的に入試の合否にも影響しています。
いじめ問題を研究する社会学者の内藤朝雄さんによれば、学校には「共同体型」と「教習所型」があり、共同体型が強い地域ではいじめが深刻になるそうです。
日本の学校で、金髪の生徒がいること（津田さんのような人がいること・笑）と九九を覚えられない人がいることのどちらが注意されるかといえば、明らかに金髪の方です。
でも学校は本来、技術を身につける場なのだから、技術点で評価すべきでしょう。
つまり、学校を「ベタベタとした共同体」じゃない存在にしていくことです。
今の日本の学校は学校内での制裁手段をたくさん持っています。
子どもの態度にかかわる面を悪く評価するのもそうだし、法的に問題があることも簡単にできてしまう。
それをなくすには学校の「技術の教習所」化を進めるべきで、その第一歩がこの提案です。
★ 小熊
ドロップアウトする生徒が増えそうです。
ほかの国の学校は確かに共同体的ではなく、全面的に教師が面倒をみることはない。
そうすると確かに学校内での息苦しさはなくなるでしょうが、代わりにドロップアウトが増える。
★ 木村
英検やＴＯＥＩＣにはドロップアウトという概念はありませんよね。
技術が身につけば、どこでどういう手段で勉強していようと構わない。
基本的にそれでいいと考えます。
★ 小熊
小学校では問題は少ないでしょうが、高校になるといろいろと起きてきそうです。
教習所は、来る人は来るけれど来ない人は来ない場所ですから。
★ 木村
学校が何か別の機能を果たしている、ということですよね。
その機能がポジティブに評価できるものなのかどうか。
★ 小熊
旧来の学校が危機に陥った1970年代に、地域社会は学校が強制的に秩序維持することを期待した。
部活動や厳しい校則など本来学校がやるべきではないことが増えた。
秩序の立て直しに一応成功し、「日本の学校はドロップアウトが少ない」と米国の人が評価したりもしたが、弊害も生み、８０年代の管理教育批判につながる。
現在では実態に合わず形骸化しているので、木村さんの提案には基本的に賛成です。
★ 津田
一番受け入れづらいのは教師でしょうね。
★ 木村
そうですね。
既得権の問題です。
★ 井手
教習所だとすると、学校に来なくてもよくなるわけですよね。
そうすると金持ちの子は、学校に来ず塾に行ってどんどん成績が伸びるようになる。
★ 木村
伸びる人がいることはいいことです。
金持ちだけ伸びるのが問題ならば、バウチャー（金券）を支給するなどして、行きたい人が塾に行ける環境をつくればいい。
★ 中北
色々な人を一緒に受け入れる「平準化」の機能をなくしていいかどうかは、気になります。
■ 「『地域おこし企業人』派遣をＮＰＯにも」 津田大介さんの提案
★ 津田
大企業が従業員を地方自治体に派遣でき、受け入れるための経費支援を政府がするのが、総務省の「地域おこし企業人」制度です。
ただ、殆ど利用されていない。
そこで目的と派遣先を拡張し、保育支援やシングルマザー支援などの役割を担っている各地のＮＰＯにも、企業が社員を派遣できるようにすることが、僕の提案です。
森友学園問題を見ていると、政と官には期待できないと感じる。
僕の発想は、「公」の分野に民の力を資源配分することです。
まず、資金や担い手やマネジメント能力が不足しているというＮＰＯの課題が解決できます。
企業は人材育成もでき、ノウハウを持ち帰ることもできる。
★ 小熊
遠隔地に行きたい人は少なそう。
東京圏のＮＰＯになら行きたいが、転居してまで行きたいかという問題です。
いい提案ですが、遠隔地の地域振興にはあまり貢献しないのでは？
★ 津田
遠隔地に行くケースには支援額を１００万円増やす方法もあります。
★ 井手
総務省には、都会の人が地方自治体から委嘱を受け、転居し地域で生活しながら地域協力活動をする「地域おこし協力隊」という制度もあり、大ヒットしています。
制度上は一定期間の滞在を想定していますが、実際にはその後も地域に定着する人が少なくない。
その点、大企業から地方のＮＰＯに出る場合は、おそらく終了後はまた都会に戻ってきてしまうので、効果は限定的なのでは？
★ 津田
水が合えばそのまま転職する人が出てくるかも、と思います。
★ 中北
社員が戻ってこず行ったきりになってしまうと、企業側に派遣するメリットはあるでしょうか。
★ 津田
人材交流が起きたり販路を開拓できたり。
★ 赤石
ＣＳＲ（企業の社会的責任）になり、企業イメージが向上するとか。
★ 中北
企業にメリットがあるとすると、逆にＮＰＯが企業に引っ張られる危険も出てくるのでは？
★ 津田
非営利のＮＰＯが特定の企業と結びつきが強くなる問題ですね。
そこには何かしらの限定をかける必要があるでしょう。
★ 小熊
その弊害があっても、やった方がいい。
ただし私の知る限り、様々な格差を緩和することに成功した国はあるけれど、地域間格差についての明確な成功例は知りません。
■ 「政党交付金を廃止し、個人献金を促す」 中北浩爾さんの提案
★ 中北
政党交付金を廃止し、それを財源として、政党への個人献金を促進させる税制を導入することを提案します。
いま政党は、党費を払う党員や献金を集めなくても国政選挙に勝ちさえすれば、多額の政党交付金を得られます。
この制度では、政党は選挙至上主義に傾きやすく、無党派層の増加や投票率の低下も進みやすい。
無党派層が熱狂的に動員された選挙で極端に政治が変わるか、分厚い支持基盤を持つ自民・公明ブロックが低投票率のもとで勝つかという「熱狂と停滞の二者択一」しかない状況に陥っています。
そこから抜け出すための提案です。
政党交付金の代わりに、寄付した際の税額控除を大幅に拡大すれば、個人献金が促されて政党との日常的なつながりが生まれ、政治への関心も高まるはずです。
なお、１００％の税額控除の場合、上限額は２千円から５千円を想定しています。
★ 小熊
面白いですね。
ただ短期に限って見れば、自民党と公明党と共産党以外の政党が壊滅するという可能性が予測されます。
★ 中北
確かに、民進党にわざわざ献金しようという個人があまりいない可能性はある。
でもそれなら、そういう政党でしかないということです。
地道な日常活動が必要なのです。
民進党の今の苦境は、まさにその欠如が一因になっています。
支持基盤が弱く、「風」任せから抜け出せない。
★ 木村
中北さんは以前、バウチャー制度を提唱しましたね。
政党に交付金を渡す代わりに有権者にバウチャーを配り、それを有権者が政党に投じる。
★ 中北
控除よりバウチャーの方が有権者間の平等性は高いけれど、制度が煩雑になるデメリットがある。
★ 赤石
格差を縮める方向に作用するでしょうか。
★ 中北
しないでしょう。
★ 井手
逆進的ですよね。
★ 中北
はい。
だからその点ではバウチャーを配った方がよいとも言えます。
★ 木村
危惧するのは、誰が何党の支持者なのか簡単に調査できることです。
★ 中北
ただ今でも政党への寄付には一定の控除があって、確定申告の際に提示しています。
★ 小熊
支持政党がわかることがマイナスイメージになる社会の方が本来おかしいのですよね。
★ 中北
政党にコミットするのはおかしなことだ、無党派層がいいのだ、ということが支配的言説になっている。
その点を変えない限り、政党政治は機能しないのではないでしょうか。
■ 終わりに
★ 小熊
今日の討議全体を通じて思ったことは、ある時期以降の「日本社会の特色」と思われていたもの（その多くは高度成長期以降のものです）を変えよう、という意見が多かったことです。
失うものが多少あっても変えるという決意が共通して感じられました。
マイナスを怖がっていると何の改革もできないという地点にきている。
改革によるマイナスは弱者に行くことが多い。
そのことをよく意識している方々からも今回、「多少の弊害はあっても変えなければ」という意見が出てきた。
そこが２０１７年という時代なのかなと感じました。
(構成 藤井裕介、赤田康和、編集委員・塩倉裕)
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