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2016年06月06日10:12

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夢の小料理屋のはなし 106

ここ東京も、どうやら梅雨入りしたらしい。
長雨の季節はどうも気持ちがスカッとしないものではあるが、でもそこはどうにか切り替えて、元気に過ごしていきたいものである。
え?どうやって気持ちなんか切り替えるのかって?
そりゃあ、ほら。
僕にはあの小料理屋があるもの。


でも今日は、何か腹が減った。
珍しく仕事したせいもあるだろう。
こういう日は、食欲に逆らわない。
酒より、ご飯。
正しい夕食に身を任せるのだ。

「女将さん、腹減った。ゴハンゴハン。」
「あら、まるで中学生が帰ってきたみたいだわよ、あなた。フフフ。」
「夕方からおなかがグーグー鳴ってるよ。」
「お昼ご飯食べたの?」
「食べたさ、小諸そばでかき揚げそば食べたもん。」
「じゃあ、そんな育ち盛りのおじさんにうってつけのおかずがあるわ。ちょっと待っててね。」

そう言うと、女将さんは七輪の火を起こす。
渋めのお茶をすすりながらしばし待つと、魚の脂が焦げる香ばしい匂いがしてくる。

鮭だ。

「今日ね、時鮭が入ってたら仕入れてみたの。」
時鮭。
時鮭とは、毎年5月から7月頃にかけて三陸沖や北海道沖で捕れるシロザケのこと。サケが旬の季節の秋ではなく、春から夏にかけて捕れるため、時期が異なるという意味で「ときしらず」と呼ばれ、実際に「時知らず」と書かれることもある。時鮭となるのは日本の河川で生まれたサケではなく、ロシア北部の河川で生まれたサケと考えられている。回遊中に日本の近海に現れた若い個体であり、まだ成長途中で卵巣や精巣も成熟していない。そのため、身肉に栄養素や脂が凝縮されていて、非常に美味だとされる。・・・なーんて、ネットで調べたら書いてあるだろう。
でも、理屈はいいのだ。
とりあえず、楽しもうではないか。

それにしても、脂の乗り具合がハンパ無い。
箸で身をほぐし、ふっくらとしたご飯の上に乗せる。
こってりとした旨味と脂の塊がご飯にジュワっと染みてくる。
そこを、すかさずパクリと食べる。
舌の上で、味と香りが爆発する。
その余韻を十分楽しんだら、ネギの味噌汁を口に含み、飲み干す。
日本人で良かったと実感する時である。

「旨いな、やっぱ、鮭は。」
「ね。さっき瑤子ちゃんがおむすび食べていったけど、やっぱり大喜びだったわ。」
鮭のおむすび大好きだもんね、彼女も。
焼き浸しにした鮭のヴィジュアルを想像すると、それはそれで興奮する。
でもさ、こんな盛大に鮭の焼いた香りを換気扇で外に排気すると、多分彼女がやってくるだろうね。

ガラガラガラ・・・
扉が開く。
「女将さーん、何か凄い良い匂いがしたんで入って来ちゃいましたー。」

流石ミーちゃん、鮭を焼くと必ず来ると言うジンクスは間違いではない。
とりあえず、猫娘の嗅覚はハンパない。

「あれ?お兄さん今日はご飯で鮭ですかぁ?じゃ、私はビールと同じ鮭を!」
うぐぐ、やっぱり飲んじゃうよねぇ、それは。
でも、それも良かろう。
大事に鮭を半分だけ残して、ご飯と味噌汁をたいらげる。
「女将さん、僕はお酒で。」
「そう来るだろうとは思ったわ。はい、お酒。」

タハっ、女将さんにはお見通しだねぇ。
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