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2016年05月20日16:48

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ある日の風景9

「たまには飲みに行こか?」

普段二人一組で仕事している相棒が誘ってきた。
その日は納期が近いため、少しだけ残業をしていたのだが、気がつけば二人だけになっていた。
時計の針は21時を告げている。
帰りの電車のことを考えると、少しだけ時間はある。

「ええね、行こか!」

私は急いで荷物を片付け、行きつけの店へと足を運んだ。
店長とも親しく、会社ぐるみでよく利用している店だ。
相棒はさして酒が強いわけではなく、ビールを二杯程度で酔ってしまう。
時間的には調度いいペースで飲めそうだ。

「ご注文は何にいたしましょうか?」
「まずは生2杯お願い!」

我々の世代ではまだまだ定番の飲み方である。
二人で仕事をしている手前、相棒とは一緒にいる時間が長い。
プライベートで会うことはないが、公私ともに色々相談しあっている。
そんな彼がわざわざ酒に誘うということは、何か相談でもあるのだろうか。
他愛もない話を交わしているうちに注文の品が届く。

「お待たせいたしました、ライス二膳になります」
「?」

この店員は何を言っているのだろうか?
こういった居酒屋では飲み物から持ってくるのが常識ではないだろうか。
よく見知った店員とはいえ、つまらないミスをするもんだ。

「あちらのお客様からです」

店員が目線を送る先を見てみると、ニヤニヤした顔でこちらを見ている後輩たちがいた。

「飲み物をお出しする前にお持ちするように賜っております」

これから相棒から真面目な話があるかもしれない。
そう思っていた矢先にこれである。
こういうことはバー等でかっこよく決めるからいいものなのに。
ここで騒いでは後輩の思うつぼである。
私は二人前のライスを平らげ、

「あちらの席にこの店で一番度数の高い酒を人数分ジョッキで届けてあげてください」

お返しをしておいた。

「まさか先輩からのお礼の酒を残すことなんてないよな?」

その後、相棒からは特に相談されることもなく、後輩と合流して騒いだ。
そんな仕事終わりの地味な一コマ。
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