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2017年02月28日18:33

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【創作】超攻鬼装オーガイン  第七話:疾走、超速走攻!【その3】

【創作まとめ】
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【前回】
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seen4

 夏を主張するかのように、太陽がジリジリと肌を照りつける。
 焼けたアスファルトの匂いが鼻孔をくすぐるが、それは不快ではなくむしろ集中力を高めてくれる。
 轟音とともに眼前を一瞬でバイクが駆け抜ける姿は圧巻としか言いようがない。
「タイム、少し縮まりましたね」
「縮まったけど、まだまだいけるはずよ」
 電光掲示板に表示されたタイムを眺めながら、ボスと水無さんが声を張り上げながら会話する。
 その日、特機は静岡県にある富士岡サーキットを借りきっていた。
 アクセルレイダーの強化作業と平行して、レース用のバイクで氷室さんの特訓を積むためである。
「もっとエンジン回せ! そのマシンのポテンシャルはもっと高いはずだぞ!」
 オフロードレース出身の車田さんが、インカム越しに叫ぶ。
 こうでもしないと走行中の氷室さんに声が伝わらないらしい。
 対戦相手が居た方が特訓になるということで、地元のレーシングチームの方々にも協力してもらっている。
 サーキットを走るのは三台、地元レーサー二台から二秒ほど遅れて氷室さんが走行している。
 おそらく手加減してくれているのだろう、周回を重ねても差が縮むこともなければ、開くこともない。
 氷室さんがタイムを縮めると、実力差を見せつけるように加速し、ペースが落ちるとテールを振って挑発する。
 プライドの高い氷室さんにとっては屈辱的で、絶対に見返したいところだろう。
 その闘争心を煽るために協力してもらってるわけだけど。
 三台のバイクがバックストレートを駆け抜けていくと、ワンテンポ遅れて走行音とそれにより巻き起こされた風ががピットクルーの全身を打つ。
 心臓を鷲掴みにされたような高鳴る鼓動は、否応なしに心を高揚させる。
 モータースポーツが世界中を熱狂させるのも納得ね。
「ゆづきちゃん、そっちの工具取ってくれる?」
「どうぞ」
 氷室さんがサーキットで特訓に励んでいる中、私とゆづきちゃんは、地元レーシングチームのメカニックの手を借りながらアクセルレイダーの改修を進めていた。
 サーキットでの特訓と改修作業を平行することにより、完成後速やかにテストが行えるという寸法ね。
 前回の事件のあと、ミカエラ博士が特機に対して敵対心を燃やしていたから、いつ行動を起こしてもおかしくない。
 だからこそオーガインを欠いた今、早急に対抗手段を練る必要があるのよ。
 改修による大きな変更点は二つ。
 まずはバイクとして走行性を安定させることね。
 前回出動した際、走行スピードを上げないと車体が安定しないという欠点が判明した。
 この前は緊急事態ということもあり仕方なかったけど、まともに走らないバイクにこれからも乗ってもらう訳にはいかないもの。
 最低限、乗り物としての安全性を確保しないといけないわけよ。
「低速時にマシンが暴れるのは、サスペンション回りが衝撃を吸収しきれてないからでしょう」
「もっとクッション性を上げた方がいいってこと?」
「そうです」
 地元レーシングチームのチーフメカニックが丁寧に教えてくれる。
 私は科学者であり、バイクのプロではない。
 餅は餅屋に、という言葉に従って、バイクのことはバイクのプロに教わろうということになった。
 バイクなんてタイヤが二つあって、エンジンを動力源に走ればいいと思ってたけと、色々難しいものね。
「むしろその考えで、時速四〇〇キロオーバーのマシンが作れることに驚きですよ」
 私の考えにチーフメカニックが驚愕する。
 彼に言わせれば、そんな作りで車体が吹き飛ばなかったことが不思議でならないらしい。
 そんなのダウンフォースを目一杯効かせればいいだけなのに。
「いやはや、無知って怖いですね」
 そんな感じで『速いバイク』をまずは完成させる。
 その上で武装としても強化をしていく。
「まさか岡田教授の研究者がこんなところで役立つとは思いませんでしたね」
「まったくよ」
 ゆづきちゃんの言葉に相づちを返す。
 今回は岡田教授の研究資料を、私なりにアレンジした変形機構を組み込むことにした。
 あのタヌキ親父の技術だけでは使い物にならなかったけど、そこはそれ、私の機転の利いたアレンジで斬新に生まれ変わるわけよ。
 もちろんシャドールとの戦闘を前提としているため、走行中であっても瞬時に変形可能なようにしなければならない。
 私とゆづきちゃんは丁寧に、細心の注意を払って改修を施していく。
「これで何度も変形可能になるなんて、師匠の発想力にはいつも驚かされっぱなしですよ」
「そんなに誉めても何も出ないわよ」
「でもこれ、石動さんが戻ってきたら拗ねませんかね?」
「大事なときに居ない方が悪いのよ。それに代わりに別の強化プランも用意したから問題ないでしょ」
「うひー。これが終わってもそっちがあるから、当分は忙しくなりそうですね」
「技術者としては腕の鳴りどころじゃない」
「ええ、アクセルレイダーも新武装も、絶対に完成させてみせますよ」
「その意気ね」
 会話を交わしながらも手は止めない。
 特機として、やることは山積みなんだから。
 一つずつ、確実にこなしていくしかないわ。
「あ、氷室さんが戻ってくるみたいですね」
 ゆづきちゃんの言葉にコースモニターに目を向けると、調度三台のバイクがピットロードに入る姿が見て取れた。
 特訓と言えど、無茶をして事故を起こしては意味がない。
 特に氷室さんはプロのレーサーではないのだから、定期的に休憩をとる必要がある。
「いい感じにタイムも縮んでるみたいだし、午後からはアクセルレイダーのテスト走行が出来そうね」
「すいません、そうも言ってられない状況になりました」
 指揮車両で待機していた酒田さんが息を切らせながら走ってくる。
「どういうことですか?」
「たった今、本庁から連絡がありまして、この前誘拐された人達の監禁場所が判明したそうです」


【seen5】

 サイレンを響かせ、モーゼの十戒のように一般車が空けた道を指揮車両は駆け抜ける。
 これ、意外と気持ちいいわね。
 誘拐された人達を救出するべく、私達特機はS市郊外の山奥にある倉庫へ向かっている途中である。
 博士が言うには、前回誘拐した人達は、全てミカエラ博士の管轄にあるらしい。
 彼の研究はバイオ化学を応用した、人と他生物を融合させたバイオソルジャーの製造を専門としている。
 そのため、融合させた生物の特色を大きく受け継ぎ、動物的勘や、ベースとなった生物が使用する毒物にも特化している。
 機械工学を応用した園咲顕将の機械改造人間とは別の生物兵器として位置付けされているわ。
 博士と一緒に散々人を改造してきた私が言うのもなんだけど、命の冒涜度で言えばミカエラ博士には敵わないわね。
「アクセルレイダー、大丈夫なんですか?」
「メカ的にはね」
 これから向かう先で前線に立つ氷室さんが、不安を隠せないでいる。
「メカ的にって、どういうことですか?」
「機械としての改造は完了しているわ。ただ、変形をサポートするソフトはまだ未完成なの」
「それって今回の改造の目玉である変形が出来ないってことですか?」
「今のところはね」
 私はパソコンのキーボードを叩きながら返答する。
 氷室さんに伝えた通り、メカ的には各部の信号送受信のテストも含めて、改造は完了している。
 それによる変形もスムーズに可能なのは確認取れている。
 ただ、それを制御するソフトまでは手が回らなかった。
 突貫作業で進めはしたけど、こればっかりは時間が足りなかったの。
「いくらなんでも変形無しでシャドールの怪人と戦うのは無理ですよ。変形出来なければ、アクセルレイダーはただの早いバイクなだけですし」
「そんなの言われなくても分かってるわよ。だからこそ、こうやって移動中もプログラムを組んでいるんじゃない」
「それって現場に到着するまでに間に合いますか?」
「私の見立てでは無理ね」
 ここで変に誤魔化しても、現場に到着すればすぐにバレてしまう。
 非情に見えるかもしれないが、きっぱりと言ってのける。
「せめてあと十五分は欲しいところね」
「現場まであと何分くらいですか?」
 私の言葉に氷室さんは到着までの時間を車田さんに確認する。
「あと三分くらいだな」
「なるべくゆっくり行ってくださいね」
 警察官にあるまじき会話ね。
 気持ちは分からなくもないけど。
「大丈夫、完成すれば無線通信でアップデート可能だから、氷室さんはそのまま出動してもらって構いませんよ」
「いやいや、俺が構いますから。それまでの間、生身で怪人と戦うことになるんですからね」
「大丈夫、遊び人のスキルを総動員して時間を稼げばいいのよ」
「無茶言いますね」
 彼の言い分も分からないでもない。
 確かに生身のままでシャドールの怪人と戦うのは無理があるもの。
 しかも今回の相手は、人体実験のやり過ぎで学会を追放された、あのミカエラ博士よ。
 いわば人体実験マニアが相手なんだから、前回捕らえられた人達の安否を考えるとのんびりはしていられないわ。
 ただでさえアンプル一つで人体改造可能なお手軽実験なんだし、いつ誘拐された人達が全員バイオソルジャーにされてもおかしくないんだから。
 シャドールの一員としては、ミカエラ博士の実験の邪魔はしたくないけれど、おかしな動きを見せて特機のメンバーに怪しまれる訳にはいかないから仕方ない。
 ミカエラ博士、ごめんなさいね。
「毎回ぶっつけ本番で申し訳ないけど、今までそれで何とかなったんだし、きっと大丈夫よ」
「実際に戦う身としては、そんなに楽観視できませんけどね」
 乾いた笑いを漏らしながら、氷室さんは遠いところを見つめてる。
 私ってそんなに信用できないのかしら。
 失礼しちゃうわ。
「では、これより人質救出作戦について説明します」
 いつものように酒田さんが司会を務め、作戦会議が始められる。
「現地に到着次第、実動部隊が突入。以上です」
「それだけ?」
 あまりに短い作戦概要に唖然としてしまう。
「今回は現場の状況が全くわからないからね」
 ボスも申し訳なさそうに付け足す。
 だからって簡潔過ぎじゃない?
「オーガインの出動許可は降りないんですか?」
「残念ながら、まだ暴走要因の解決に至ってませんからね」
 ゆづきちゃんの質問に酒田さんが答える。
 たぶん大丈夫だとは思うけど、オーガインを出動させて、万が一にもまた暴走されたらフォローも出来なくなるもんね。
 不確定要素がある以上、仕方ないわ。
「その辺は桜子ちゃんが近々解決してくれるから、それに期待ね」
 ちょっと待って、ボス。
 確かに石動君には私が何とかしてあげるとは言ったけど、まさか私に全責任を押し付ける気じゃないわよね? ないわよねえ?
「さすが師匠、よろしくお願いします」
「ゆづきちゃん、目をキラキラさせないの。ゆづきちゃんも手伝うのよ」
「勿論です」
 ホントに分かってんのかなー。
「そんなわけだから、今回は氷室君の肩に全てがかかってると言っていいわ」
「ボス、あんまりプレッシャーかけないでもらえます?」
「勿論私達も全力でサポートするわ!」
「付け足し感ハンパねーな!」 


seen6

 警視庁から連絡のあった倉庫は、山奥にあるだけに静かなものだった。
 一見すると人の気配を感じさせない煤けた佇まい。
 言われなければ、ここに人が監禁されているなんて誰も思わないでしょうね。
 いや、こういう佇まいだからこそ、人を監禁するのに打ってつけなのかもしれないわね。
「アクセルレイダー、最終チェック完了しました」
 ゆづきちゃんの言葉に、専用のライダースーツに身を包んだ氷室さんは頷きバイクに跨がる。
「まさかこのバイクが、俺専用機になるとは思わなかったぜ」
 まるで騎手が愛馬を愛でるように、給油タンクをぽんぽんと叩く。
「これからよろしく頼むぜ、相棒」
 見つめる瞳は穏やかで、これから戦場へ向かう男の目とは思えないくらい澄んでいる。
「雰囲気出してるとこ申し訳ありませんが、簡単な説明だけしておきますね」
「ホント雰囲気ぶち壊しだよ」
「私、ナルシスト無理系女子なので!」
「別にお前に言ったセリフじゃねーよ!」
 ビシッと手のひらを立てて拒絶を主張するゆづきちゃんに氷室さんは突っ込まずにはいられないようね。
 本来なら制作者である私が説明するべきなんだけど、今は変形プログラムの作成に手一杯なので、ゆづきちゃんが説明を頼んだの。
 人に説明することで理解を深めることもできるから、丁度いい経験だと思うわ、
「氷室さんに着ていただいたライダースーツは、防弾、耐斬撃に優れてます」
「そりゃどうも」
「ただ衝撃吸収に関しては、従来の防弾チョッキと同等なので、攻撃を喰らえばそこそこ痛いです」
 攻撃を受けても貫通こそしないけど、衝撃が逃げない分、ダメージは負うってことね。
「そしてアクセルレイダーを戦闘フォームに変形させた際、このライダースーツは指令信号の伝達の補助も兼ねています」
「つまりどういうことだ?」
「破けると信号伝達に支障が出るので、攻撃は受けないようにしてください」
「無茶言うよな」
「まあ、何て言うか、死なないように気を付けてくださいね」
「俺も死にたくないし、善処するよ」
 これから一人で敵の拠点に突入する氷室さんへの、ゆづきちゃんなりの優しさなのかもしれない。
 酒田さんの話だと、この場所は匿名のタレコミで判明したらしい。
 これは予想でしかないけど、おそらくミカエラ博士本人が流した情報なのかもしれない。
 だとすると罠の可能性が高いわけだけど、それは特機のみんなも分かっていることだと思う。
 そして人質を取り戻すには、罠だと分かっていても飛び込むしかないことも。
「氷室、アクセルレイダー出動する!」
 指揮車両の後部ハッチが開き、アクセルレイダーが加速する。
 ここから先は氷室さんを信じるしかない。
 私は変形プログラムを完成させるために、キーボードを叩く手を速めた。


seen7-1

「映像用ドローン、展開完了しました」
 水無さんの言葉に、指揮車両のモニターに倉庫内の映像が映し出される。
 突入した倉庫は、最近では使用されていなかったようで、埃を被った木箱が乱雑に放置されていた。
 アクセルレイダーがしばらく倉庫の中を進むと、大きなスクリーンが設置されていた。
『ヨウコソ、特機の諸君。待ちわびていたヨ!』
 スクリーンに映し出されたのはミカエラ博士。
 まさかこんなに早く姿を見せるとは思わなかったわ。
 彼は園咲顕将と違って戦闘力は皆無に近いから、もっと決定的優位に立ってから姿を現すと思っていたのに。
「氷室君、変形プログラムが完成するまで時間を稼いでちょうだい」
 ボスからの通信に彼は頷く。
 いかにアクセルレイダーの性能が高いとはいえ、今のままでは速いだけのバイクでしかない。
 戦闘用の変形が出来なくては、これから現れるであろうシャドールの怪人との戦いは厳しくなるのは目に見えているわ。 
『・・・・・・誰だお前?』
 当然ながら特機のメンバーはミカエラ博士の事を知らない。
 黙って活動していればバレないのに、何でうちの幹部は自分から顔出ししたがるのかなー。
 先日秋葉原で園咲顕将が捕まった件を考えれば、顔出しがマズいって分かると思うんだけど。
『誰って・・・・・・ワタシの名はミカエラ・アンダーソン。シャドール四大長の一人ダ! ていうか、お前こそ誰ダ』
『何で悪党に名乗らないといけないんだよ。それより四大長って何だ?』
 ミカエラ博士の質問を無視して、自分の疑問だけぶつける氷室さん。容赦ないわ。
 当たり前の話だけど、特機メンバーはシャドールの内部階級なんて知らない。
 元々シャドールは闇に包まれた謎の組織なのだから。
『ガッデム!』
 スクリーンのミカエラ博士は悔しそうに地団駄を踏んでいる。
 せっかくの幹部登場シーンなのに、なんて締まらない絵面なのかしら。
『四大長ってのは、シャドールの中でも園咲顕将と同等の幹部のことっすよ』
 スクリーンの影から人影が浮かび上がる。
 栗色の髪をサイドアップに纏めた、少し癖っ毛の入った髪型。
 コマンダー部隊に支給されている戦闘用コートではなく、前で合わせるタイプの黒い忍び装束のような上着に、これまた黒いミニスカートはフリフリのフリルがあしらわれている。
 足元は黒いハイニーソックスに黒いブーツと黒ずくめ。
『君は・・・・・・美也ちゃん?』
『いやっすねー、それはバイト先の源氏名っすよ。本名はヤミ・マクドゥガルだって名乗ったじゃないっすか』
 だから本名名乗るなよ。あんた暗部の人間でしょ?
 もう少し個人情報を大事に扱おうよ。
 指揮車両のモニター越しに見ていてヤキモキするわ。
「四大長・・・・・・園咲顕将みたいな悪の科学者が四人も居ること?」
 ヤミの言葉にボスが推理を働かすが、残念ながら科学者というか、研究者は園咲顕将とミカエラ博士の二人だけよ。
 とはいえ、さすがにそれを口にすることは出来ないけどね。
『ヤミ・・・・・・やはり君もシャドールなんだな』
『前回やり合った時点で明白っすよね。ところで今回はオーガインは一緒じゃないっすか?』
 ヤミもこちらの最大戦力であるオーガインの存在を警戒しているようね。
 周囲を確かめるように気配を探っているように見えるわ。
『あいつなら休暇中だ。君もシャドールなら逮捕させてもらう』
『ふーん、簡単にはやらせないっすよ』
 氷室さんは愛用の拳銃を、ヤミはガンナイフを両手に構える。
 互いに扱う武器は銃器、間合いを探り合うべくじりじりと移動を開始しようとする。
『チョットチョット、ワタシ無視しないでクダサーイ!』
 今にも銃撃戦に入ろうとする二人に、ユルい声がかけられる。
 会話に置いてかれたミカエラ博士である。
『ワタシを忘れるとは何事ネ!』
『いや色物外人オッサンより、可愛い女の子と話す方がいいだろ』
『ガッデム!』
 氷室さんの遊び人特有の女子優先スキルに、ミカエラ博士はまたしても地団駄を踏む。
 もうただのコントにしか見えないわね。 
 でもそれ、一応はシャドールの幹部だよ?
 色物扱いはどうかと思うんだけど。まあ、色物なのは否定しないけど。
『可愛い女の子・・・・・・』
 ヤミはヤミで赤く染まった頬を手で覆いながら、何故か喜んじゃってるし。
 どんだけ褒められ耐性無いのよ。チョロ過ぎるでしょ。
『ワタシには貴様ら特機に恨みがアリマス。世紀末巫女伝説アンジェラを勝手にユーザー登録された恨みガ!』
 それ、まだ根に持ってたんだ。
 さすがに少し女々しいと思うわ。
『なんだよ、その世紀末・・・・・・なんだっけ?』
『世紀末巫女伝説アンジェラ!』
『そう、それ』
 聞きなれない単語に氷室さんは困惑しているようね。
 確かあの時、氷室さんはメーカーと小売店の調査に出てて、ユーザー登録云々の時は居なかったもんね。
「あのミカエラって人、何言ってるのかしら?」
「さあ?」
 実際にユーザー登録を指示し、実行したボスと水無さんも何処吹く風といった感じですっとぼけてる。
 さすがに実行犯がとぼけては、ミカエラ博士が可哀想じゃないかな。
『この間、園咲を捕まえた時、勝手にインストールしてユーザー登録までしたダロ!』
「そんなことあったっけ?」
「さあ?」
 この二人、タチが悪いわね。
『お前の上司、意味不明過ぎてよく分からないんだけど、頭大丈夫か?』
『アタイの直属の上司じゃないから問題ないっす』
『ガッデム!』
 もうコントはいいから。
『ゲームソフトは手元にあるのにプレイできないモドカシさ。待ち遠しかった愛するキャラとの出会いを邪魔サレ、まるで寝取られたかのような絶望感。お前達に理解デキルカ?』
『出来ない』
『出来ないっすね』
「出来ないわね」
「出来ないですね」
『ガッデム!』
 氷室さんはともかく、なんでヤミまでミカエラ博士を追い詰めてるのかしら。
 そしてボスと水無さんは自分達がやったことくらい覚えておこうね。
『ダカラ・・・・・・お前達ニモ同じ絶望を味わわせてヤルネ!』
 言い終わるとスクリーンが上方にスライドしていき、その奥から透明なガラス板に間仕切りされたケースのようなものが現れる。
 中には前回誘拐された人達が監禁されており、その表情は憔悴しきっているように見て取れた。
『おい、何をする気だ。その人達を開放しろ!』
『HAHAHA、そう言われて開放するバカが居るとでも思ウカ?』
 人質を目の当たりにして焦る氷室さんをミカエラ博士は嘲笑う。
「氷室君、強引でもいいから監禁されてる人質を今すぐ助けて!」
 異様な雰囲気を察知して、ボスは咄嗟に指示を飛ばす。
『了解、こうなったら実力行使だ』
 それに応えて、氷室さんはケースに向けて拳銃を構える。
 銃撃によりガラスケースを破壊して助け出すつもりね。
『おっと、そうはさせないっすよ』
 それを静止するようにヤミもガンナイフを氷室さんに突きつける。
 このまま撃てばケースに監禁された人達を助けることは可能かもしれない。
 だけど、そうするとヤミの攻撃を捌くことは出来ない。
『もっとも、あのケースは防弾性だから撃っても無駄っすけどね』
 ヤミの言葉が本当なら、ケースに向けて銃を撃ったとしても、監禁された人達を助けることは出来ない。
 それどころか、その隙を突かれてヤミの攻撃も受けてしまう。
 これでは八方塞がりだわ。
『だからと言って黙って見てるなんて出来るわけねえだろ!』
 氷室さんはアクセルレイダーのエンジンを吹かせ、その場で後輪を回転させることで土煙を巻き起こす。
『なっ、セコい真似をするっすね』
 ヤミのガンナイフが雷の如き射撃音を轟かせると同時に、アクセルレイダーは急発進する。
 銃弾を紙一重で躱し、そのままガラスケースに接近すると、バイクの加速を利用した一撃を撃つ。
 発射された銃弾はバイクの勢いを乗せ、ガラスケースの一点を突き破るべく突き進む。
 ガキン。
 しかし渾身の銃弾は、徒労と終わり弾き返されてしまう。
『HAHAHAー、残念デシタ! そんな豆鉄砲ではこのケースは破壊できないネ!』
 スクリーン越しのミカエラ博士は高らかに笑いながら、いつの間にか手にしたスイッチを押す。
 するとガラスケースの天井にある排気ダクトから怪しげなガスが流れ込み、ものの数秒で中に充満していく。
『何だこれは?』
『助けてくれ!』
『く、苦しい・・・・・・』
 監禁された人達は、自分達の身に何が起きたのか理解できず、困惑の声を上げる。
『HAHAHAHAHAHAー! 目の前に人質が居るのに何も出来ないモドカシさ、被害を止められなかった絶望を味わうがイイネ!』
『ちくしょーーーーーーッ!!』


その4へ続く。
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