mixiユーザー(id:2438654)

2016年05月17日21:11

875 view

Hamburg ballet / Othello ハンブルク・バレエ オテロ

4月のハンブルク訪問から一ヶ月あけたところで、再びオテロを観に行ってきました(どんだけ好きやねん)。今回は日曜日にキャスト違いで2回公演という美味しいパターン。要となるイアーゴ役はサーシャ・リアブコとイヴァン・ウルバンのはずだったのに、イヴァンが直前に怪我降板でサーシャが代役に。サーシャファンとしては彼をたくさん舞台で観られる嬉しさはあるものの、イヴァンのイアーゴは未見だったので本当に残念です。怪我が回復してくれれば7月のバレエ週間のときにイヴァンを観るチャンスが巡ってくる予定、次こそは観られますように!(イヴァンのイアーゴを観られるのは、たぶんこれが最後のチャンス)

Music: Arvo Pärt, Alfred Schnittke, Naná Vasconcelos et al.
Choreography, Staging,Set,Costumes: John Neumeier

2016/5/15日 14:30- ハンブルク歌劇場
Othello: Jung,
Desdemona: Laudere
Jago: Riabko,
Emilia: Heylmann
Cassio: Trusch,
Brabantio: Urban
Bianca: Park,
The Wilde Warrior: Wang
La Primavera: Mazon – Chinnelato, Lin

2016/5/15日 19:00- ハンブルク歌劇場
Othello: Amilcar Moret Gonzalez as Guest,
Desdemona: Bouchet
Jago: Riabko,
Emilia: Agüero
Cassio: Trusch,
Brabantio: Urban
Bianca: Vracaric, The Wilde Warrior: Libao
La Primavera: Mazon – Chinnelato, Lin

オテロはこれで5回観たことになりますが、本当によくできた面白い作品。ノイマイヤー作品の中で私が一番好きなのは何と言ってもニジンスキーですが、オテロは三番手に続く「椿姫」「人魚姫」「幻想〜白鳥のように」などの作品群からはかなり抜きん出た二番手です。

何がそんなに面白いのか?

一つには、かなり演劇的な作品であるということがあります。踊りで語る作品ではありますが(そして振付はネオクラシック)、舞踊と演技の間くらいに位置付けられる振付も多く、その垣根を論じることに意味がないと思わせられるくらい演技と舞踊の行き来が自然。イアーゴを取り巻く兵士達、そしてデズデモーナの分身プリマヴェーラは叫び声や笑い声などを立てますし、イアーゴ役は高らかな嘲笑と数をカウントする台詞があります。数あるノイマイヤー作品の中で、演じ手の解釈が作品の印象を大きく変えるという点ではかなり上位に来るのではないかしら。

音楽の使い方も素晴らしい。ムーア人オテロを表現するプリミティブな音楽から始まり、ガラでしばしば上演されるデズデモーナとオテロの愛のパドドゥはペルト。緊張感ある人間関係にはシュニトケ。タイプの異なる音楽が場面に応じて細切れに出てくるのだけど、決してバラバラな印象ではない。日本公演で見せてくれた真夏の夜の夢の、妖精・貴族・職人の3世界を違う音楽で表現していたあの技法の更に高度なバージョンとでもいいましょうか。

そして舞台装置。オケピはなく、リリオムのようにステージ奥に楽器奏者が乗る別ステージがあります。音楽は録音と生演奏のミックス。舞台装置は割とシンプルで、それ以外にはムーア人を表現していると思われる原始的な柄のタペストリー、そして舞台中央を横切る「川」くらい。作品の最初のほうはオテロの出自や人となり、デズデモーナとの出会いや彼らの深まりゆく愛情、彼らを取り巻く人間関係が語られていきます。後半は彼らの心理描写に絞られていき、それに呼応するようにセットが少しずつシンプルになり、観衆もそこに集中させられていくのです。凄いなあ。

人物造形について。オテロとデズデモーナは主役ではありますが、ピュアな心を持つ被害者という描かれ方。何といっても面白いのはイアーゴです。シェイクスピアの原作を読んだことがないのですが(不勉強ですみません)、ノイマイヤー作品の場合は演じ手に解釈が委ねられている部分も多いのでしょう、世界を軽蔑しきっている支配欲求の強いソシオパスとも演じられるし(オットーのパターン)、オテロへの愛が強い余りに彼を破滅させずにいられない哀しく淋しいソシオパスとも演じられるし(サーシャのパターン)。この人物とそのオテロとの絡み次第でいかようにも違うストーリーがうまれる。作品自体に力があって誰が演じてもそこそこ面白く、しかも演じ手による差がこんなに出る作品は、そう沢山はないのではないかしら。

というわけで、オテロは数あるノイマイヤー作品の中でも特にオススメの作品です。来シーズンもハンブルクで上演がありますので、欧州に行かれる機会があるかたは是非、ハンブルクまで足を伸ばしてご覧になってみてください。ちなみにこの作品、シュツットガルトバレエもレパートリーに持っています。個人的には一度、ジェイソン・レイリーのオテロを観たいと思っているのですが叶っておりません‥。

ここまで作品のことを語ってまいりましたが、ここからは今回観た公演について、ダンサーを中心にした感想をば。

マチネのキャストだと、この作品は完全にイアーゴの物語になるなあと思いました。サーシャの存在感が圧倒的。オテロへの歪んだ愛情から生まれた嫉妬心ゆえにオテロの親しい人間関係を片っ端からつぶしていくサーシャのイアーゴは、とても哀しい。彼はどんな役を演じてもどこか孤独感が漂うのですが、私はそういうところが何とも愛おしくて好きなんですよね…。極悪人の眼差しで半分狂気の混じった執念にてオテロの周囲の人間を操るサーシャのイアーゴ。ふとした瞬間に自分に預けられたオテロの手を愛おしむような演技が秀逸でした。

イアーゴは女装して仮面をつけて踊るシーンがあるのですが、そこのサーシャの踊りの美しくて妖艶なこと!反面、デズデモーナに落ちたオテロに怒って仮面をかなぐり捨ててからの戦闘服を着たダンスは力強くて男らしく、彼の異なる側面を堪能できる本当に幸せな作品です。ふー。

一方、カーステンのオテロは、ムーア人というアウトローの要素は少な目。むしろ勤勉実直なエリート軍人がイアーゴに陥れられて破滅するというストーリーに私には見えました。デズデモーナへの愛情は深いがうまく表現できない不器用な人。原作オテロとは一味違いますが、これはこれで悲しいストーリー。

そして意外なことに、アンナ・ラウデールのデズデモーナの悲劇性が強くて泣けました。初めての夜を過ごした後の愛のパドドゥから、死に向かう予感が強いアンナのデズデモーナ。最後のパドドゥでは、オテロに自分の愛を信じてもらうために彼に殺されようとの決意が見える。胸を抉られる痛さ。素晴らしかったです。ブラヴォー、アンナ。

ソワレのキャストでは、オテロの存在がもっと立って見えました。

アミカのオテロ、以前観たことがあるけど、そのときより断然よくなってて素晴らしかった。野性味あるダンスでムーア人というデズデモーナと異なる出自を感じさせながら、とてもナイーブで優しい演技で内面の脆さも表現。彼は体はしっかりしてるけれど目が丸くて少年ぽさが残る顔立ち。最初の方でデズデモーナに見せる愛情に溢れた表情は、後の悲劇を知っていると胸に刺さります。また、彼女の裏切りを疑い悩むシーンも、ピュアな心が苦しむ様が見て取れてとてもよかった。ムーア人である自分へのコンプレックスの表現もはまります。

アミカのオテロもサーシャのイアーゴも素晴らしいのですが、あまり組んでないキャストなので、演技の点で少しお互いに距離を図りかねている感じがあったかなと思いました。カーステンとサーシャの間には濃密なやりとりを感じたのだけど。オテロはとても演劇に近い作品なので、出演者同士の相互作用で作品ができていく面が強いのだと思います。

エレーヌのデズデモーナは、ピュアだけどかなり肉食系な役作り。最初はオテロの野性的なセックスアピールに惹かれ、でも次第に優しいアミカ・オテロの内面も愛するようになる感じでした。彼女のデズデモーナは愛とエネルギーに溢れていて暗い影は少ない。最後のパドドゥでは彼に幸せだったころの気持ちを思い出してもらおうと精一杯、でも受け入れてもらえず失意のうちに死んでいくという感じ。彼への愛に殉じようと静かな決意をしていたラウデールと、ストーリーまで違って見えて対比がとても面白かったです。

ファーストキャストでもうひとつ秀逸だったのは、カロリーナ・アグエロのエミリア。イアーゴにDVを受けながらも彼の愛を切望する繊細な演技が本当に素晴らしい。彼女は本当に女優ダンサーだわ!!

オテロ、考えれば考えるほどノイマイヤーの最高傑作の一つだと思います。ぜひDVD化してほしい!

おまけに、これまでのオテロの感想のリンクです。

2016/4
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1952067175&owner_id=2438654

2015/1
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1937604906&owner_id=2438654

2014/7
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1929172681&owner_id=2438654

4 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する