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2016年10月17日21:41

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スートラ

2016/10/1土 19:00- オーチャードホール

体調が悪かったのと遠征があったのとですっかり時間が経ってしまったのですが大好きなシェルカウイのスートラの感想、記憶を振り絞って残しておきます。

演出・振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ
舞台美術:アントニー・ゴームリー
音楽:サイモン・ブルゾスカ

活躍中の振付家の中では世界で2番目に好きなシェルカウイ(一番はもちろんノイマイヤー)。彼の振付も舞踊言語がユニークで面白いのですが、それ以上に素晴らしいのが演出家としての力量だと思います。今回は何と少林寺武僧と組んだパフォーマンスだという。どうなることやらとちょっと心配だったのですが、観たらそんな心配をぶっとばす素晴らしいパフォーマンスでした。シェルカウイ、本当に天才だわー!

ステージ上にたくさんの木の箱が並んだ状態で始まり、武僧が一人だけその上にいる。と思ったら、その木の箱がゴロンゴロンと、まるで生きているように前に転がってくる・・・!ここのところでわーっ凄いと鳥肌。この、人が一人中にちょうど寝られるくらいの木の箱(フタのない棺みたいな形)、これを使うという発想とその使い方がもう天才的。ステージ上の武僧達自身が箱を運んで時には積み上げ、時には立てて、ときにはその中に入り込んだりして、ステージ上の風景が変わっていく。

振付といっても、武僧たちの動きは少林寺のそれで、シェルカウイはむしろそれを再構成する演出家としての役割がメインだったのだと思います。ただ、今回は彼自身が踊ってくれて久々にあの体の関節どうなってるんだろうというくねくねした動きが観られて嬉しかった。そういえば、シェルカウイのあの柔らかさ、ポーズも含めてヨガっぽいなと感じたな。

ジャンプや闘いの構えで迫力ある演技をする武僧たち。シェルカウイ本人も踊るけど、彼は僧たちとは決して同化しない存在。彼らをリスペクトをこめて観察し、動きを真似てみるけど同じことはできず、ときにソフトではあるが弾かれたりする。子供は柔軟で唯一彼に心をひらいてくれる存在、なのかなと思いました。最後はやはり、武僧たちは武僧たちの世界に帰っていき、シェルカウイはそれを静かに見ている。ストーリーが明確にあるわけではないけど、私はそんな、シェルカウイが少林寺に対して抱いた尊敬の念が現れた作品だなと思いました。

武僧たちの身体能力は凄くて、飛び上がったときの滞空時間の長さは体操選手のよう。あの動きはダンスではないけど、鍛え上げられた体の動きはダンスに通じるものがあるなあ。

音楽はオリジナル。ものがなしい響きはあるものの、明らかに西洋のもの。あの手の音楽に親しんでいない武僧たちが音とあっててすごーい!と感心してたら、実は演奏する人達のほうが彼らの動きに合わせているのだと聞いてなるほどなーと思いました。オーチャードではPA使ってたのが残念。使わなくても聞こえたんじゃないかしら。

しかし、シェルカウイの作品って本当に面白い。私が彼の作品と出会ったのは首藤さんが出ていた「アポクリフ」、今でもあの衝撃は忘れられません。そのあとのTeZukAも凄かった。映画のアンナ・カレーニナのあの絡む手の動きもすごく好き。プルートゥという演劇の演出や、スカラ座で観たギー・カシアス演出の「ラインの黄金」の振付でも彼の非凡さを感じました。唯一、サドラーズで観た「ミロンガ」ってタンゴの作品だけはピンとこなかったけど、とにかく外れの少ない人だと思う。最新作のFractus Vって凄く面白そうなんだけど誰か日本によんでくれないかしら・・・。

シェルカウイ作品は、彼の主催するEASTMANが欧州で結構頻繁に上演しています。味を持たれた方、欧州遠征の際はこちらの公式サイトで彼らの公演のスケジュールもチェックしてみてください!
http://www.east-man.be/en/calendar/

さて、この日の公演終演後に、森山未來さんも参加のシェルカウイのポストトークがありました。そのときのメモを残しておきます(私の聞き取り+意訳が入ってますので彼の意図を正確には反映していないところもあろうかと。ご了承くださいませ)。

・昔から少林寺のファンだった。少林寺を過去のものではなく、別の形で、彼らの今を表現したかった。少林寺の僧侶たちは古い歴史的なものととらえられがちだが、実は彼らは若くてまさに今(contemporary)なのだ。
・ゴームリーと一緒に、シンプルな箱の舞台をつくった。想像を助けるようなものにしたかった。
・人はみな、自分の体の分のスペースを与えられて生まれてくる(箱はそういうことも表現している)。この箱は、棺、寺院、階段、街、森、蓮の花など、いろいろなものを表現する。
・(司会者)箱は一つ30kg。鉄製のシルバーのものはもっと重い(!)
・(未來くん)Sutraをナマで観たのは初めて。この作品は、TeZukAと同じ時期に平行してつくられていた。音楽の奏者もかぶっているところがある。
・TeZukAは火の鳥にインスパイアされている。手塚治虫のキャラは、俳優のようにいろんな作品に出てくる。それを輪廻ととらえて、TeZukAに採用していた。
・(未來くん)中国の文化との出会い、手塚治虫との出会い、そういう異文化と知り合ったときに、シディラルビはエキゾチズムで終わらない。自分の語彙に変換している。
・(司会者)7か国、35名がこの作品に参加している。ステージに小さな地球がある。
・違いを乗り越えるチャレンジを解決するには・・・(ここ聞き逃した)、知らないものは発見しなくてはならない。そういうとき、相互作用はシンプルでないといけない。会話を始めるにはシンプルでないといけない。だから、そこには誤解がない。私達は日常生活でもそうあるべきなのかもしれない。
・彼らと共通なところもある。僕はベジタリアンでアルコールもとらない。彼らは宗教のためにそうしているけれど、自分は違う理由で同じことをしていることに、彼らは驚いていた。
・彼らはダンサーじゃないので、音楽に従わせるのは難しい。だから、こうなった(演奏者が武僧にあわせる)。

ラルビは、細い声で静かにしゃべる、哲学者みたいな人でした。

最後に、2010年9月、私のシェルカウイとの衝撃の出会いであったアポクリフの感はこちら。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1576085022&owner_id=2438654



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