mixiユーザー(id:2438654)

2016年09月26日21:19

379 view

ハンブルクバレエ ニジンスキー

2016/9/24 Sat. 19:00- ハンブルク州立歌劇場

Nijinsky

Music
Frédéric Chopin: Prelude N° 20
Robert Schumann: "Carnaval" op. 26, 1st movement
Nikolai Rimsky-Korsakov:
"Sheherazade" op. 35, 1st, 3rd and 4th movement
Dmitri Shostakovich:
Sonata for Viola and Piano op. 147, 3rd movement
Eleventh Symphony op. 103

Choreography, Set and Costumes (based partly on original sketches by Léon Bakst and Alexandre Benois):
John Neumeier

Conductor: Simon Hewett
Hamburg Philharmonic State Orchestra

Cast
Vaslav Nijinsky: Riabko
Romola Nijinsky: Bouchet,
Serge Diaghilev: Urban
Bronislava Nijinska: Friza,
Stanislav Nijinsky: Martínez
Eleonora Bereda: Laudere,
Thomas Nijinsky: Franconi
Tamara Karsavina: Azzoni,
Leonid Massine: Bellussi
Nijinsky – The Dancer: Azatyan, Riggins, Trusch

3シーズンぶりにハンブルクで再演のニジンスキー。シーズン初日の豪華なファーストキャストを観てきました。

久々のニジンスキーは、やっぱり凄い作品でした。まさにノイマイヤーの最高傑作。作品とダンサーの力に圧倒されて、幕が下りた後もしばらく身動きできず、拍手もできませんでした。足もガクガク。いやあ、打ちのめされました…。

とにかく、濃密な作品。ニジンスキーが最後に人前で踊ったとされるスヴレッタ・ハウスでのイベントでニジンスキー自身がこれまでの自分の生涯を振り返るという設定。一幕では彼が天才ダンサーとして華々しい活躍をしていた時代がシェヘラザードに乗せて、二幕では狂気の淵に沈んでいく彼の内面世界がショスタコーヴィチに乗せて、それぞれ描かれていきます。音楽の使い方が凄くて、特にショスタコなんて、このバレエのためにあった曲なの?と勘違いしそう。ジョンの音楽のセンスは本当に素晴らしい。

ニジンスキー役はサーシャ・リアブコでしたが、ニジンスキーの演じた様々な役柄を他のダンサーが演じ、それらトータルでニジンスキーという一人の人間が表現されています。特に一幕はバレエリュスの有名な衣装・ポーズ・振付が息をつく間もないほど次から次へとてんこ盛り。(ノイマイヤーのニジンスキーオタクっぷりに感服。ある意味、コアなファンの二次創作とも言える!)

ニジンスキーの演じた役たちは単にオマージュとして登場するだけではありません。ニジンスキーを愛した人達〜劇場の観客、ロモラ、そしてディアギレフも〜は、彼本人でなく実は彼の演じた役柄を愛していた(少なくとも彼からはそう見えた)ことが示されていきます。ロモラとの船上の出会いのシーンは典型的。お互い惹かれあったはずの彼らなのに、ロモラは彼の分身である牧神と踊るのです。このあたりの3人の振付はノイマイヤーの真骨頂で実に巧み。バレエとしてはここの船上のシーンが素晴らしいです。

濃密といえばディアギレフとの関係。ディアギレフがニジンスキーやその演じた役を抱きしめたりお姫さまだっこしたりするシーンは頻繁に登場し、彼らの親密な関係が明示されます。それと同時にニジンスキーを支配しようとするディアギレフの愛がニジンスキーを精神的に追い詰めたことも二人の苦しげなパドドゥで表現される。ニジンスキーは彼の束縛から逃れて精神の均衡を保とうとしますが彼の元から離れることができない。ニジンスキーの、精神の均衡を保とうとする姿は直立して両手を水平に広げる印象的なポーズで表現され、作品の中に何度も登場します。

と、ここまで書くだけでぐったりなんですが、二幕はさらにディープ。ディアギレフとの関係(レオニード・マシーンというライバルに奪われる)、ロモラとの関係(ニジンスキーの主治医との浮気)、兄スタニスラフの発狂、そして第一次世界大戦の闇。それらに押しつぶされる形で次第に狂気の淵に沈んでいくニジンスキー。ここは憑依系ダンサー、サーシャの本領発揮で見ていてぞっとするような痛々しいニジンスキーが見られました。日本公演のガラで一部上演されたのもこの部分です。

最後のシーンはスヴレッタ・ハウスに戻ります。ニジンスキーの目から見ると狂っていたのは自分ではなく世界の方だったのか。黒と赤の布を十字に敷いてそれを体に巻きつけ、十字架のようなポーズで目を見開き、声にならない叫びをあげるニジンスキー。わずかにつながりが残っていたこの世界との決別のシーンなのかな…。

濃密な作品を濃厚に演じたダンサー達について。

大好きなサーシャの待望のニジンスキー再演。彼はもちろん、期待以上のものを見せてくれました。彼のニジンスキー全幕は何度か観たことがあるのですが、3年前と比べると「静かな」ニジンスキーだったなという印象です。以前は四方から追い込まれた暴力的なまでに狂気の人のイメージが強かった彼のニジンスキーですが、今回はあのいっちゃった眼差しはそのままに、誰も本当の自分を見ていないという無力感・孤独感・絶望感を強く感じる、より深いニジンスキーになっていました。彼一人で舞台を強引に引っ張るのではなく、ニジンスキーの分身達とのバランスがよくてストーリーがよりクリアに見えた印象です。ただその分、精神的な痛ましさは倍増。特にロイド演じるペトルーシュカと二人でニジンスキーを演じるところはもう痛ましくて痛ましくて涙が止まらなくなり、二幕の半分は泣きっぱなしでした。

最後のシーンでいったん幕が下りた後、もう一度サーシャだけのカーテンコールがありました。まだ役の心が残っているような表情のサーシャ、膝に手を添えて深々と、長く頭を下げていました。彼のカーテンコールは儀礼的なことが多いのでこれは珍しいこと。疲れきったということと、やりきった充実感、その両方が混じっていたのではないかな…。

そうそう、ロイドのペトルーシュカは絶品です。数少ない初演キャストの彼、あの切ない表情は彼にしかできません。フォーキンのペトルーシュカをロイドで観てみたいと以前から思っているのですが、無理な話ですかねー。

そして、こちらも初演キャストそのまま、ディアギレフはイヴァン・ウルバン。彼のディアギレフは美しくて酷薄で絶対的で、本当に素敵。サーシャ演じるニジンスキーとの絡みは感情のやりとりが見られて濃厚です。長いこと怪我で踊れず、今シーズンからはSpecial Actorとバレエマスターの掛け持ちとなったイヴァン、ダンサー引退かと思ったらバリバリにディアギレフを踊っていて嬉しくなりました。ハンブルクバレエにはまだ、彼の後継者がいないのです…。

もひとつ重要な役・ロモラはエレーヌ。彼女のロモラ、以前一度だけ全幕で観たことがあるのですが、そのときと比べると強くなってセレブなお嬢様のロモラの役作りをがっつりしてきたなという印象。彼女も何を踊っても決して失望させないダンサーの一人。

そしてオットーが初演した金の奴隷&牧神を引き継いだのはカレン・アザチャン。彼は絶対この役が似合うと思っていてキャスト発表のときは猛烈に嬉しかったんですが、期待以上!妖しく美しい金の奴隷はオットーに勝るとも劣らない素晴らしさ!

ニジンスキーの同僚、タマラ・カルサヴィナはシルヴィア。感情を表さない役ですが、彼女はたおやかなルックスなのに踊りは強靭だなといつも思います。別の日にロモラを演じるとのことですが、強いニジンスカも似合いそう。

そのニジンスカはパトリシア・フリッツァ。彼女も初演キャストではないけど長くこの役を演じています。強くてかっこよくて、彼女のニジンスカは大好き!

サーシャ目当ての遠征だったのですが、コールドに至るまですごい気合いと完成度で、ハンブルクバレエの総合力に目を見張りました。ジョンも登場したカーテンコールはスタオベ、そしてサーシャにはたくさんの花束がとんでました(カーテンコール時に客席から舞台上のご贔屓ダンサーに花束を投げるのがハンブルクバレエ流!私も腕を上げました!)。シーズンのオープニングにふさわしい、素晴らしい舞台だったと思います。

この作品は、このバレエ団、そしてこの黄金のファーストキャストで見てこそ、だと思います。ニジンスキーが気になる方、サーシャとロイドとイヴァンが揃っている間にぜひ、観て下さい。同じキャストはこの先4回(3回は公式発表済み、1回は予想)あるはずです。(2016年9/27、2017年5/25、5/27、7/6。シーズンカレンダーは http://www.hamburgballett.de/e/kalender_15_16.htm


過去にニジンスキーを観たときの感想はこちら

2012年2月上海
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1821535265&owner_id=2438654

2013年6月ハンブルク
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1905528029&owner_id=2438654

4 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する