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2017年02月28日18:36

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【創作】超攻鬼装オーガイン  第七話:疾走、超速走攻!【その4】

【創作まとめ】
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【前回】
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 人質を前に何も出来なかった氷室さんの叫びが倉庫にこだまする。
 悔しさと、怨嗟の叫びが。
『俺は無力だ。新装備を与えられてもこのザマだ。もしこの場にオーガインが居れば防げたかもしれないのに!』
 やりきれない気持ちに拳を給油タンクに叩きつける。
『なら死ぬっすよ』
 その隙を見逃さず、ヤミはガンナイフの刃で氷室さんの首を掻き切るべく接近してくる。
 マズい、今の装備だけでは接近戦に対応しきれないわ。
「氷室さん、早く離脱して!」
 だがヤミの方が一足早い。
 バイクを動かすよりも早く駆け寄り、横一文字に斬りつけるべく振りかぶる。
『そうはさせるかよ!』
 振りぬかれる腕を咄嗟に掴み、脇固めへと極める。
『俺が射撃だけの男だと思うなよ?』
 思ってました、すみません。
 だがバイクに跨ったままではバランスが悪く、二人はもつれ合うように転倒する。
『可愛子ちゃんとの寝技対決は、ベッドの上だけでお願いしたいんだけどな』
 脇固めから、そのまま腕を離さずに腕十字固めに移行していく。
 さすが警察官ね、柔道スキルも高いわ。
 だがヤミは極められた腕とは逆の腕に持ったガンナイフで斬りつけてくる。
『おっと』
 咄嗟に関節技を解き、後転して回避する。
 オーガインの戦いのような派手さは無いが、玄人好みの一進一退の攻防が繰り広げられる。
 すかさずヤミはガンナイフで射撃するが、氷室さんはそれを横に転がりながら回避すると、再び距離が開き、両者は間合いの探り合いになる。
『HAHAHA! 時間稼ぎゴクロウ!』
 ミカエラ博士の言葉にガラスケースへ目を向けると、中に捕らわれていた人達の体に異変が起こりだした。
 全身の皮膚がぶくぶくと膨れ上がり、肉体の再構築が始まっていく。
『この光景、前にも見たことあるぞ』
「これって資料にあったバイオソルジャーへ変態するやつじゃないの?」
 ボスも異変にいち早く気づき、焦りが見える。
「このままでは氷室君が大量のバイオソルジャーに取り囲まれてしまうわ」
 そう言っている間も肉体の変態は続き、ものの十数秒で大量のトカゲ男が誕生する。
 いや、中には女性や子供もいたから、トカゲ女もトカゲ子供も居るのか。
『マジかよ、トラウマ再来ってか』
『こうなったらムロっちに勝ち目は無いっすよ』
『さあ、ワタシの可愛いバイオソルジャーたちよ、その男を喰い散らかせ!』
 ミカエラ博士が言い放つと、ガラスケースは情報へスライドし、大量のトカゲ人間が解き放たれる。
 だが予想に反してすぐには襲ってこない。
『何だ、この体は・・・・・・』
『嫌・・・・・・嫌ァァァァァァァッ!』
『元に戻してくれ!!』
 トカゲ人間達は混乱しているようだった。
 そりゃそうね、警察署での戦いの時のように信奉者が変身したのではなく、何も事情を説明されていない一般人が姿を変えたんだもの。
 もし自分がトカゲ人間の姿になったとしたら・・・・・・想像もしたくないわね。
『ヒャッハー! コイツはスゲエ力だぜ!』
 だが一人だけ様子の違うトカゲ人間が居た。
 そいつは手近にいた、錯乱して泣き喚くトカゲ人間の顔面に拳を振り抜き、一撃のもとにミンチとする。
 アイツ、この状況を楽しんでる?
『ハハハ、ハーハッハッハッ! 俺は前からウゼエ人間を、俺を見下してきた人間を、ずっと殺したかったんだ』
 血に染まった両手を眺め、恍惚に語りだす。
 その姿に、周りのトカゲ人間は一斉にパニックを起こし、蜘蛛の子を散らしたかのように逃げようとするが、密集していて上手く動けないでいる。
 目の前で、簡単に、自分達と同じ境遇の元人間が殺されたのだから仕方ないわ。
『喚くなよ。こんなに最高な力を手に入れて何が不満なんだよ?』
 逃げ遅れたトカゲ人間を捕まえては頭を握り潰し、心臓を貫き、首を刎ねる。
 その瞳は狂気に彩られ、無抵抗のトカゲ人間の虐殺を楽しんでいた。
『やめろ! それ以上殺すな! 人間なんだぞ!』
 異常なトカゲ男を止めるべく、氷室さんは発砲するが、硬質な鱗に覆われたトカゲ男には通用せず、弾丸はことごとくはじかれる。
『何言ってんだよ、お前。こいつらも俺も、もう人間じゃない』
 暴走するトカゲ人間は、次の獲物をめがけ駆け出し、力づくで押さえつける。
『元人間、現バケモノだろ?』
 最後のトカゲ人間を伸ばした舌で心臓を突き刺し、絶命させる。
 いくら肉体が変態したとはいえ、ここまで性格が変わるものなのかしら?
 他のトカゲ人間と比べても、間違いなく異常だわ。
『トカゲのバケモノは殺し飽きた。次は人間の肉をグチャグチャにして楽しむとするか』
 返り血に染まった赤黒いトカゲ人間が、氷室さんを値踏みするように視線を向ける。
『さぁ、お楽しみはこれからだ』

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 トカゲ人間は無造作に氷室さんに近づいていく。
 拳銃が通用しなかった以上、警戒する必要も無いといったところね。
「このままだと氷室君が危ないわ。桜子ちゃん、変形ソフトはまだ完成しないの?」
 焦りに彩られたボスの言葉が指揮車両に響き渡る。
 時は一刻を争う、私は最後のプログラムを入力し、キーボードのエンターキーを叩く。
「あと少し、一分だけ待ってください」
 あとは組み上げたプログラムが、変形ソフトとして完成するのを待つだけね。
 だけど今は一分一秒を争う場面、画面に表示されたメーターが進んでいくのを見るのももどかしいわ。
 指揮車両のモニターにはトカゲ人間と対峙する氷室さんが映し出されている。
 拳銃が通用しない以上、彼に勝ち目は無いわ。
 飛びかかってくるトカゲ人間を横っ飛びで回避し、すかさず発砲で反撃するものの、それは虚しくも硬い鱗に弾かれてしまう。
「氷室君、トカゲ人間の硬い鱗を狙っても駄目よ。少しでも怯ませるためにも顔を狙いなさい」
『でもそれで相手を殺してしまっては・・・・・・』
 彼が以前所属していたStedは、警察の暗部とも言われており、警察や国家に仇なす武装組織の指導者を暗殺していた。
 だが今は彼も特別強襲機動隊の一員、たとえ凶悪犯であろうと、バケモノに変態した元人間であろうと簡単に殺すわけにはいかない。
 そう、本来の警察とは犯罪者を逮捕するのが目的であり、殺すことが目的ではない。
「だからと言って氷室君が殺されては元も子もないわ。私が全責任を取ります。だから有効な反撃をしなさい!」
『・・・・・・了解しました。でも可能な限り無力化して逮捕する方向で動きますよ』
 氷室さんはわずかに逡巡してみせるが、即座に決意する。
 現場で、戦場で戦う以上、たとえ難しい判断であっても時間をかけるわけにはいかない。
 一瞬の判断ミスが死に繋がるのだから。
『何をゴチャゴチャと言ってやがる。さっさと俺に殺されな!』
『お生憎さま、諦めが悪いのが取り柄でね』
 再び飛びかかろうとするトカゲ人間の顔面に、すかさず牽制の銃弾を撃ち込む。
 弾丸自体は鱗に弾かれるが、衝撃までは無効化されず、トカゲ人間は上体を仰け反らせる。
『小癪な真似を』
 ドォォン。
 その時、氷室さんの拳銃とは別の銃声が倉庫内に響き渡る。
 そこには上方へガンナイフを発砲させたヤミが鬼をも殺しそうな目つきでトカゲ人間を睨んでいた。
『トカゲロイド、あんまりオイタは駄目っすよ』
 あのトカゲ人間、正式名称はトカゲロイドって言うのね。
 ヤミはトカゲロイドを警戒するでもなく、無造作に近づいていく。
『あーあ、好き放題やっちゃって、困るっすよ。これだけの人間を拐らうのに、どれだけ手間がかかると思ってんすか』
『ああん? 俺に指図すんじゃねえよ』
 突然のヤミの介入に、トカゲロイドは面倒臭そうに凄んで見せる。
 コイツ、基本的に思考パターンがチンピラに似てるわね。
『人間をトカゲロイドに変化させるメタモルガス、どれくらいの予算がかかってると思ってるんすか?』
『うるせえ、知らねえよ』
 あのまま放っておけば、トカゲロイドは氷室さんに襲い掛かって、ヤミとしても自分の手を汚さずに済んで問題無かったはずなのに。
 何で止めに入ったのかしら。
『数日かけて立てたプランが台無しっすよ。どう責任取ってくれるんすか?』
『ウダウダ言ってんじゃねえ。女の肉は柔らかそうだから最後に残しておこうと思っていたが、気が変わった』
 トカゲロイドは舌なめずりしながらヤミに向かって走り出す。
『先にお前から殺してやるよ!』
『やれやれ、状況が読めないヤツっすね。いいっすよ、調教してやるっす』
 ヤミは身を翻しトカゲロイドの爪を躱すと、くるりと回転してガンナイフをこめかみに押し付け、躊躇うことなく発砲する。
 雷音の如き銃声を轟かせ、ゼロ距離からの衝撃はトカゲロイドの頭をハンマーでぶん殴ったかのように、体ごと横に吹き飛ぶ。
 だが硬い鱗に覆われたトカゲロイドの頭部には傷一つ付いてない。
 どれだけ頑丈なのよ。
『うーん、やっぱりこのままだと致命打に欠けるっすね』
 ヤミは目を瞑り重々しくいい放つと、カッと見開く。
『これは対オーガイン用の切り札に取っておきたかったんすけど、仕方ないっす』
 そう言うとヤミは両手をクロスさせるようにガンナイフを構え、カチリと奥歯に仕込まれたスイッチを入れる。
『メタモルチェーンジっす』
 クロスした両腕を何か殻のようなものを破るかのように勢いよく開くと、ヤミの体は光に包まれ姿を変えていく。
 園咲顕将も私も、彼女を改造した記憶はない。
 ということは、これはバイオソルジャーとしての変身なのかしら。
 光が収束すると、そこには黒い猫耳と尻尾の生えたヤミが立っていた。
 ほとんど変わってないじゃん!
『か、可愛い!』
 氷室さんはうっとりした目でヤミの姿に見入っている。
 それでいいのか、実行部隊!
 でもこれってバイオソルジャーってことでいいのかしら。
 トカゲロイドとかなりデザインが違いすぎるわ。
『クロヒョウのバイオソルジャー、ヤミっすにゃん!』
 ガンナイフを持った右手を、招き猫のように振ってポーズをとってみせる。
 あ、あざとい! 女の私から見ても、かなりあざといわ!
『何がクロヒョウだ。あざとく変身しやがって!』
『そこはそれ、アタイも女の子っすから、見た目にも拘るっすよ』
 再び襲い掛かるトカゲロイド。
 ヤミは手早くガンナイフのリミッターを解除し、トカゲロイドのどてっ腹にガンナイフの火を吹かせる。
 それは今までの銃弾ではなく、一瞬だがプラズマの光のようなものが煌めいていた。
 強烈な一撃を受けたトカゲロイドは後方へ派手に吹き飛び、着弾点から弧を描いて血を舞い散らせる。
『変わったのは見た目だけじゃないっすよ。肉体が強化されたことにより、ガンナイフの超電磁モードが使えるようになったんすよねー』
「超電磁モードってことは・・・・・・あのガンナイフ、小型超電磁砲ってこと?」
 だとしたら、とんでもない武器じゃない。
『痛え、痛ええええ!』
 今まで通用しなかった銃弾が肉体を貫き、トカゲロイドはのたうち回る。
『ヤミ、どうして俺を助けてくれたんだ?』
『別に助けてないっすよ。暴走してムロっちを殺すのと、兵器としてアタイの命令でムロっちを殺すのとでは意味が違うっすからね』
 ヤミは氷室さんには目もくれずトカゲロイドに近づく。
『いいっすか? アンタはアタイの部下になるっすよ。部下は上司の命令に絶対服従、いいっすか?』
『う、うるせえ! 俺は誰の指図も受けねえ!』
 ヤミは黙ったままトカゲロイドの膝を撃ち抜く。
 粘土細工のようにするりと弾丸は貫通し、そこから噴水のように血が噴き出す。
『ぎゃああああ! 痛えええええ!』
『わかったっすか?』
『わ、わかった! わかったからやめてくれ!』
『わかればいいっす』
 トカゲロイドの心が折れたのを確認して、ヤミは懐からアンプルを取り出すと銃型の注射器にセットしてトカゲロイドに投与する。
 するとトカゲロイドの傷口がぶくぶくと膨れ上がり、たちまち傷が完治されていく。
『さ、アタイの命令に従って、アイツを殺すっすよ』
 びしっと氷室さんを指さし、非情の命令を下す。
 結局氷室さんを襲わせるのね。
 その時、ピコンという音と共にパソコンに変形ソフトが完成したダイアログボックスがポップアップされる。
「変形プログラムが完成しました!」
 ヤミがトカゲロイドの相手をしてくれたおかげで、間一髪といったところで完成したわ。
「今すぐアクセルレイダーにデータを転送してちょうだい!」
「了解!」
 私はパソコンを操作して、アクセルレイダーへの転送を開始する。
 しかししばらくして、再びダイアログボックスがポップアップされる。
「え? 通信環境を確認して再度操作してください?」
 何で? 何でデータが転送されないの?
「あの・・・・・・ここ、山奥なので通信用の電波が届いてないんじゃ?」
 水無さんが申し訳なさそうに言ってくる。
「ホントだ! 師匠、ここ携帯のアンテナが立ってませんよ!」
「でも倉庫内の映像は受信できてるわよ?」
「それは・・・・・・通信が傍受されないようにアナログ無線で映像を受け取っているからだと思います」
 つまりトランシーバーと同じような原理ね。
 携帯電話の電波が繋がらないけど、基地局を介さず直接電波をやりとりするトランシーバーは通信が可能っていう。
 そういえばこの映像、小型ドローンで撮影しているんだった!
「ということは・・・・・・」
「誰かが直接プログラムを渡して、アクセルレイダーにインストールするしかないわね!」
「な、なんですとおおおおお!?」
 ボスの下した判断に、私は思わず叫んでしまう。
 知ってる、知ってるわ。
 ここまで来れば、今までの話の流れで先が見えるってもんよ。
 このパターン、きっと私が行く羽目になるんだわ。
 そしてまたヒドい目に合うのよ。
「現場でソフトをインストールすることを考えたら、プログラムに詳しい人間が行くべきよね」
「つまり・・・・・・」
「このプログラムを組んだ人間が望ましいわ・・・・・・桜子ちゃん、お願いね!」
 やっぱりね!
 そうなると思ってたよ!
 ちっくしょうめええええ!!


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「師匠、気を付けてくださいね」
「ありがとう、ゆづきちゃん」
 私は以前、博士に渡されたマスクを被って指揮車両のハッチから降りる。
 何で毎回こんな目に合うのよ。
 私、これでも民間協力者なのよ? 正規警察官じゃないのよ?  実行部隊じゃなくて内部スタッフなのよ?
 こんなの絶対におかしいって!
「私も護衛につきますので安心してください」
 酒田さんが安心させるかのように、ぽんと私の肩を叩く。
 それ、今に限って言えばサラリーマンの肩叩き的な意味合いにしか取れないわ。
「今も氷室さんは一人でトカゲロイドと戦っているわ。早く行って助けてあげて」
 アンタ鬼か。 心の準備くらいさせてよね。
 ボスの急かす言葉に軽い怒りを覚えるわ。
 とはいえ、ここで間に合わずに氷室さんが殺されでもすれば、今までの苦労が全て水の泡になってしまう。
 私は変形ソフトを入れたUSBメモリを握りしめ決意する。
 ええい、こうなったらやるしかないのよ。
 じたばたしても状況が変わらないことは、今までの戦いで学んだんだから。
「行きましょう、酒田さん」
「ええ」
 私と酒田さんは倉庫に向かって駆け出す。
 氷室さんは今も一人で戦っている。絶望的な状況の中で。
 少しでも早く合流して、氷室さんが致命傷を負う前に、互角に戦えるようにしてあげないと。
 だからと言って無闇に倉庫へ乗り込んではいけないわ。
 なんせ今の私たちの装備では、トカゲロイドに太刀打ちできないのだから。
 て言うか、私に限って言えば何も武装してないのだから。
 まずは酒田さんが慎重に内部をうかがい、安全を確認しながら一歩一歩確実に歩を進めていく。
 いつも思うんだけど、なんでシャドールが利用する倉庫ってこんなに広いのかしら。
 散乱した木箱から見るに、たいして利用している節も無いのに。
「見えました。氷室さんが戦っている現場です」
 そうこうしているうちに、私達は氷室さんの戦っている現場に辿り着く。
 見た感じだと、苦戦はしているものの、まだ負けてはいないようね。
 早くアクセルレイダーにソフトをインストールしないといけないわ。
 アクセルレイダーは・・・・・・氷室さんとヤミがもつれ合って転倒した時のままのようね。
 このままヤミ達に気づかれずに近づければいいんだけど。
『ヤミ、どうやらネズミが二匹紛れ込んだようデス。始末してクダサイ』
 今まで空気のように存在感が無かったミカエラ博士がモニター越しに指令をヤミに伝える。
 気づかれずにインストールする作戦は、その言葉によって一瞬で瓦解する。
「援軍っすか? 了解っす」
 周りを警戒しながらヤミが近づいてくる。
 獣人化した今のヤミが相手では、私達に勝ち目が無い、
「ここは私が敵を引き付けます。小鳥遊さんはその隙にソフトをインストールしてください」
「あんまり無理しないでくださいね」
 酒田さんは四六歳とそこそこ高齢の身、あまり無理はしてほしくはないのだけど、私が素手でヤミに立ち向かって勝てる見込みは無い以上、仕方ないのかもしれない。
 まあ、護衛として付いてきてもらってるしね。
「ヤミさん、あなたの相手は私です」
「ん? 侵入者ってオーガインじゃないんすか?」
「残念ながら、彼は今休暇中でしてね」
 そこは氷室さんと口裏を合わせるんだ。
 無闇に封印されてるとは言えないものね。
「ちょっとがっかりっす。おじさんはアタイを楽しませてくれるんすか?」
「善処しますよ」
 言い放つや否や、酒田さんは駆け出してヤミに低重心のタックルを仕掛ける。
 小型とはいえ、超電磁砲を持つヤミを相手に距離をとって戦うのが不利と判断した行動ね。
「初対面の女の子相手にいきなり下半身攻めとか卑猥っすよ」
 相撲でいうところの八艘跳びの要領でタックルを躱すヤミ。
 さすがに簡単に捕まってはくれないようね。
「卑猥と言うなら、まずは戦場でヒラヒラのミニスカートはやめた方がいいですよ。私としては目の保養になっていいのですが」
「なっ!? 見たんすか? 見たんすかー?」
「ええ、可愛らしい水色と白のストライプでしたね」
「マジか!?」
 トカゲロイドと戦っているはずの氷室さんまで会話に入ってくる。
 アンタはトカゲロイドとの戦いに集中しろよ。
「全身黒づくめなのに、下着は女の子らしいのを着用しているんですね」
 酒田さん、それセクハラよ。
 戦力では劣る分、心理戦で少しでも優位に立とうって作戦なのかもしれないわね。
「許さないっす。戦場でこんな辱めを受けたのは初めてっす」
「いやー、可愛いお嬢さんに相手してもらえた上に、パンツまで見せてもらえるとは役得ですね」
 作戦なんだよね? 作戦で言ってるだけなんだよの?
 今まで温厚で真面目なイメージの酒田さんだったけど、ほんの数秒でただの変態オヤジに見えてくるわ。
 ひょっとして男って常にこういうことを考えてるのかしら。
 だとしたら最低ね。
「殺すっす! 絶対に殺してやるっす!」
 だが酒田さんの言葉に、ヤミはすっかり冷静さを欠いているようにも見える。
 でも作戦は上手く作用したようて、ヤミは冷静さを失ってるように見えるわ。
 酒田さんにしか出来ない、老獪な戦術ってやつなのかしら。
「さあ、行きますよ。もっと可愛いパンツを見せてくださいね」
「嫌ああああっす!」
 ・・・・・・これ、老獪な戦術なのよね?
 ただの変質者にしか見えないわ。
 ぐへへといやらしく張り付いた笑顔と舌なめずりという最悪の表情に、私も身の毛がよだつ。
 だけど、これでヤミの注意は酒田さんに向いている。
 今なら気づかれずにアクセルレイダーへ近づけるわ。
 酒田さんは執拗にアホみたいな低重心タックルでヤミを攻め立ている隙に、私はアクセルレイダーへと近づく。
 そしてタコメーター付近にあるUSBジャックにメモリを差し込み、インストールを開始する。
 あと二十秒、これさえ持ちこたえたらこの戦いにも希望が見えるわ。
「ヤレヤレ、出来れば現場には出たくなかったんだケドネ」
 突然の声に顔を上げると、銃を突きつけたミカエラ博士が立っていた。
 しまった、この人のことを完全に忘れてたわ。
 まさか現場に出てくるなんて。
「オーガインをサポートする謎の女科学者、会えて光栄ダヨ」
「出来れば会いたくありませんでしたけどね」
「ホウ、声は変えているみたいダガ、ナカナカの若さみたいダネ」
 ヤバい。
 ミカエラ博士、直観鋭すぎない?
 私が特機に協力していることは、シャドールの中でも園咲顕将しか知らない。
 もしここで正体がバレてしまうと、裏切り者として殺されるかもしれないわ。
 何としても誤魔化さないと。
「さて、どうかしらね」
「どちらにセヨ、我々にとっては邪魔な存在ダヨ。ココで死んでモラウヨ」
 ミカエラ博士が引き金を引く瞬間、私は横っ飛びに身を躱し、そのまま腹這いに落ちて軽い呼吸困難に陥る。
 我ながら毎回締まらないわね。
 でも今はそんなことを気にしている場合じゃないわ。
 正体がバレるわけにはいかないもの。
 そしてアクセルレイダーにインストールしているソフトの存在にも気づかれるわけにはいかない。
「ここで四大長とやらを倒すと、二階級特進くらいしちゃうかもしれないわね」
 ただの民間協力者に二階級特進もへったくれもないんだけど、シャドールの一員として四大長を倒す気もさらさら無い。
 ここは挑発でもして意識を逸らすしかないわ。
 さあ、アクセルレイダーから離れて追ってきなさい。
「体育会系ではないガ、さすがのワタシも君に負ける気はナイヨ」
 私に向かって一歩踏み出そうとした瞬間。
『プログラムのインストールが完了しました』
 アクセルレイダーから作業完了のお知らせメッセージが鳴り響く。
 そうだった、インストールは二十秒で完了するんだった。
「インストール完了? 嫌な予感がするネ」
 ミカエラ博士は給油タンクへ拳銃を向ける。
 マズい、そんなとこ攻撃されたらガソリンに引火して大爆発じゃない。
 っていうか、その距離で爆発したらミカエラ博士もただじゃ済まないわよ。
 アクセルレイダーとミカエラ博士、両方を助けるためにも、ここは私が体を張るしかないわね。
「させないわ!」
 先ほど見た酒田さんのタックルを真似て、低重心で突っ込む。
「おわっ、何をスル!」
 私の不格好なタックルで二人とも前のめりにコケて、ミカエラ博士は地面に顔面をしたたかに打ち付ける。
「ガッデム!」
 両手で顔を覆い、のたうち回るミカエラ博士を横目にアクセルレイダーへ駆け寄り、エンジンを再始動させる。
 ドルンと勢いのいい音を確認すると、素早く自動走行モードへ切り替え、氷室さんへ向かって発進させた。
「氷室さん、受け取って!」
「この時を待ってたぜ!」
 氷室さんは拳銃でトカゲロイドの顔面を撃って牽制し、迫りくるアクセルレイダーに飛び乗ると自動操縦モードを解除してトカゲロイドへ突進する。
「アクセルクラッシュ!」
 そのまま車体ごと体当たりしてトカゲロイド盛大に吹き飛ばす。
「待たせたな、ここから反撃開始だ!」


その5へ続く。
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