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2016年06月13日22:25

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〖核を詠う〗(211)今野金哉歌集『セシウムの雨』の原子力詠を読む(5)「核事故に多大の被害をもたらしし東電よりの謝罪未だなし」  山崎芳彦

 日刊ベリタ記事の転載です。
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201606131407071






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2016年06月13日14時07分掲載  無料記事  印刷用

文化

〖核を詠う〗(211)今野金哉歌集『セシウムの雨』の原子力詠を読む(5)「核事故に多大の被害をもたらしし東電よりの謝罪未だなし」  山崎芳彦


 福島の歌人・波汐国芳さんは月刊歌誌『現代短歌』4月号の特集「東北を詠む」のショートエッセイに「起つ心こそ」と題して次のように書いた。

 「三・一一大震災被災地わけても原発事故による被曝地福島県に住んで歌人として何をやるか、如何に生きるかを真剣に考えている一人である。
 それは永久に付き合わなければならない、原発石棺等といわれる過酷な現実の中で生きていることの証を歌いあげていることが使命であると考えるからである。そのため、この環境の中から起つ心を歌いあげ、他人にも己にも感動を与えることが出来れば復興にもつながるものと信じているのである。」福島歌人の、容易ではない過酷な現実を生きながら詠う思いの吐露であろう。今野金哉さんの歌集『セシウムの雨』の作品にも脈打つ短歌人の心であると思う。

 波汐さんは続けて、「と言って福島にどのような将来が拓けるのであろうか。そこで、郷里のいわき市の浜辺に目を移してみる。/巨大な防潮堤が陸を包んで海はずんずん遠退いている。海産物の陸揚げも絶えている。同じ東北の他地域に比して暗雲が視界を塞いで光を遮る現実があるのだ。このような現実をどのように克服していくか。/冒頭に掲げた『起つ心』の実践をこそ己に課していかなければならない。そして光をみちびかなければならないと思う。」と記している。この連載の中で、波汐さんの多くの作品を読み、またいろいろなお願いに快く応えていただいたことを改めて思う。
 波汐さんのこのショートエッセイの前に「大蛇討つ神」と題する短歌7首が掲出されている。記させていただく。

○セシウムを好めるらしも際立ちて今朝満天星(どうだん)の冴ゆるくれな
 い
○風ありてのうぜんかずら揺るるたび炎立ちつつ塀越ゆるらし
○風そよとのうぜんかずら揺り出(い)でて隣家の窓に消ゆるたまゆら
○原発の安全神話が招きしを「仮設」の日々とう牢獄なりや
○喇叭水仙 喇叭掲げて起(た)ち上がれ除染進まぬ庭の端より
○福島や逃げても逃げても笹薮の笹のざわざわセシウム追い来(く)
○巨大なる奉納草鞋(わらじ)に招かんか福島大蛇(おろち)討つ神をこそ
                  7首 波汐國芳(『現代短歌』4月号)


 今野さんの歌集『セシウムの雨』を読み、また波汐さんの作品とエッセイを読みながら、安倍首相が6月3日に福島の葛尾村などを視察した後の記者会見で「帰還困難区域でないにもかかわらず、未だ避難指示が続いている区域は来年3月までには解除し、早期に帰還できるように取り組む。」と語り、いま進めている「帰還促進政策」による「福島復興」アピールを強めたこと思い、その福島の人々の意思と被曝リスクを一顧だにせぬ、人間無視の原発政策の底知れぬ無残さ、非人間性を許しがたいと考えている。避難指示解除は、損害賠償の打ち切り、避難者への住宅支援打ち切りとのセットであり、避難・帰還の年間被曝線量基準20ミリシーベルトの強制であり、福島の人々の原発事故被災のもとでの「被曝を避ける権利」の剥奪にもつながる。避難した人のみならず住み続けている人びとの「恐怖から免れ平和に生存する権利」「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法)を踏みにじることである。

 現行憲法を敵視する安倍政権による「福島復興」は、「人間なき復興」である。原発事故被災の加害者たちが、「復興五輪」などと歌いあげ「復興した姿を世界に発信」などと、被害者の現実を無視し、人々の生きる権利よりも、「強い国、儲ける国、武器や原発を海外に輸出する国、海外に軍を派遣し武力行使をさせる国」を目指すのであるから、福島の、そして再稼働する原発立地地域の、さらにこの国の人々の今と未来は、安倍政権とその同調追随勢力の危険な企みを打ち砕くことによってしか拓けないというしかない。
 当面する参議院議員選挙で、安倍政治にノーを突きつけること、それを可能にする人々のさまざまな闘いの前進をなしとげなければならないと思う。
 そう思いながら『セシウムの雨』の作品を読み続ける。


 ◇夢まぼろし(抄)◇
戻る人戻れざる人の連帯を阻むは補償金の多寡の対立

廃炉には何年かかるものなのか「長い闘ひ」と老いの言ひたり

彼の日より三年経てる「仮設」あり記憶の風化も叫ばれにつつ

人生は夢まぼろしと思ひつつ一気に読み終ふ『故郷喪失』

自死なるか納屋の火災に出できたる一時帰宅の老い人の死屍(しし)

町中の店に民家に張られをり「キケン注意」の黄色のテープ

孕みたる女は此処では産めないと福島の地を離れゆきたり

被災地の役場吏員の自死の増ゆ鬱病率の二割に近し

猪に逐はれて里に出づる熊か熊の被害の年々に増ゆ

出来の良き大蒜なれど風評の被害に売れず畑隅に捨つ

豊作の玉葱なれど値の安く出荷あきらめて納屋隅に積む

風評の被害に売れざる唐黍を隣近所に呉れて回りぬ

畑打てる吾に集まる椋鳥と未除染畑に終日(ひねもす)過ごす

 ◇再稼働(抄)◇
原発の廃炉工程の先見えず今日も汚染水漏るる事故あり

再稼働急ぐ原発の報のあり避難者未だ十二万超す

数々の復興機構できつつも機能不全か何も変はらず

東電に風評被害の賠償を請求すれども音沙汰のなし

哀しみの極まる果ての被災地の「キケン注意」の黄色(わうしよく)テープ

「歳月は人を待たず」の言葉あり残る生をも堪へつつ生きむ

避難して三年経てる村里の崩(く)えたる墓碑に残照明かし

「廃炉への道遠く」といふ朝刊の太き見出しを肯ひて読む

汚染水対策遅々と進まざり「氷の壁」の期待崩れぬ

 ◇吉田証言(抄 平成二十七年(二〇一五))◇
四度目の冬を越えゆく避難者かフレコンバッグに冬の雨降る

線量の未だ高かる阿武隈川(あぶくま)に鮭廻り来て白鳥も来る

原発の吉田所長の調書あり彼の日の菅氏の行動訝る

東電も政府も反省心持ちて吉田所長の証言を読め

核災は人間不信を募らしむ被害補償は三年あらず

高齢に入りたる吾の人生に今にし重し建屋爆発

進まざる住宅除染汚染泥の仮置き場なく働き手も無し

汚染土の現場保管の三年目搬出時期の目途(めど)の立たざり

県内に汚染の泥の増え続く七万トンはおろそかならず

今もなほ空き巣事件の続くとふ居住制限区域なる地所

高齢化進みて空き家の増えゆく世仮設に四年を暮らす人あり

大雨の度に汚染水漏れつづく原発事故の収束難し

震災の前に放ちし鮭還るセシウム値未だ高き木戸川

避難者の多くは今に還らざり「たかがセシウム」「されどセシウム」

 ◇鬚髯伸びたる男ら(抄)◇
街中に高く積まるる汚染土の処理に十年かかると聞けり

あの事故を夢と思へど田畑の示す線量高きはうつつ

忘れたい忘れられない忘れたいまた巡り来る三月十一日(さんてんいちいち)

日だまりに鬚髯(しゆぜん)伸びたる男らの漁の日待ちて網を繕ふ

放射線量高くなりたる吾が畑の固定資産税今日は支払ふ

今日もまた廃炉作業の工員の死亡事故との小さき記事読む

被災地の役場職員の二割弱うつと伝ふる新聞の記事

元東電社長の不起訴をニュース告ぐ事故責任は誰が取るのか

核事故に多大の被害もたらしし東電よりの謝罪未だなし

人々の回帰できざる農村に四季の回帰のありて花咲く

被災地に耳目向けざる安倍首相のゴルフ姿に憤り増す

線量の未だ高きを知りゐるか熟れたる柿を突(つつ)く鳥見ず

この三年収入ゼロの畑をも日々に起こしてゐる性侘びし

平凡な死など一つもありはせず自死に孤独死また関連死

人といふは何時かは死ぬと解りつつも君の逝去を肯へずゐる

大勝に笑める首相の記事近く仮設住まひの女の自死す

 次回も『セシウムの雨』の原子力詠を読む。      (つづく)




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