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2016年08月14日22:50

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中日新聞社説   戦争と新聞 週のはじめに考える

 中日新聞、今日の社説の転載です。
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2016081402000099.html








 今年も鎮魂の夏を迎えました。終戦まで戦意をあおり続けた新聞も、その責任を免れません。権力とどう向き合うのか、今も重い課題を投げかけます。


 七十一年前、一九四五(昭和二十)年のきょう八月十四日から十五日にかけて、宮城(きゅうじょう)(現皇居)周辺はクーデター未遂事件の舞台となり、騒然とします。日本の降伏を阻止しようと一部将校が企てた「宮城事件」です。


 歴史研究家で作家の半藤一利さんが綿密な取材で著した「日本のいちばん長い日」に詳しく記されています。二度にわたって映画化もされました。

反乱軍から放送守る


 その中に、東京・内幸町にあった日本放送協会の放送会館が将兵に占拠される場面があります。


 反乱を企てた陸軍少佐がスタジオで、放送員の館野守男(たてのもりお)さんに拳銃を向け、「午前五時の報道の時間のとき、自分に放送をさせてくれ」と懇請しました。


 しかし、「たとえ殺されても、狂気の軍に放送局を自由にさせてはならない」と考えていた館野さんは、警戒警報発令中の放送には東部軍管区の許可がいる、全国中継なら各放送局と技術的な打ち合わせが必要、などとかわします。


 にらみ合いはしばらく続きました。結局、少佐は東部軍参謀の電話による説得を受け入れ、抵抗を終えます。終戦の詔を自ら読み上げた昭和天皇の録音盤は無事、宮城から放送会館に運ばれ、十五日正午から「玉音放送」として全国に放送されます。


 館野さんは四一(昭和十六)年十二月八日、開戦の詔勅を朗読したアナウンサーでもありました。戦後はNHKのアメリカ総局長、国際局長なども歴任しました。


 メディアに携わる者としての命懸けの抵抗が、終戦をめぐる泥沼の混乱から日本を救ったのです。

「日本必敗」掲載命ず


 先の大戦中、放送のみならず新聞も厳しい統制下に置かれます。軍部や特高警察が日々の紙面に厳しい目を光らせていました。


 そうした戦時中でしたが、本社にも抵抗を試みた先輩がいます。


 四五年五月のドイツ降伏後、日本への空襲が激しさを増す中、富塚清(とみづかきよし)東大教授が書いた「日本は必ず敗(ま)ける」と題する評論が配信されます。その理由を理路整然と挙げ「一刻も早く戦争を終結させ、日本と日本民族の存続を図らなければならない」との論旨です。


 紙面編集担当の三浦秀文(みうらしゅうぶん)整理部長(後の本社社長)は掲載を命じます。部員は「こんな原稿を載せたら部長は銃殺、新聞は発行停止になる」と抵抗しますが、部長は「俺が一切の責任を取る。俺が銃殺になれば済むことだ」と一喝、原稿は印刷工場に回されました。


 遠隔地に配達するため締め切り時間の早い「早版」が刷り上がると、査閲部長が血相を変えて「この記事は何だ!」と詰め寄り、記事の削除を命じてきます。査閲部とは、記事内容が軍部の検閲を通るかどうかを審査する部署です。


 しかし、三浦部長は泰然としてたばこを吹かしながら、最後にこう命じます。「この記事は(締め切り時間の遅い)後版で抜け。早版はこのまま刷って発送せよ」


 七二(昭和四十七)年十二月に刊行された「中日新聞三十年史」からの引用です。


 一部とはいえ、日本必敗論を掲載した新聞の発行には、相当の覚悟が必要だったことでしょう。


 この評論を書いた富塚氏は航空エンジンや2サイクルエンジンの研究で知られる工学博士。科学者らしく戦況を冷静に分析し、本社を含めて多くの解説評論を寄稿していました。


 本社が発行していた「中部日本新聞」の四五年六月八日朝刊にも「獨逸(ドイツ)は何故敗れたか」と題する記事が掲載されています。


 この中で富塚氏は神がかり、排他主義、機動性欠如の三要因を挙げ、教育者らしく科学軽視、教育軽視を加えています。ドイツの敗因分析の形になってはいますが、日本の軍部批判に他なりません。


 検閲をくぐり抜けるための工夫です。こうした記事を載せることで、軍部や特高に一矢を報いようとしたのでしょう。

権力と向き合う気概


 新聞は戦時中、大本営発表の誤った情報を垂れ流し、真実を伝えず、国民の戦意高揚の一翼を担いました。いかなる事情があるにせよ、日本を誤った方向に導いた責任を免れるものではありません。


 しかし、戦争という一個人ではあらがいきれない歴史の中で、命懸けの抵抗を試みた報道人がいたことも事実です。私たちにはその気概を受け継ぐ責任があります。


 新聞は今、緊張感を持って権力と向き合っているのか。権力とメディアとの関係が厳しく問われている今だからこそ、自問し続けなければなりません。戦争という歴史を繰り返さないために。

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