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2016年08月11日16:49

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ヤンデレシミュレーター本編物語2

■地下室のテープ (日本語訳)
フォト

ヘッドフォン[地下室のテープ1] -Basement Tapes 1-

ハート「あら先輩、やっと目を覚ましたのね」
スペード「…うぅ…な、何だ?」
ハート「貴方の可愛い寝顔を見ているのは幸せだけれど、6時間も眠られるのは退屈だわね」
スペード「な、何が起こったんだ、ここはどこだ?」
ハート「ここは私の家の地下。母はこの地下室を増築するのにはとても苦労したと言っていたわ」
スペード「君は……何を言っている? これは何だ!? 椅子に縛られているのか、僕は!?」
ハート「その通りよ、先輩。その椅子は私の母が私の父のために用意したのと同じものなの。
そして今、貴方がこうしてそこに座っている。とてもロマンチックだと思わない?」
スペード「……君は、そんな…最近テレビに出ていた女の子じゃないか。確か…アイシさん?」
ハート「あら、そんな堅苦しく呼ばないで先輩。貴方は私のファーストネームを知ってるはずよ」
スペード「なんてことだ……、ジャーナリストが言っていたことは、すべて真実じゃないのか?」
ハート「もう一度言うわ。貴方、私の名前を言ってみて」
スペード「悪いが、僕は君のことなんて知ら――」
ハート「私の名前を言いなさい(刃物の音)」
スペード「リ…リョウバ!リョウバだ!」
ハート「ああああぁ…うふふっ……」
スペード「な、何…?」
ハート「ああ……先輩。貴方がそう呼んでくれるのを、私はずっと待っていたのよ。
それを今、テープに記録できたことがとても嬉しいの」
スペード「き、君は一体何がしたいんだ!? ぼ、僕は次の犠牲者ということなのか……!?」
ハート「犠牲者? もちろん違うわ。私は、貴方をここに保護しているのだもの」
スペード「保護……!? な、何を言っている、だって君は学校で多くの女子生徒たちを……」
ハート「そうよ! あいつらは私たちの愛を脅かしていたもの! 私は邪魔者をすべて取り除く必要があったのよ!」
スペード「愛だって?! 馬鹿な、僕たちは互いに話したことさえないじゃないか!」
ハート「そんなこと分かっているわ。でも、もう初めましてじゃないわよね。それにしても、貴方とこうして話すのはとても刺激的だわ。待ちきれないわね、初めてのデート、初めての食事、初めてのキス、そして初めての……(クスクス嗤い)」
スペード「…リ、リョウバちゃん……、誰かを本当に愛しているのなら、誘拐して椅子に縛り付けたりするものじゃない!」
ハート「仕方ないわ、だって貴方が逃げないことを確認する方法がないのだから」
スペード「頼む……お願いだ、この縄を解いてくれ。決して警察には言わない、約束するから」
ハート「駄目よ。貴方が決して私の元を去らないと100%確信できるまで、その椅子から解放してあげることはできないわ。今日から、ずっと私が見つめていてあげる。私たちは永遠に一緒よ」
スペード「え、永遠に……?」
ハート「そうよ。ああ、テープを変える時間のようね。ちょっと待っていて、先輩(クスクス嗤い)」



ヘッドフォン[地下室のテープ10] -Basement Tapes 10-

ハート「あら、ごめんなさい、あなた。驚かせてしまったかしら?(クスクス嗤い)」
スペード「……僕は、僕は、きみが入ってきた足音を聞いていないぞ」
ハート「これだけ長いあいだ一緒に暮らしているのに、私がいつ貴方の後ろに立っているのか、
そんなこともまだ感じられないのかしら? 困った人ね」
スペード「しょうがないさ、きみは姿を隠す名人なんだから……」
ハート「ところで地下室で何をしていたの、あなた? あら、それは私たちの昔のカセット? 80年代に録音したものだったかしら。あの頃が懐かしいわね。どうしたの、昔が恋しくなった?」
スペード「(よくまぁ、君の口からそんなことが言えたものだ……)」
ハート「そういえば、私にも今日そんなノスタルジーを感じさせてくれる出来事があったわ。数十年間、会ってなかった男の人に出会ったの。向こうも数十年ぶりの再会に赤くなっていたけれど」
スペード「誰のことを言っている?」
ハート「うふふ、妬いてるのかしらあなた。最愛の妻を盗まれるんじゃないかって、心配?」
スペード「それは…もちろん、ああ、心配しているとも」
ハート「ああ……嬉しいわ」
スペード「それで、きみは今日いったい誰に会ったんだい?」
ハート「それについては、空港に行く途中で、あなたにすべて話すわ」
スペード「待て、空港……だって?!」
ハート「そうよあなた。早く支度して頂戴。私たちはこれからアメリカへ行くんだから」
スペード「おい、気は確かか? 仕事はどうする」
ハート「心配ないわ。あの方に電話して、私たちが少しのあいだ旅行するって知らせておいたから。
彼は快くOKしてくれたわよ」
スペード「なんてことだ、急な話だな。それで、どれぐらいの間でかけるつもりなんだ?」
ハート「(さあ、どれぐらいかしら。すべてはいかに早く彼を探し出せるかにかかっているわ)」
スペード「ちょっと待て、アヤノはどうするんだ。明日は高校の始業式だぞ」
ハート「あの子は私に似ているから何の問題もないわ。新学期が始まって、アヤノも特別な誰かに出会えるといいわね。私たちが戻ったときに、ボーイフレンドを紹介して貰えたら素敵だわ」
スペード「(僕は、そうならないことを願うよ……)」
ハート「何か言って、あなた?」
スペード「な、何でもないよ、おまえ」
ハート「随分ぐずぐずしてしまったわ。さぁ早く出かけましょう」
スペード「ちょっと待ってくれ、テープが至る所に散らばってしまった。拾っていかなくてはまずい。
……暗くて探しにくいな」
ハート「気にしないで、あなた」
スペード「しかし、娘が拾うかもしれんぞ?」
ハート「分かってるでしょうに……あの子がそうすることを私が望んでいるのを(クスクス嗤い)」
スペード「え、何だって? あっ……しまった、これは、録音しているに違いないな……」



■謎のテープ (日本語訳)
フォト

ヘッドフォン[謎のテープ1] -Mysterious Tape 1-

……まだ、動きそうだ。
記録できる限り、私は何かを言い残しておいたほうがいいと思う。
これを最後に使ったのは、いつだったか? 少なくとも20年、いや30年前?
あの頃は楽しかった。当時、私はとても若かった。そして、私の未来は明るいものに思えた。
私は夢を追っていた……。あの頃、私には将来が約束されていた。あの頃、私は幸福だった。
時間を巻き戻せるならば、私は違った道を歩めるだろうか?
わかっている。私は自分が何をすべきであったか、正確に理解している。
私は、決してあの女生徒に関与すべきではなかったのだ……。
彼女を追跡することは正義にかなった行為だった。しかし、彼女に関わらなければ、私はジャーナリストの仕事をまっとうできていただろう。

始まりはいつだったか? ――そう、あれは1989年4月のことだった。
思えば、あの頃が私のジャーナリストとしての最盛期だった。
それは、私が地元の高校で起きた殺人事件について聞かされた時のことだった。
警察の捜査はなんら進展を見せていなかった。
私は、自らの手で事件を調査することに決めた。私は若く、功名心に駆り立てられていた……。

……そして、それが私の人生における、最悪の間違いだった。



ヘッドフォン[謎のテープ2] -Mysterious Tape 2-

学校側は、私に校内への立ち入り調査を許さなかった。
彼らは、自分たちの評判を維持することにやっきになっている様子だった。
警察や記者に嗅ぎ回られて、これ以上学校のイメージを台無しにされたくなかったのだろう。
あるいは何か学校ぐるみで隠蔽していて、それを暴かれるのを望まなかったのかもしれない。

私は今日に至るまで、学校内で起こるあらゆる犯罪を調査していいのは最大6時間だけだという学校側の言い分に、警察が納得させられた理由についての真相を把握していない。
私は、学校長が、調査を迅速に処理するために警察を買収しているという噂を聞いた。
他にも校長について多くの黒い噂を耳にした。だが、どれも真実である証明はできなかった。

校内を歩き回れなかったので、私は生徒たちの通学時、あるいは下校時、学校の外で聞き込みをし、情報収集につとめた。
私が、男子学生の跡をつけている一人の女生徒の存在に気がついたのは、この時だった。
私は彼女を監視することに決めた。まもなく、私は彼女のおかしな振る舞いを目の当たりにすることになる……。



ヘッドフォン[謎のテープ3] -Mysterious Tape 3-

私は、その少女が校門から上級生の跡をつけるのを目撃した。
少女は、少女が追う男子生徒と話したどんな女生徒をもしつこくつけまわしている様子だった。
生徒らへの聞き込みを通して、私は彼女たちの身に一体何が起こるのかを探った。
……彼女たちはいじめの標的にされ、不登校になり、場合によっては退学処分になっていた。

私は変装して校内に潜入し、少女の行動を追い続けた。
少女がいつも掃除のため、モップやタライを持って走り回っている姿を頻繁に見かけた。
少女は、女生徒の恋路を破壊するため、人心を操作し、脅迫し、時には暴力さえ使っていた。
しかし、少女の振る舞いが、それに留まるならば、殺人との関連を結びつけるのは早計だった。
私は、少女が男子生徒に恋人を作らせないだけのために殺人を犯すとは考えたくはなかった。
だが、しかし、れっきとした証拠が私の目の前に現れてしまった。

それは、まさに重要な情報の断片を掴んだ思いだった。
学年度の初めに殺された女生徒も、例の男子生徒に強いあこがれを抱き、積極的にアプローチしていたという事実が浮かび上がったのである。
パズルの最後のピースが、ぴったりと収まる思いだった。
私は、犯人を見つけたことを確信し、調査結果を携えて警察署へと赴いた。
長い話し合いの末に私は彼らを説得し、最終的に少女を逮捕させることができたのである。



ヘッドフォン[謎のテープ4] -Mysterious Tape 4-

女子高生殺人鬼というテーマは、メディアの脚光を浴びるのに十分だった。
少女逮捕の知らせは、すぐに全国中に広まった。
裁判はマスコミの大騒ぎに巻き込まれることになった。私は、ほとんど一晩で有名人となった。
私は有名人になりたいわけではなかった。だが調査技術を認められたかったのは確かである。
多くの注目を浴びる中で、私はキャリアアップすることを強く望んでいた。
結局のところ、それは私にとって致命的な誤りであった。

その小柄な少女は、私がこれまでに見たこともないような最高のショーを演じきった。
少女は崩れ落ちるような姿でさめざめと泣き続け、ことあるごとに無知を装い、彼女に向けられたあらゆる告発に対して、説得力のある弁解をやってのけた。
法廷は、少女と恋をしたようだった。メディアは少女と恋をしたようだった。
全国中が、少女と恋に落ちたようであった。

少女は、私のことを女子高生をいやらしい目で辱める汚い変質者だと罵った。
少女は、私を名声を得るためには手段を選ばない卑劣なジャーナリストだと罵った。
少女は、私が煽情的な題材のためだけに、彼女を殺人罪で訴えたのだと主張した。
そして、法廷はその一言一言を信じ込んだのである。

裁判所が少女を無罪だと宣告した日、日本中がまるで祭りのような喝采につつまれた。



ヘッドフォン[謎のテープ5] -Mysterious Tape 5-

その日から、私の不名誉な人生が始まった。
私は、女子高生をつけまわして、面白おかしい記事の為に女の子を刑務所送りにしようとした、醜く卑しいジャーナリストとして日本中で有名になってしまった。
人々の私を見る目には、常に蔑みや嫌悪の感情がにじみ出ていた。
私の家や車は、数週間にわたってひどく傷つけられることになった。
言うまでもなく、私は二度とジャーナリストとして生きることはできなくなった。

少女を逮捕した警察署も、全国的な批判の的に晒されることとなった。
彼らは、十分な証拠もなく誰でも逮捕する無能の馬鹿として告発された。
それ以来、その町の警察は、彼らの名誉を回復するため事件に対して非常に甘くなった。
そして、ごく短時間をのぞいては、まったく地元の高校に近づこうとしなくなったのである。

しかし、私にとって最悪の経験は、メディアや市民からの嫌がらせなどではなかった。
それは裁判の後、取材陣を逃れるため、裁判所裏手の路地に身を潜めていた時であった。
私の背後から一人の人物が声をかけたのである。それは、記者やリポーターではなかった。
それは、たった今、無実であると宣告された、あの少女だった。
私は、その日みた少女の顔を生涯、忘れはしないだろう。少女は微笑んでいた。
しかし、彼女の瞳は茫洋として何も映ってはいなかった。
ただ空虚だった。それはまるで人形の瞳のような、魂が抜け落ちた目だった。
少女のような人間が、この世に存在することが、私には到底信じられなかった。

笑顔のまま、少女は私に言った。
「あなたの死を自殺に見せるなんてとても簡単なことよ。二度と私に逆らわないでね」
少女は踵を返すと、立ち尽くす私の前から去っていった。



ヘッドフォン[謎のテープ6] -Mysterious Tape 6-

裁判が人々の記憶に新しいあいだ、私の人生は生き地獄といってよかった。
やがて風化するに従って憎しみの火も沈下したが、決して消え去ったわけではなかった。
私がどのように名前や姿を変えても、必ず私の存在を発見する誰かが常にそばにいた。
職を見つけることは、ほとんど不可能だった。
バイトを転々とし、汚名の苦痛から逃れるため、次第に酒びたりの日々を過ごすようになった。

妻と出逢ったのは、そんなときだった。
彼女が私の中に何を見出したのか、いまだ理解していない。
言うまでもなく私は世間の物笑いの種であったし、私は壊れた残骸でしかなかった。
しかし、彼女は私と同じ時間を過ごすことを望んだ。彼女は私を恋人のように扱ってくれた。
私は、急速に彼女に心の救いを求めていった。
彼女なしでは生きていけなくなるのに、それほど時間はかからなかった。

確かに、私は自分の世話ができるような心身状態にはなかった。
私は、無力で脆弱な、まるで赤ん坊のようであった。
ことによれば、そんな私の弱々しい姿に、彼女は惹きつけられたのかもしれない。
もしかしたら、彼女は誰かを自分の所有物にしたかっただけかもしれない。人間のペットを飼いたかっただけかもしれない。単に感情的に強く依存されることを求めていただけかもしれない。
長い年月が過ぎた今でさえ、なぜ私のような男を彼女が望んだのか、正確にはわからない。
しかし、そういった事柄のすべてが、私にとってはどうでもいいことだった。
私の欠陥にもかかわらず、彼女が私を受け入れてくれた。
それこそが、私にとってのすべてだったからである。

私たちは、出会ってからおよそ半年後に結婚した。



ヘッドフォン[謎のテープ7] -Mysterious Tape 7-

一人娘を産むと同時に、妻は死んでしまった。
妻を亡くした後、悲嘆に暮れた私がどのようにして立ち直ったのかは覚えていない。
言うまでもなく、残された赤ん坊の存在は、かろうじて私の生きるよすがであった。
どうにかして、私はこれまでの年月を乗り越えてくることができた。
しかし、いまだ私は満足に仕事を続けられない、ろくでなしの酔っ払いでしかなかった……。

娘を愛するのは、私にとって非常につらいことだった。
なぜなら、妻の死の原因が娘にあるという思いが、どうしても拭えなかったからである。
娘には何の罪もないことだった。だが、がらくたの私にはどうすることもできなかった。
娘にとって、私はつめたい父親であったのは確かだった。
娘は実質的に、自らの手で自らを育てなければならなかった。
私は決して娘と多くの時間を過ごそうとしなかったし、娘に強く関心を示そうともしなかった。
今でも、私は彼女の多くを知らないままだと思う。

私は、娘がどんな人間に成長したか、知りさえしない。
私は、娘の日常生活がどのようなものか、知りさえしない。
ただ私は、娘が己の時間のすべてをコンピューターに費やすということを知っている。
娘はパソコンを自分自身のために買っていた。
娘は、彼女の年齢にしては不相応なぐらいの大金を持っている様子だった。
私は、その金がどこから来るものなのか、尋ねるのが怖かった。

娘は、時おり制服を血で染めて帰ってくることがあった。
それが彼女自身の血か、他の誰かの血なのか、わからなかった。
私には、娘のプライベートに立ち入る勇気が持てなかった。
それは、娘のプライバシーに対するかすかな敬意といえないこともなかったが、ほとんどは恐怖心によるものであった。



ヘッドフォン[謎のテープ8] -Mysterious Tape 8-

私は、これらの事柄について、誰にもこれまで話したことはなかった。
打ち明けられる友人など一人も居なかったし、精神科医にもかかりたくはなかった。
こうして古いテープレコーダに向かって自分の感情を記録することで、少しでも心の慰めになればいいと思って始めたことだった。
しかし、それは私の心を決して落ち着かせはしなかった。

この行為が生じせしめた唯一のものは、私が過去20年の間、抑え続けていたすべての怒りと憎しみ、……そして、哀しみが表立って強くよみがえってきたということだった。
私は、輝かしい将来が約束されていたあの頃に、二度と戻れない現実に打ちのめされた。
安いバイトと酒に時間を浪費して、惨めなソファーで寝転がる暮らしはもうたくさんだった。
こんなものが、私の人生であって欲しくはなかった!

しかし、私はまだ死ぬわけにはいかなかった。
今になって、初めて自分の使命に気がついたからである。
あの少女に……、私が味わった万分の一でも、報いをくれてやらなければならない。
あの少女も、今では大人の女性に成長していることだろう。
奴は、少女時代の演技によって、これまでなんら罰されることもなく、のうのうと生きている。
私は、あの女のような怪物が、何食わぬ顔で公然と歩き回る世界に生きることはできなかった。
私はあの女の正体を知っている唯一の人間である。従って、私だけがあの女を再び裁判にかけ、その罪にふさわしい罰を与えてやれる、たった一つの真実なのだ。
私は、まだ人を追跡する能力を手放してはいない。人の秘密を探る能力を手放してはいない。
私は、まだ真実を探り当て、それを公けの下にさらす勇気を手放してはいない。

私は、この数十年の間で、初めて目的を持ったように感じている。
私は、残された余命で何をすべきかを確信している。
私は、正義をあの女に届けるつもりでいる。そしてそれを試みて死ぬことも辞さないつもりだ。

この古いレコーダーは、私に憎しみや哀しみと同時に、大切なことも思い出させてくれたようだ。



ヘッドフォン[謎のテープ9] -Mysterious Tape 9-

私はあの女を見つけ出した。それは大して難しいことではなかった。
あの女は自分の故郷を決して離れようとはしなかったからだ。
私は先週、町を歩き回って彼女の後を追跡していた。

あの女が罪や責任を逃れたことに対する思いは、私を怒りで盲目にさせるようだった。
この一週間というもの、私は漠然と何かが妙だと感じていた。
昨日になって、それが何であるのかようやく気がついた。
私は、そのことに思い当たるのに、これほど時間がかかったことに驚いている。
あの女は、歩く方向を突然変えたり、理由もないのに同じ場所に長く留まっていた。
言うまでもない。その行為は、私自身の行為そのものだった。

あの女が何をしているか、私は正確に理解している。奴は誰かの跡をつけていたのだった。
あの女の獲物が誰であるのか突き止めるのに、そう時間はかからなかった。
それは、例の高校から帰宅途中にある若い女性のようだった。
彼女が何故、あの女の逆鱗に触れたかは知らない。
だが、彼女は明らかに殺害の対象として選ばれているようだった。
私が何か行動を起こさなければ、おそらく彼女は数週のうちに死んでいることだろう。
私は、殺人狂が彼女の跡をつけていることを、彼女に警告してやりたかった。しかし……。

私は、過去の過ちを繰り返すわけにはいかなかった。
この怪物を有罪と認めさせ、刑務所送りにするには、あの女が殺人者であるということの確たる証拠を突きつける必要があった。
女性の生命を救うことは、自らの手でその証拠を握り潰してしまうのと同じであった。
気の毒ではあるが、彼女を助けるわけにはいかなかった。
そして、その殺害現場を撮影するために、私自身がその場にいなければならなかった。
それが、私が必要とする証拠を得る唯一の手段であった。
有罪を得るための確かな方法であった。

しかし……女性を死なせることが、本当に正しい行為であろうか?
私がこの怪物を死刑台に送らなければ、この先も多くの犠牲者が現れることだろう。
あの女に、最後にもう一度だけ殺人を犯させるのは、そう……間違ってはいないはずだ。

そうではないか?



ヘッドフォン[謎のテープ10] -Mysterious Tape 10-

私は愚かだ……。救いようのない馬鹿だ!
私は間抜けにも、あの女に捕らえられてしまった。
あの女の後をつけて路地に入ったところで、奴を見失ってしまったのだ。
慌てる私のすぐ後ろから、身の毛もよだつ声が聞こえてきた。
「お久しぶりね、ジャーナリストさん」
私は振り返った。息がかかるぐらいの近い距離にあの女の顔があった。
女は微笑を浮かべていた。私はその顔をよく知っていた。
それは、1989年に私の人生を脅かしたとき、奴が帯びていたのとまったく同じ微笑であった。
脇目も振らずにそこから逃げだすしか、私には手段がなかった。

ほぼ30年間つづいた停戦協定を、私は自らの手で壊してしまったのだ!
あの女は、私があの女の後ろをつけ回していたことを知っている。
あの女が、私を生かしておく理由はもはや何もなかった。私の運命は決定づけられたのだ。
私は警察に行くことはできない。何の証拠も持たない私は狂人のように扱われるだけだろう。
仮に、彼らが私の声に耳を傾け、調査をしたとして、彼らは結局なにも見つけ得ないだろう。
今の警察署の対応もそうだが、あの恐ろしい女が証拠を残すヘマをするはずがなかった。
先だっての女性を殺すときも、奴は巧妙だった。私の考えは甘かったと思い知らされた。
私にできる唯一の選択は、今すぐ町を離れることだった。
いや……いやいや、おそらく、そんな程度では済まない。
私は、日本を離れなければならない。

私は、おまえを探していた。だが、見つけることができなかった。
おまえが帰ってくるのを待つことができない。私は、今すぐにここを去らなければならない。
これまで録音したこれらのカセットテープをすべて、おまえが見つけることを期待して、おまえが通う学校の目立たない場所に置いておくことにした。
それによって、少なくとも、父がなぜ忽然と姿を消したかについて知ることができるだろう。
あとは、あの女が、おまえを傷つけることによって私に対する復讐をしないことを願うばかりだ。

私は、いつ帰れるかわからない。
私は、帰れるかどうかもわからない。
私は、あの女が私を殺すために海を横断する気があるかどうか、それさえわからない。
だが、おそらく執拗なあの女のことだ、私をどこまでも追ってくるだろう。
奴がその気なら、私は罠を張って誘い出し、警察の前で奴の醜い正体を暴露してやるつもりだ。
たとえ、この生命と引き換えにしても。それが、私の唯一の望みだからだ。
……身体を大切にして欲しい。
もう少し時間があれば、おまえに言わなければならないことが沢山あったんだ。
だが、もう私にはその猶予がない。
くれぐれも、無事でいてくれ。
父親らしいことを何もできず、すまなかった。

おまえを愛している。




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