以前、日本の高速道路の制限速度を実情に沿って引き上げるべきだ
と、つぶやきネタで書いた時に、
設計速度を例に挙げ、140km/hでも安全に走行出来ると書いたところ、
頑なに、クルマのスピードと運動エネルギーがどうとか
事故が起こると重大事故に繋がり、危険だと反論してきた人がいた。
何故、僕が高速道路の制限速度の緩和を求めるのか、
具体的に書いてくれたプロがいたので
紹介しておきたい。
「矢貫 隆の現場が俺を呼んでいる!?」
矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
第28回:「制限速度120km/hへ引き上げ」の背景にあるもの(その1)
プロローグは「昔の思い出」
http://www.webcg.net/articles/-/34785
以下、全文引用
警察庁の発表直後こそメディアは120km/h時代の到来を報じたが、それから3カ月、なぜ今なのか、なぜ120km/hなのか、なぜ限定的な区間だけなのか等についての続報がいっこうに伝わってこない。だから矢貫 隆が、今、それを語る。
【よいと思う】
せっかくの山開き(吉田口ルートのみ)だというのに、富士山の五合目から上が灰色の雲で覆われた2016年7月1日、少しばかり残念なその風景を、私は新東名高速道路の駿河湾沼津SAから眺めていた。
7月1日といえば、『月刊webCG通信』が「読者アンケートの広場」で高速道路の制限速度引き上げに関するアンケート報告をだした日でもある。
それに合わせて新東名?
いや、よくできた偶然である。
多くのメディアが「高速道路の制限速度120km/hに」を伝えたのは2016年3月24日だった。たとえば『日経新聞』は、こう書いた。
「警察庁は高速道路の一部区間の最高速度を現行の100キロから段階的に120キロへ引き上げる方針を決めた。カーブや勾配が緩やかで事故発生率が低い区間を対象とする。走行実態と規制速度のギャップを埋め、利用効果を高めるのが狙い。2017年以降に新東名と東北道で110キロへの引き上げを試行した後、全国の高速道路で見直しを進める」
制限速度100km/h規制の見直しって実はものすごく画期的なことなのに、あれっきり制限速度120km/h報道は途絶えてしまった。続報はまだか、続報は……と、待っても待っても音沙汰がないものだから、それなら自分で続報を書いてしまおうと考えたと思ってもらいたい。そして、いざ、120km/hに引き上げが予定されている路線のひとつである新東名を走りに行く日の朝、つまり7月1日、出発前にパソコンを開いたら、先のアンケート結果を伝える月刊webCG通信が配信されてきたというわけなのだ。
「高速道路の制限速度引き上げをどう評価するのでしょうか?
『よいと思う』か?
それとも『思わない』か?
今月は、二者択一で投票していただきました」
読者アンケートの広場はこう書きだし、
「多数を占めたのは『よい』という回答。なんと、全体の93.5%!!」と報告していた。クルマ好きが読んでいるwebCGのアンケートだから「よいと思う」に票が殺到したのだろうけれど、そこのところを差し引いたとしても、世のドライバーの、おそらく半分は制限速度の引き上げを「よい」と考えているのではあるまいか。
【150km/hで走らせたい】
真っすぐで平たんで、広い前方視界。新東名を走るたびに、すげ〜な、この道、と感嘆し、「視距が重要なんですよ」と話した道路設計者の言葉を思いだす私なのである。
「一般のドライバーを150km/hくらいのスピードで走らせたい」
彼はそう言った。
ひゃくごじゅっきろ!?
「うん、ぜんぜん問題ないよ」
今になって思えば、あのときの彼の頭のなかには、何十年後かに開通しているであろう第二東名(当時の仮称=新東名)の形が、すでに具体的な風景を伴って映っていたのだろう。
思いだそうにも、何しろ30年近くも前の話だから記憶が曖昧なのだが、彼が第二東名の設計に関わる中心的な人物のひとりと知ったのは、高速道路の制限速度のあり方を取材している過程で彼が勤務する大学の研究室を訪ねたときだった。
「設計速度(注)は140km/hだからね」
「設計速度に縛られる必要はない。150km/hでも大丈夫」
あのとき、彼はそう話し、聞いた私はアウトバーンを思い浮かべた。安全速度180km/hを標榜(ひょうぼう)していた、当時、速度無制限のアウトバーンでさえ設計速度は120km/h。それを大きく超える規格の道路を造るのだと彼はわくわくしたような顔で熱く語り、そこで“世界一の道”ですね、と私は返したのを懐かしく思いだす。
結局、警察庁の反対で、完成を前にして新東名の設計速度140km/hは認められず120km/hに落ち着くことになるわけだけれど、すでにおおよその形はできあがっている時期の「認めない」である。書類上は120km/hでも、道路の基本構造は、事実上、設計速度140km/hのままなのだ。
全線を通し、この高規格高速道路に急カーブは皆無。前方の見通しはずっと先まで続いている。周囲のクルマの多くが制限速度以上で走るなか、編集部の「フィアット・パンダ」を80km/hで走らせる私は、道路設計者が話してくれた言葉を思いだしていた。
「カーブでの見通し距離(=視距)。設計速度と道路構造を考えるうえでいちばん重要なポイントはこれなんです」
視距がどれくらいあって、前方に障害物を発見したときに安全に止まれるかどうか、安全が確認できるかどうか、それが重要なんだと彼は言った。つまり、新東名の見通しがずっと先まで続いているのは、道路構造上、当たり前のことなのである。
この道の制限速度が120km/hに引き上げられる?
当然でしょう。
(文=矢貫 隆)
(注)設計速度とは。
道路の設計要素の機能が十分に発揮されている条件のもとで、平均的な運転者が道路のある区間で快適性を失わずに維持することのできる速度(道路構造令より)。
第29回:「制限速度120km/hへ引き上げ」の背景にあるもの(その2)
印象と現実は違う、かも
につづく
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