18940710 NO860 袁世凱・葉志起・李鴻章などの動き
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駐韓日本公使館記録 3巻 五. 軍事関係一件 (6) [清国軍の動静に関する別紙報告]
文書題目 (6) [清国軍の動静に関する別紙報告]
文書番号
発信日 明治二十七年七月十日 ( 1894年 07月 10日 )
発信者 少佐 神尾 （1892年（明治25年）4月28日から後の駐在武官にあたる清国公使館付を拝命する。1894年（明治27年）8月17日に帰国し同年10月から第2軍情報主任参謀として日清戦争に出征する。・・・1916年（大正5年）6月、陸軍大将に進む。同年7月歴戦の功から男爵の爵位を授けられ華族に列せられる。）
受信者 大鳥特命全権公使
(6) [清国軍の動静に関する別紙報告]
(前文欠)を語り御参考になることもあるかと思い提出します。御一覽の上公使館付武官または陸軍官憲へ御回し下さい。
七月十日
神尾少佐
大鳥特命全権公使 閣下
[別紙]
文書題目 六月三十日稿 陸軍步兵少佐 神尾光臣
六月三十日稿 陸軍步兵少佐神尾光臣
一. 北京政府、ことに帝室の李鴻章の戦争説に同意していない事はその当時すでに電報でお知らせしたとおりで全くの事実である。しかしながら李鴻章氏がどんな事を提案したのか、また皇帝および北京政府はどのような主旨を李氏に下したのかは、別冊電報彙報の第十一号にある総理衙門のいわゆる各国公使の勧告によって、増兵を欲しないと言う事よりほかは取り上げる事が出来る確証を得ていない。しかしながら信用できる報によるとその大略は次の二件以上ではないようだ。
一） 戦争は国家の大事である。軽挙してはならない。これから日本と戦おうとしている。果して勝算はあるか。
二） 近年日本との親しみは密である。いたずらに平和を破ってはならない。止むを得ず戦うことになっても皇太后の万壽節前には一兵も動かすことは許さない。
これが果して正確であるかどうかはわからないが、とにかく北京政府が戦争を求めていない事は明らかである。 (万壽節前には)また皇室は今やほとんどすでに三百年に達し、交迭の時期は遠くないだろうとは清人一般の意見である。もし一度外国と兵を交え敗れた場合は、外国との交涉はしばらくおいても、自家の帝位の継続もまた期待できない。清国が戦いを欲しないのももっともだと考えられる。しかしながら李鴻章氏は一度諭されたからと言ってすぐに自説を曲げるような弱丈夫ではない。目下なお北京政府と往復中であるはずなので、朝廷に廟議を動かし戦争に至らせることもまたありうると覚悟していなければならない。出師準備を命ずべき兵なども今なお一令のもとに出発できる準備ができつつある。
李鴻章氏の戦争説にとって大いに力となるものが「デットリン」氏であることは今や少しも疑いはない。ただ「デットリン」だけでなくドイツ人は一般に戦争を希望し開戦を勧告しているようだ。
二. 日清両国交涉事件について日本政府の要求する事件は次の三件だと外国人たちは見ている。
一） 日本の出兵経費は清国がこれを弁償する事
二） 朝鮮の電報行務に清国人を使用しない事
三） 袁世凱を召還する事
そしてこれを判断して「第三項は清国はこれを承諾するだろうが、第一、第二項に至っては決して承諾しないだろうから、結局兵力に訴えることになるだろう」と。
小官は本邦の要求が果してこのようなものかどうかは知らないが、なおこれに属邦論の一項を加えたい。そしてそうだとするといかに姑息の帝室であっても、いかに目先の安楽を求める北京政府であっても、決局兵力に訴えることが止むを得なくなると信じる。
三. 帰国の途中目下天津にいる駐箚北京ロシア国公使・伯爵「カシニー」氏に李鴻章の仲裁を依頼したのは事実だと考えられる。直接李氏と交渉しなかったとしても、中間に「デットリン」を介して往復はすこぶる頻繁である。また公使館付の者たちも当初日清交涉の事が起った時は戦争を希望していたが、公使「カシニー」の着津後、急に自説を変え戦争を喜んでいないもののようだ。これは公使の説に隨和下からであろう。目下ロシア国が、日清両国が交涉して朝鮮問題を決定することを恐れているのは、「智者を待て後知らさるなり（＊不明）」。したがって私は伯爵「カシニー」氏が喜んで李鴻章の請いを入れたと信じる (本国政府の訓令を仰いだのは勿論であるが)。本邦政府がこのような自家の利益を主とする仲裁者の言葉を信用されないように望む。
[別紙]
文書題目 明治二十七年七月七日 陸軍步兵少佐 神尾光臣
明治二十七年七月七日 陸軍步兵少佐 神尾光臣
一. 李鴻章氏及び北京政府の意向がどうかを知る事は目下の最大急務だとは言え、事はすこぶる機密であって短い手紙や書簡でも正確な書類を得る事はできない。しかしながら李鴻章氏があくまでも主戦説であるのと、北京政府の平和論であるのとはいろいろな言い方はあっても同じ意味であるだけでなく、機密報告者の報告もまた同様である。しかしながら北京政府の平和説もあるところまでであって徹頭徹尾平和論ではないのは言をまたないだろう。
二.つぎの一報は信用できる機密報告者からえたものである。すなわち李鴻章より奏請し朝廷がその請を容れ、軍機大臣に命令を伝えさせたものである。北京政府の意向がどうかを見るに充分であろう。
軍機處電寄伝 諭
劉銘伝（1891年まで台湾巡撫）銃兵 往朝鮮 速即来京
なお李鴻章氏は、喪中で在��の李経芳に親しく、劉銘伝氏の家居している六安州（＊現・安徽省六安市）に行き上京を勧めることを命じたと言う (劉氏は目下眼病に悩まされているので強いて起たせるため) 。今日までは劉氏が果して来京するかどうかの報に接していないが無論来京するだろうと察せられる。対韓政略は氏の来着をまって確定すると考えられる。
三. 盛字軍（衛汝貴の盛字軍6000）はすでにその輜重（しちょう ＊軍隊で、前線に輸送、補給するべき兵糧、被服、武器、弾薬などの軍需品の総称のこと）を乗船所である新城 (馬欄は塘沽に祈城は良棧榪なき為め（＊意味不明）) に輸送したにもかかわらず命令を待っているのは、全く劉（＊劉銘伝か）氏の来着を待っているものと察せられる。
同軍の上陸点は、実際その軍について探聞させたところ大同江（テドンガン）であるらしい。即ち十中七八は平壌と思われるが、その二、三は牙山（アサン）と云う (次項電文参照)。
また同軍の輸送は招商局汽船の都合上二回輸送に決定してあるとは実際であるようだ。
四. 次の電報文は信用できるところより得たものであるが少し疑われる点がある。察するにその大体を知っているものが作為したものであろう。これを他の報告などに照すと大体事実であるようだ。
七月一日李鴻章より葉志起提督に送った電報
「現在乱匪（＊東学軍）はすでに解散し、我が兵は牙山に駐在する必要はなくなっているようだ。日本との対立は既に表に現れている。漢江一帯は日本が既に占領し、牙山の海路交通は難しくなっている。北路より進んで京城に入ろうとしてもまた日本兵が阻止する所となっており、したがって連絡する事が困難だ。
今は匪徒が解散したので我が兵は撤回するとはっきりと宣言すべきだ。そして一方では大同江（テドンガン）に転駐して速かに魚雷水雷船隻でもって同河口を防御し、また電線を平壌に接続して厳に要地を守備し、朝鮮沿岸がみな日本に先制されるのを防くべきだ。そうなれば陸路で義州を経て大部隊を送るのにも妨げがなく、海路の交通もまた便利となるだろう。聶士成と臨時商議し機を見て処理する必要がある」
五. 本月五日康済号が牙山（アサン）より病兵五十余名及び山海関兵が携行してきた臼砲を乗せ塘沽（タンクー ＊渤海の海岸に位置する。天津市中心部からは海河を50kmほど下った位置にあり、華北地区の重要港湾である天津港は塘沽の臨海地域を中心とされていた）に到着した。この砲は討賊用であって我が兵にとっては威力がないといって葉提督より交換を請求し、その代砲として鎮遠号の上陸隊用クルップ七センチ半砲四門を陸揚げしているのである。
帰って来た病兵の話によれば、牙山は天気がすこぶる不順で雨が多く、その上昼間は厚く夜は寒く、このため病兵がすこぶる多く、士卒みな帰る日を思って軍情すこぶる沮喪している、と。また葉志起氏は盛字軍及び北塘の兵が間もなく来着するといって日々部下を慰めているとのこと。
六. かつて袁世凱と葉志起提督は、先ず密かに韓王を拘留し、その後大兵を送って私と朝鮮を争おうとの意見を李鴻章に呈したが、李鴻章は許さなかった、と。
七. 李鴻章氏は今回の事件が予想通りに結了した後は、朝鮮の朝廷を滅して清国の省として、東参省（＊遼寧省・吉林省・黒竜江省）のように将軍を置いて統治しようとの意見を持っているとのこと。
八. 軍隊の練兵、 (目下土工期であるがこれも中止して) 兵器製造所の工作などをしきりに督励従事中である。
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