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2016年12月31日11:24

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ハンブルクバレエ 大地の歌

2016/12/17土 19:30- ハンブルク州立歌劇場

Music: Gustav Mahler
Choreography, Set, Lighting Concept and Costumes: John Neumeier

Premiere:
Ballet National de l'Opéra de Paris, Paris, February 24, 2015
Premiere in Hamburg:
The Hamburg Ballet, Hamburg, December 4, 2016

指揮:Simon Hewett
テノール:Klaus Florian Vogt
バリトン:Michael Kupfer-Radecky
管弦楽:Philharmonisches Staatsorchester Hamburg

フォト


キャスト:
Hélène Bouchet
Alexandr Trusch
Karen Azatyan

バタバタでだいぶ時間が経ってしまいましたが、ハンブルクバレエの今シーズンのプレミア、「大地の歌」を観に行ってきた感想を。

ドイツが誇るスターテノールの一人、クラウス・フロリアン・フォークトとノイマイヤーのバレエの夢の共演ということで楽しみにしていたこの公演。私は、今年の6月のローエングリンですっかり魅せられてしまったフォークトが歌う位置を事前に確認し、そのまん前の1列目の席を確保して臨みました。

歌手は、舞台の左右の端に設置してある演台で歌います。テノールが下手、バリトンが上手。歌わないときは左右にある舞台袖のところから中に入って待機しています。写真は、私の席からフォークトの演台とステージのビュー。

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そのせいもあったかもしれないけど、観終わったときの感想は、とにかくフォークト素晴らしい!ってことだった。来日してたとき、ローエングリンは貧民席だったけど文化会館小ホールの水車小屋は2列目正面の至近距離で聴いてて、それと同じような感じを想像していたら、全く違う声量で驚きました。小屋の大きさや作品、オケと一緒かどうかでそりゃ声量も変えますよね・・・。クリアでよく通る明るく美しい声質、正確な音程やリズム、本当に聴いていて気持ちがよかったです。

で、その素晴らしいフォークト様のお声に、残念ながらダンスが負けていたなぁというのが正直な感想。うーん。

肝心の作品の作り自体は、とてもよくできた美しくて心を打つもの、だと思いました。だいぶ前にミュンヘンでマクミラン版の大地の歌を観たことがあるのですが(そのときは指揮が沼尻さんだった。何と贅沢!)、マクミラン版が歌詞を割と直接的に表現しているのに対し、ノイマイヤー版は抽象的で、より心理的なものに重心を置いているように思います。マクミラン版との比較でいくと、あちらでは仮面をかぶった男性が演じる「死」を、ノイマイヤー版では女性(今回はエレーヌ)が演じるところも面白い。この女性は恐ろしい存在ではなく、母性的な、そう、それこそ、母なる大地のような存在。それもあって、第6楽章では、死は恐れるものではなく静かに包んでくれるものなのだというメッセージを感じて心に染みました。これはジョンの現在の死生観なのでしょうかね。少し切ない。

そして、この作品、舞台美術がとても美しい。メインの装置自体はシンプルで、芝生の生えた傾斜のついた三角の「台」(プルガトリオで出てきたやつによく似てる)と、舞台の奥にかかっている、やや上手側に丸い穴のある幕。幕の穴には水平の軸を中心に前後方向に回転する円盤がついいて、満ち欠けする月を思わせます。幕が照明でいろいろなニュアンスに変化し、円盤の角度で月の形が変わる。また、円盤部分に更に三日月のような照明が重なることも。あと、マーラーの曲が中国の詩に由来しているということで、ダンサーの衣装は、ボタン部分や襟の形などがややそれっぽい。途中、ダンサーがお茶を持ってすり足で踊るシーンもあり。ただ、思ったより東洋色は強くなかったです。むしろ、時代や場所が特定できない抽象空間で、しかも、不思議な静謐さがある美術が生と死の間の世界というのを表現しているように思いました。

さて、ダンサーの件に戻りますが、ジョンの表現したいことが余りに深淵で、数回の上演では理解するのが難しいのかなぁと思いました。特に残念なのは主役を張ってたトルシュ。難しい振付を軽々とこなしていて踊りに文句はないけど、気持ちが伝わってこないんだよなあ。あの役が情感豊かに作品の世界観を引っ張ったらコールドも影響されて、作品全体が全く違う印象になるはずだと思うのだけど。パリオペでの初演時はこの役、エルヴェがやるはずなのが怪我降板でマチューが踊ったはず。何となく、その2人の方が、トルシュよりはニュアンスがあってよかったんじゃないかなあ。ジョンにはそのつもりはないだろうけど、サーシャ・リアブコさんだったらどんなに素晴らしい舞台にしてくれたことか(T_T)

ただし、彼の「影」を演じたカレン・アザチャンと、死を演じたエレーヌ・ブシェは素晴らしかった!カレンは本当に印象的なダンサーで、彼が出てくると目が行ってしまうのですよね。まだ20代なのに何か深みを感じさせるところもあるし、彼が主役を踊ったらどんなだったのかしらと思わずにはいられません。メランコリックで美しい顔立ち、体もきれいで動くときに支配する空間が大きく、情感も豊か。ブベニチェク兄弟を彷彿とさせます。私にとっては、特別枠のリアブコさんを除けば一番観たいハンブルクダンサー。

出待ちで会ったカレン。
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エレーヌは、ちょっとふっくらして、その体型とそして母性を感じさせる役どころもあって、引退したアンナ・ポリカルポヴァを彷彿とさせる存在感の大きさでした。

と、何となく、消化不良気味の公演ではありましたが、この作品もジョンの他の作品の例にもれず、回数を重ねていくほどにダンサーの理解度が進んで完成度が高くなっていくはず。2年くらいしたころに、もう一度見てみたいなと思いました。そういえば、2017年のバレエ週間にも「大地の歌」の公演がありますが、ニジンスキーガラの前日なので、ここはゲストダンサーがくる可能性が高い日です。ひょっとしたらパリオペからマチュー、あるいはエルヴェあたりがきて踊るのかな?テノールは、さすがにフォークトじゃないと思うんですけどね。このあたりはバイロイトのマイスタージンガーの直前だし。

そうそう、観る前から酷評を耳にしていて心配していたバリトンのミヒャエル・クプファー・ラデツキーさん。確かに、素人目にも「歌えてない」感じでした。持っているお声自体は柔らかくて好きなんですけどね。

写真は、大地の歌のカーテンコール。フォークトの左側は日本人ソリストの有井さん、右側がトルシュ。
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出待ちで会ったフォークト。6月のローエングリンありがとう!と伝えて写真やサインをお願いしたら、にこやかに対応。いつもながら、スター然してない、素朴でいい人ですなあ彼は。ちょっとびっこをひいていて、ステージ外では片足にギプスをしてました。スポーツでやっちゃったけど、もうよくなってきたよ、とのこと。そういえば、公演中、ステージ外で控えてるときにフォークトが鼻をかんでる音が聞こえてきました^^; 少々風邪気味だったんでしょうかね。声からは分からなかったけど。
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参考までに、12年1月にバイエルン歌劇場で観たミュンヘンバレエのマクミラン版「大地の歌」の感想はこちら。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1812331751&owner_id=2438654
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