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2017年03月21日08:28

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◆ 冠婚葬祭業に蔓延する「個人請負」の深い闇  従業員約7000人のうち正社員はたった32人

◆ 冠婚葬祭業に蔓延する「個人請負」の深い闇  従業員約7000人のうち正社員はたった32人

【東洋経済オンライン】 03/21
風間 直樹:東洋経済 記者



 前もって受け取る掛け金を元手に、葬儀や結婚式などのサービスを提供する全国の「冠婚葬祭互助会」(互助会)。

加入者数(口数)は約2400万、掛け金の総額は2兆4000億円に上り、葬儀市場のシェア5割超を占めるとみられる巨大業界だ。



 最大手は「玉姫殿」で知られ、大阪を本拠に全国展開するベルコ(齋藤斎社長)。

社長が業界団体の会長を務める同社だが、その独特の雇用システムが表面化し、目下波紋を呼んでいる。



 労働組合の結成を理由に解雇されたとして、ベルコの北海道内の代理店で働いていた元従業員二人が、同社に解雇撤回を求め札幌地方裁判所で係争中だ。

この裁判や並行して進む北海道労働委員会の審理の中で明らかとなったのが、同社の徹底した「業務委託契約」の活用だ。





● 経理担当や相談室のスタッフも「個人請負」


 ベルコが昨年7月、監督官庁の経済産業省に提出した報告書によれば、全従業員7128人のうち、正社員はたった32人。

残る7000人超は同社と直接に業務委託契約書を取り交わすか、取り交わした代理店主(支部長)と雇用契約を結んでいる。

ただ原告側によれば、代理店主といっても名ばかりで、雇用される側も実態は業務委託と何ら変わらないという。



 同社の内部資料では、業務委託の対象となっているのは、互助会の会員募集を行う営業職にとどまらない。

葬祭関連だと葬祭所長やホールの館長から施行スタッフまで、冠婚関連でも結婚式場の支配人からフロント担当者まで、すべて業務委託契約を結ぶことになっている。



 それは間接部門の各地の支社でも同様だ。

管理職であるはずの支社長や支社長代理、さらに現場の経理や消費者相談室のスタッフまで、一様に業務委託契約を結んでいる。



 個人が会社と業務委託契約を結び「個人請負」となると、労働基準法など労働法規がいっさい適用されない。

その結果、解雇規制はなく、職を失っても失業保険給付はない。

労働組合を組織して使用者に団体交渉を申し入れることもできない。



 また時間外、休日、深夜労働手当がなく、有給休暇もない。

最低賃金も適用されない。

年金や医療保険もすべて自己負担だ。

ひとたび個人請負となると、パートや派遣などの非正社員に輪をかけた無権利状態に置かれることになる。



 こうした業務委託契約を用いる狙いについて、ベルコは本誌の取材に「係争の解決の観点より好ましくないので、回答は控えさせていただく」としている。

ただ、裁判所等に提出している書面では、

「実際にサービスを提供する立場にある者が、頑張れば頑張るほど収入が増える業務委託契約の形式をとることによってこそ、現場の士気が高まり、よりよいサービスが提供されるという50年来の経験則より、このような形態をとるものであって、何ら労働法規を潜脱する目的などもっていない」

と反論している。





● 個人請負なのに「人事異動」


 これに対して訴訟を提起した元従業員は、「実際は頑張って長く働くほど収入が不安定になりかねない」という。



 代理店は互助会会員を獲得し、ベルコからの成約手数料で経営している。

ただ一度支払われた後でも、解約されると、次の手数料からその半額程度が差し引かれる。

そのため、

「頑張って成果を上げて稼いでも、ベルコで働くかぎり、いつ差し引かれるかわからない。 頑張った分、反動も大きい。これでは生活設計ができない」(元従業員)。



 仮に雇用契約を結んだ労働者を相手に、同様のことを行ったら、「労働基準法の賠償予定の禁止(16条)や賃金全額払いの原則(24条)に抵触する」(原告側代理人の淺野高宏弁護士)という。



 収入が不安定なだけではない。

ベルコの個人請負には「人事異動」がある。

独立した事業主である個人請負に対し、通常、人事異動はありえない。

管理職まで個人請負としている点を含め、契約形式と実態の乖離があるとの原告側の指摘に対し、ベルコは

「どのような名称を使用しようと勝手である。 支社長、経理という名称があるからといって、指揮監督命令系統があるとは限らないし、実際、そのような関係はない」

「(人事異動については)業務受託者と相談して、適宜、業務内容および業務地域を契約により決定している」

などと主張している。



 裁判所に提出された資料では、ベルコは齋藤社長名の「通達」で「人事異動」を「命ず」としている。

元従業員によれば代理店主はたびたび人事異動で入れ替わっていたという。



 業務委託や請負など、当事者間でどういった契約を結んでいたとしても、裁判所や労働委員会で「使用従属性」があると判断されれば、労働法規の適用対象となる。

法政大学の浜村彰教授(労働法)は、

「通達で人事異動を命じているわけだから、これは指揮命令そのもの。 使用従属性が十分認められうるケースだ」

と語る。





● 「ベルコ方式」が互助会業界に蔓延


 戦後に始まった互助会は大型式場を建てたり、テレビCMを打ち出したりする手法で拡大したが、近年は「家族葬」など冠婚葬祭の簡素化が響き、加入者数も頭打ちとなっている。

そうした市場環境の中、この「ベルコ方式」が互助会業界に蔓延している。



 「遺族をだますような仕事に疑問を感じるようになった」。

ベルコとは別の北関東の大手互助会で葬祭館長を務めていた男性(59)はそう振り返る。



 男性は当初、会員獲得の代理店として働いていたが、会社が従来は正社員が担っていた葬祭部門を代理店方式に切り替えたのを機に館長となった。

「いつ仕事が入るかわからず、拘束時間が長い。 まともに残業代を支払ったら大変なことになる。 それで個人請負に切り替えられた」(男性)。



 長時間労働以上に男性を悩ませたのが、互助会のプランに含まれる祭壇や棺をより高額な商品に変更する「ランクアップ」や、プラン外サービスの勧誘を会社から強要されたことだ。

「別途10万円以上かかるエンバーミング(遺体衛生保全)の契約を取ることは事実上ノルマだった。 嫌がる遺族に法律上必要とウソをついてまで、説得することはできなかった」(同)。



 「周囲に請われて独立したが、経営が立ち行かなくなった」。

さらに別の、関西大手互助会の元社員の男性(56)は悔やむ。

男性はこの互助会に新卒で正社員として採用され、主に営業畑を歩んできた。

好景気のときは800万円台の年収を得ていたが、経営者が変わり正社員の仕事は徐々に業務委託に切り替えられていった。



 その結果、全盛期には600人程度だった正社員は数十人まで激減。

「課長や部長など管理職に昇進すると退社し委託契約になることが求められた。 嫌がる社員には不本意な異動をちらつかせて、転換を迫っていた」(別の元社員)。



 男性は転換を断ってきたが、同僚から強く請われ、2007年に葬儀のギフト関連の仕事を請け負うようになった。

当初は順調だったが、会社から不振地域の担当を追加することを求められ、経営が悪化。

昨年、個人破産を余儀なくされた。

「独立といっても新しい客先を開拓できるわけではなく、顧客は元の会社だけ。 無理難題でも受けざるをえなかった」。



 冠婚葬祭業は典型的な労働集約産業。

働き手の疲弊は、消費者のデメリットに直結しかねない。





● 消費者にもシワ寄せ


 国民生活センターに寄せられた互助会に関する苦情・相談件数は、10年連続で3000件を超える。

解約や葬儀費用をめぐるトラブルが多い。



 互助会各社は従来、解約者も応分の負担をしないと、残る会員にその負担がかかるとして、解約時には募集費や管理費、互助会の人件費などを差し引いて返金するという約款を用いてきた。



 だがこうした理屈に納得できない会員も少なくない。

京都の消費者団体や会員などが業界大手のセレマ(京都府、齋藤武雄社長)に解約手数料の返還を求めた裁判では、手数料について定めた契約条項の大部分を無効とする判決が2015年に最高裁で確定した。



 また葬儀費用の「ランクアップ」をめぐっても大阪高裁は2015年、ランクアップを行うには互助会側の適切な説明と消費者の明確な合意が必要との判断を示し、最高裁で確定している。

大手互助会と争い主張が認められた京都府在住の男性(61)は、

「契約は通夜前のバタバタの中で行われ、遺族は互助会の言いなり。 後でおかしいと思っても、お悔やみ事でもめ事などもってのほかと、泣き寝入りしている人がほとんど」と話す。



 大手互助会の元社員は、

「解約を渋ったり、ランクアップを求めたりするのは、いずれも働き手の不安定な身分ゆえだ」と実情を語る。



 互助会に限らず、こうした個人請負として働いている人は国内にどのぐらいいるのか。

この分野を正確に把握する公的統計や調査・研究は存在せず、全体像はまだ明らかになっていない。



 日本総合研究所の山田久調査部長は、「雇用的自営業」という定義で約161万人(2010年時点)、クラウドソーシング大手ランサーズの調査(2016年)では「自営業系独立オーナー」として約310万人とそれぞれ推計する。



 日本でも近年急増しているといわれるが、その先を行くのが米国だ。

経産省によれば、米国の労働力人口1億5700万人のうち35%、約5500万人がフリーランスとして働いており、内訳で最も多いのが「インディペンデントコントラクター」と呼ばれる個人請負だ。

2020年には労働人口の約5割がフリーランスとして働くという予想もある。



 日本と同様、直接雇用した場合と比べ、企業は社会保障税やメディケア税、健康保険の加入負担などを免れることができ、税収の減少や労災時の保障がないなどで、すでに社会問題化している。

カリフォルニア州では個人請負とされてきたトラック運転手がここ数年、労働者としての権利を主張しており、それを認める裁判所の判決も出ている。





● 働き方改革に抜け穴に


 政府は昨年9月、「働き方改革実現会議」の検討項目として、長時間労働是正や同一労働同一賃金などと並び、「テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方」を挙げた。



 これを受けて経産省は昨年11月、「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会」を立ち上げた。

その初回の会合で引用されたのが、厚生労働省が昨年8月に出した報告書、「働き方の未来2035」だ。



 「塩崎(恭久)大臣の思いを形にしたもので、厚労省内の共通認識とは懸け離れている」(厚労省関係者)というこの報告書。

2035年に、企業では

「多くの人はプロジェクト終了で別企業に移る」

「個人事業主と従業員との境があいまいに」

「働くという活動も(労働法ではなく)民法が基礎に」などと、

およそ厚労省が担ってきた労働政策を全面的に否定するような内容が続く。



 経産省の検討会では、個人請負のような雇用関係によらない働き方は、柔軟な働き方実現のカギを握ると評価はするものの、具体的な提言としては、「好事例を横展開する」などにとどめている。

「労働法制と社会保障という二つの大きな課題への解なしには、簡単に決め打ちできない」(経産省幹部)という考え方も一方であるからだ。



 それでも政府が月内に取りまとめる「働き方改革実行計画」には、「個人請負」の普及に向けた検討・対策が、一定程度盛り込まれる見通しだ。



 働き方改革では、長時間労働の抑制や、同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善に注目が集まっている。

こうした労働者保護に向けた規制強化の一方で、柔軟な働き方の美名の下、個人請負がその抜け穴や逃げ道として用いられてはならない。

国民的な議論が必要な時だ。


 ※ 当記事は「週刊東洋経済」3月25日号<3月21日発売>からの転載記事です




      ◇◇◇

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