mixiユーザー(id:1306684)

2017年02月28日23:33

2254 view

書評 小林多喜二「オルグ(「工場細胞」第二部)」

1月末に下書きを書き終えていたのに、2月中は繁忙期だったので、アップするのが遅くなってしまいました。
またしても、タキッヂ先生の小説。個人的には「蟹工船」、「工場細胞」、「オルグ」は併せて「蟹缶シリーズ」と呼びたい。「蟹工船」は蟹缶の『蟹』を捕る船の話で、「工場細胞」と「オルグ」は、蟹缶の『缶』を作る工場の話・・・どんだけ蟹缶好きなんだよ!!蟹のように横向きに前進するタキッヂ先生(笑)

小林多喜二「オルグ」

いきなりだが、この小説の一番最後は、次のように書かれている。

後記 この一篇は「工場細胞」の第二部をなすものである。

読み終えた後で、『えーっ!続くの!?続くつもりで書いてたの!?』ってことを知って驚いている。第三部も予定されていたンだなあ。蟹缶の缶工場のストライキはどうなるのか気になるところだが、第二部までしかないのだから仕方ない。

ところで、先に「工場細胞」のネタバレを書かないと、「オルグ」の面白さが伝わらないのでちょっと人間関係を中心に話をまとめてみたい。
------------
製缶工場で働く森本は、労働運動へ身を投じている最中、「工場細胞」としての役目を請け負うことになる。河田、鈴木といった仲間たちと共に活動する中で、森本はお君と出会う。河田からは「女が入るようになると気を付けなければならないな。運動を変にしてしまうことがあるから。」と再三言われていたが、初めてお君と過ごした夜、お君と一つの林檎を分け合ったその晩、その魅力に魅かれてしまう。
一方、鈴木もお君に恋をしていた。お君は河田と仲が噂されていることに鈴木は腹を立て、それを森本に「河田ッて、実にそういうところがルーズだ。」と愚痴を零す。お君と河田の関係の噂に森本の心中も穏やかではないが、そんな最中、お君からはお芳の片思いの話を聞かされる。森本はお君のがはつらつとしているのは河田の影響かとやきもきする。
 さて、工場での労働者たちの集会を経て、工場での森本たちの活動は成功したかに見えた。集会の報告を河田のところに向かった森本とお君だが、その様子がおかしいことに気付き、すぐに集合場所を避けるように歩き始める。その道すがら、お君はお芳の片思いの相手が河田であることを話し、森本は河田とお芳が両想いであることに気付く。そしてさらにお君は自分は鈴木に言い寄られて迷惑していることなどを話し始め、男ってみんなそうよねーと言った後に「あんたゞけは別よ」と言われて、森本はついに自分の思いを告白する。お君と想いを確かめ合い手を握り合い別れて自宅に戻ると、そこには警察が…。
 森本は留置場にとらわれると独房に入れられる。しかし隣からコツコツ音がして、看守の目を盗んで会話を試みると、なんと河田であった。わずかに聞こえる河田のとぎれとぎれの言葉から、仲間の中から裏切り者が出たことを知る。河田との会話が途切れると同時に、留置場が騒がしくなる。鈴木が首を縊っていたのを看守が発見したのだった。

製缶工場の労働者たちは森本らの活躍によって「工場委員会(経営会議)」の自主化を獲得した。だが、河田や森本たちは警察に捕まった。お君とお芳は、河田や森本が帰ってくるまでやらなければならない使命に決意を固めるのであった。
-------
ここまでが「工場細胞」のあらすじだが、工場細胞の主人公とも言うべき森本は、第二部「オルグ」ではすごいダメ人間になってる。

・・・なんと仲間を裏切るのである。しかも早々と裏切る。河田は10年は捕まったままになりそうだというのに対し、森本はすぐに釈放される。
森本の裏切りを知ったガールフレンドお君は、激おこプンプン丸ムカ着火ファイヤー(…以下略)で、森本は君に早く会いたくて仲間を売って警察から出てきたなどと言う。お君は森本を冷たくあしらう。森本の裏切りでお君は工場をクビになったのだから、当然である。(フラれるのは目に見えてるんだろー、ちょっとは考えろよ、森本!)

そして、お君のハートは新たな登場人物・石川が攫っていくのである。(石川は第1部にはチラッとしか出ていない。)
石川は、森本と違った。
変装も得意だし、特高を巻くのもお手の物、組織の死守を第一に考える、いろんな意味で違っているんだけど、こちらはネタバレしなようにこれ以上何も書くまい。

「工場細胞」「オルグ」って労働運動の活動家と恋愛を書いたシリーズとして見ると面白い。もちろん缶工場での労働闘争の話がメインなんだけど、特高の狡猾さも描かれているし、活動家の日常生活も描かれているのが面白いんだよね。
 なぜ鈴木が裏切るのかの背景として、特高は金に窮していた鈴木の代わりに家賃を支払い、酒を奢るなどして鈴木を懐柔していくシーンが出てくる。後ろめたさを感じつつも特高の奢りで酒を飲んだ鈴木は、河田より先に運動に加担していたのに何だか仲間外れにされているようではないかと特高の主任に指摘される。そうやってゆさぶりをかけるのが特高の「手」だとは分りつつも、心根の弱い鈴木は流されていくのである。

21世紀の現在、いかに楽しく読むかの視点で考えると、労働闘争の点より人間関係や心理の点に着目したい。じつはその視点から読んでも面白く書かれているのだから、タキッヂ先生の文章力が巧みだということだ。
どうしてもプロレタリア視点で書いているから、やっぱり「プロレタリア文学」ってことになるんだけどね。

・・・ところで、蟹缶工場のモデルになったという小樽にあるという北海製罐の工場にはいつか行ってみたい。…とてもマニアックな聖地巡礼だな。

◆補足:画像の説明
今回は、国会図書館が公開している著作権がきれた初版本の電子版(デジタルのテキストではなく、原本をスキャンした電子書籍)で読んだのだけど、びっくりした。全部にふりがなが付いているのである。「眼」には「め」と、「男」には「をとこ」と書いてある。
識字率がさほど高くない時代、多くの人に読んでもらいたい場合は、全部ふりがな付けた方が得策だったのね。
おまけで工場細胞の電子書籍の画像を付けたけど、簡単な漢字のふりがなは省略されてる。代わりに、中二病っぽいカタカナ外来語が読めるはず。錻刀切断機(スリッター)、罐巻締機(キャンコ・シーマー)、漏気試験機(エアー・テスター)・・・(笑)

0 4

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する