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2017年03月24日09:31

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◆ 東京人の知らない名古屋「着席通勤」の実態  快適性と速達性、求められるのはどっち?

◆ 東京人の知らない名古屋「着席通勤」の実態  快適性と速達性、求められるのはどっち?

【東洋経済オンライン】 03/24
大塚 良治:湘北短期大学准教授



 東海旅客鉄道(JR東海)・私鉄・地下鉄が接続する東海地方最大のターミナル、名古屋駅。

1日乗車人員はJRの名古屋駅だけで20万5000人(2015年度・JR東海)にのぼる。

名古屋駅を中心とする旺盛な通勤・通学需要を背景に、JR東海の名古屋エリアでは通勤向け有料列車が各路線で運行されており、速達サービス・着席サービスによる快適通勤を可能としている。



 速達サービスの代表格は東海道新幹線で、在来線では主に特急と「ホームライナー」が快適通勤に対応している。

JR東海の「ホームライナー」は「通勤・通学にゆったり座れる」ことをセールスポイントにしており、全席座席指定制であるにもかかわらず、乗車整理券は320円と安価な料金設定となっている。

また、快速に指定席を設定し、快適通勤に対応している線区もある。



 今回は、平日におけるJR東海名古屋エリアの「ホームライナー」や特急列車などの通勤利用の視察を通して、通勤向け有料列車が高い乗車率を確保するための条件を考察し、それを踏まえて、同エリアでの通勤向け有料列車の利用促進と地域活性化への方策を提案したい。

なお、乗車日はすべて2017年3月4日のダイヤ改正前である。





● 新幹線通勤も多い豊橋−名古屋間


 最初に乗車したのは、早朝の東海道新幹線である。

豊橋駅6時45分発「こだま693号」(列車番号:693A)に乗車するためホームに入ると、既にスーツ姿の人達などで列車を待つ列ができていた。

「こだま693号」が到着しドアが開くと、並んでいた人達が一斉に乗車する。

筆者も5号車普通車自由席に乗車し、着席することができた。



 5号車の乗車率は7割程度。

わずか25分で名古屋駅に到着すると、大量の旅客が次々と下車した。

さっそく改札口へ向かうと、新幹線定期券で改札を通過する旅客が多く見られた。



 続いて、在来線各線の様子を視察した。

JR東海名古屋エリアで通勤向けの有料列車が走るのは、中央本線、東海道本線、関西本線の各線である。



 中央本線においては「ホームライナー瑞浪」が名古屋駅−瑞浪駅間、「ホームライナー中津川」が名古屋駅−中津川駅間で平日通勤時間帯にそれぞれ運行されているほか、「ホームライナー多治見」が平日朝上りのみ多治見駅から名古屋駅まで設定されている。

また、特急「しなの」も通勤時間帯を含む終日、名古屋駅−長野駅間(他駅発着の臨時列車あり)で運行されている。



 今回、中央本線では名古屋17時58分発の「ホームライナー瑞浪1号」瑞浪行き(列車番号:2681M)に乗車した。

一般列車との兼用車両である313系8000番台の3両編成2本を連結した6両による運行で、「ホームライナー」運用時は、片側に3つあるドアのうち中ドアが締切となる。

筆者が乗車したのは1号車である。



 「ホームライナー瑞浪1号」は、中央本線名古屋市内の複数の主要駅に停車し、途中駅からの着席需要に応えている。

名古屋駅から4つ目の大曽根駅(18時12分発)でまとまった乗車があり、この時点での乗車率は約8割に達した。

大曽根駅の次は、名古屋駅から31分の多治見駅に停車。

ここで大量の下車があった。

次の土岐市駅でもまとまった下車があり、名古屋駅から44分で到着するこの列車の終点、瑞浪駅で下車したのは約40人だった。





● 東海道線のライナーはガラガラ


 東海道本線の名古屋駅−岐阜駅・大垣駅間では、通勤・通学利用向けに「ホームライナー大垣」が運行されている。

また、特急「ワイドビューひだ」「しらさぎ」が運行されており、いずれも定期券と料金券の組み合わせでの乗車が可能である。



 この区間では、名古屋20時48分発「ホームライナー大垣1号」大垣行き(列車番号:2981F)1号車グリーン車指定席に乗車した。

西日本旅客鉄道(JR西日本)の特急形電車、683系6両編成による運行である。



 乗車時の「ホームライナー大垣1号」の乗車率はグリーン車・普通車ともに約3割であった。

1号車は最初の停車駅、尾張一宮駅で早くも下車があり、その後は岐阜駅で数人、名古屋駅から34分の大垣駅で下車したのは数人だった。



 この区間では、料金不要の快速・新快速・特別快速でもホームライナーや特急と所要時間の差がほとんどなく、また名古屋駅−岐阜駅間では名鉄名古屋本線と並行するため、この区間のみで完結する有料列車は高い乗車率は見込みにくいのかもしれない。



 関西本線では、特急「ワイドビュー南紀」と快速「みえ」の指定席が快適通勤に対応している。

まず乗車したのは、名古屋19時47分発の特急「ワイドビュー南紀7号」新宮行き(列車番号:3007D)。

この列車は関西本線において、一般的な退勤時間帯に利用できる唯一の特急である。



 車両は特急用のキハ85系ディーゼルカー4両編成で、筆者は4号車普通車自由席に乗車した。

当初の4号車の乗車率は約5割で、最初の停車駅である桑名駅で4号車の旅客の多くが下車した。



 名古屋駅−岐阜駅・大垣駅・多治見駅・四日市駅間などには「定期券用自由席特急回数券」(以下、JR特急回数券)が設定されており、1回当たり310円で特急自由席を利用することができる。

関西本線と並行する近畿日本鉄道(近鉄)名古屋線では特急の通勤利用が盛んだが、近鉄名古屋駅−桑名駅・近鉄四日市駅間の特急料金は510円で、JR特急回数券のほうが安い。



 別のある日、今度は名古屋20時33分発の快速「みえ25号」伊勢市行き(列車番号:2925D)1号車普通車指定席に乗車した。

同列車は通常2両編成で、1号車の半分が指定席となるが、ピーク時などには4両編成で運行され、1号車全席が指定席となる。

この日はキハ75形ディーゼルカー2両編成を2本つないだ4両編成であった。



 1号車の指定席利用者数ベースでみた乗車率は特急より低い3割強で、他に立席が10人強あったが、こちらは最初の停車駅である桑名駅での乗降はなく、次の四日市駅でも3人が下車しただけだった。



 駅での購入では「みえ」の指定席料金は520円(通常期・繁忙期)で、名古屋駅−四日市駅間では近鉄特急料金510円とほぼ同額であるが、津駅以南まで乗り通す場合は近鉄特急料金よりも割安になる。

このため「みえ」の指定席は四日市駅より先まで乗り通す旅客が多いのだろう。





● 速さと都心部での利便性が重要


 今回の一連の視察で浮き彫りになったことは、名古屋エリアでは「速達性」または「都心側途中駅からの着席需要」に応えている列車が高い乗車率を確保していることである。



 「速達性」については、東海道新幹線が圧倒的優位にある。

また、中央本線「ホームライナー瑞浪」「ホームライナー中津川」の所要時間は名古屋駅−多治見駅間で快速よりも6分速い。



 一方、東海道本線の「ホームライナー大垣」や特急列車と、快速・新快速・特別快速の所要時間の差はほぼゼロである。

また、関西本線特急「ワイドビュー南紀」と快速「みえ」の名古屋駅−四日市駅間の所要時間差もごくわずかである。

名古屋エリアの通勤向け有料列車が一定の乗車率を確保するためには、「速達性」は重要な要素であると考えられる。



 一方、「都心側途中駅からの着席需要」については「ホームライナー瑞浪」「ホームライナー中津川」が金山駅、千種駅、鶴舞駅、大曽根駅と中央本線名古屋市内の各駅に停車して旅客をこまめに拾い、乗車率を確保している。

名古屋エリアで都心側の複数主要駅に停車する列車としては、神宮前駅・金山駅・名鉄名古屋駅に停車する名古屋鉄道(名鉄)名古屋本線の快速特急・特急の例がある。



 停車駅を増やすことで乗車率の改善が見込める列車としては、東海道本線の「ホームライナー大垣」を挙げたい。

同列車の運行区間を名古屋より手前の大府駅から大垣駅間とした上で、金山駅を停車駅に追加するのはどうだろうか。

同駅はJR東海道本線・中央本線、名鉄名古屋線、名古屋市営地下鉄名城線・名港線が接続するターミナル駅で、JRの1日乗車人員は6万6000人(2015年度・JR東海)に上る。

金山駅停車により、一定の乗車を見込むことができるだろう。



 快速「みえ」指定席についても、工夫次第で通勤利用を増やせる可能性がある。

名古屋市内へ関西本線で通勤している会社員の井村昌広さん(50)は「『みえ』指定席の通勤利用を普段はあまり見掛けない」と証言した上で、「有料座席として選ばれるためには、リクライニングシートは最低限の条件だ。 特急用車両のキハ85系を改造した上で、キハ75形と連結し、全列車4両編成としてほしい」と要望する。





● 快速「みえ」は全列車4両化を


 沿線住民などから根強い要望のある「みえ」の4両化について、河原田駅−津駅間で同列車の運行ルートとなっている第三セクターの伊勢鉄道は「4両列車が増えると、当社の車両使用料負担が増加してしまうことは事実だ」と明かした上で、「『みえ』の連結両数決定は、JR東海の判断で決定されるため、当社が決定に関与することはない。 ただ、現状は混雑時以外、2両編成で十分に対応できている」と説明する。



 しかし、ゆったりとした車内環境の提供は、並行する近鉄との競争上重要であるはずだ。

そこで、将来キハ75形の更新時期が到来する際に、伊勢鉄道の筆頭株主である三重県など関係自治体の支援を前提として、「みえ」車両の半分を伊勢鉄道の保有車両として購入し、実際の車両管理はJR東海に委託する方法を提案したい。



 車両管理委託料の負担が新たに発生するが、伊勢鉄道にとってはJR東海に支払う車両使用料負担の軽減につながる。

三重県にとっても、伊勢鉄道の持続的運営に向けた支援策として検討に値しよう。



 名古屋エリアの「ホームライナー」や特急の乗車率向上を実現するうえでは、このほかにソフト面の改善策として、これらの列車に携帯電話で乗車できる「チケットレスサービス」導入を挙げたい。

現状では、車掌が乗車整理券や特急券を所持していない旅客に対して発券を行っているが、「チケットレスサービス」を導入することで、車内改札業務の軽減につながる。



 「ホームライナー」や快速「みえ」の同一座席を毎日利用できる「マイシート定期券」なども検討の余地がある。

「マイシート定期券」で特急自由席の利用や「ホームライナー」の指定列車以外の立席利用も認めれば、さらなる効果が見込めるだろう。





● 新幹線通勤者に自治体補助を


 また、東海道新幹線は在来線と比べて所要時間の差が大きく、移動時間短縮の価値が大きい。

豊橋駅−名古屋駅間を新幹線で移動する場合、東海道本線新快速・特別快速、または名鉄名古屋本線快速特急・特急の半分の時間で移動できる。



 例えば、年間240日出勤する場合の新幹線利用による総節約時間は200時間に上る(東海道本線利用と比較し、1乗車あたり25分短縮として計算)。

1日8時間勤務として換算すると、新幹線利用で25日分の出勤時間を節約できることになる。



 同区間JR在来線の1カ月通勤定期は34,100円で、新幹線定期券FREXの1カ月は67,360円、差額は33,260円となる。

新幹線定期券は少々高価ではあるが、1カ月分の休暇を取るのと同じ時間をお金で買える選択肢があると考えることが可能だ。

また、地方自治体も移住・定住を促進する手段として、新幹線で通勤・通学する市民に対して新幹線定期券代の補助を行うことも、検討の余地がある。



 通勤向け有料列車の利用促進に向けて、JR東海と沿線自治体が連携することで、鉄道の利用促進と地方活性化の両方の実現につながる。

沿線の魅力向上のためにも、JR東海には、通勤向け有料列車のポテンシャルを上手に引き出す取り組みを進めてほしいものである。




      ◇◇◇

大塚 良治(おおつか・りょうじ)
湘北短期大学准教授

1974年生まれ。
博士(経営学)。
総合旅行業務取扱管理者。
著書に『「通勤ライナー」はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。
観光系専門学校、大学の非常勤講師を兼務する
記事一覧 http://toyokeizai.net/list/author/%E5%A4%A7%E5%A1%9A_%E8%89%AF%E6%B2%BB
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