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2016年05月05日11:14

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(憲法を考える)立憲vs.非立憲:上 小選挙区制、憲政の岐路  朝日新聞より (全文)長いので日記の形で

憲法学の樋口陽一東北大名誉教授は4月、東京都内での記者会見で言った。

 「これほど卑しい政治を我々が選び出してきたことを、我々自身が恥じなければいけない」

 熊本地震を受けて、非常時に政府の権限を強める緊急事態条項が、憲法に必要だと主張する改憲派を批判した発言だった。

 いつからこんな政治になったログイン前の続きのか。20年前に始まった衆院小選挙区比例代表並立制がひとつの岐路だった。1989年のベルリンの壁崩壊や91年の湾岸戦争への対応で冷戦後の日本の針路が問われた。自民党の金権体質が問われ、二大政党による政権交代可能な政治が求められた。そんな時代の分かれ目に、政治改革論議の結果として導入された制度だった。

 あれから選挙も、国会論戦も劇的に変わった。

 ▼1面参照


 ■党と党激突、数の力で重要法成立

 小選挙区制で、選挙は政党同士の激突になった。同じ党から複数の候補者が立ち、「個性」も競い合う中選挙区制と違い、党の看板を背負っての決戦だ。勢い、敵か味方かをはっきりさせて、○か×かの選択を迫る展開が増えた。

 同時に複数の当選者があった中選挙区制に比べて、党公認の重みが増した。公認権を持つ党本部に異を唱えづらい体質が強まり、党首の権限が強大化する一方で、党内が単色化した。

 選ばれ方の変化は、国会審議も対決型に変えた。足して2で割る合意形成型の決着が減り、法案の欠陥を指摘されても「数の力」で決着を図るようになった。

 いまの自民・公明連立政権は、政権維持のための「数合わせ」でもあるので、数の力で決することへのためらいは希薄だ。

 この傾向を決定的にしたのが、自公両党が自由党をはさんで連立した99年だ。憲法の理念にかかわる重要法を、3党で次々に成立させた。最大野党の民主党内で賛否が割れるテーマが多く、国の行く末を占う展開に緊張感がみなぎった。

 安保外交面では、周辺事態法を含めた新ガイドライン関連法を通した。日米安保体制が日本や極東の安全を守る仕組みから、米国の世界戦略を支えるものへと変質した。この変質が16年後、集団的自衛権の行使容認へと結びつく。

 内政面では、第1が通信傍受(盗聴)法。当時、小沢一郎自由党党首は「国家的な危機管理という考えが根底にあって成り立つ」と語っていた。その発想の先に特定秘密保護法(13年成立)がある。

 第2は国旗・国歌法。政府は「学校現場への強制はしない」と繰り返したが、実態は違った。いまや「国費も投入されている」との理由で、文部科学相が国立大に国旗掲揚や国歌斉唱をさらりと促している。

 第3は全国民に番号をつけた改正住民基本台帳法。マイナンバー制度導入への足場を固めた。

 少しずつ、社会を管理する仕組みが築かれ、それを多くの人々が受容している。街頭の監視カメラの増え方が、プライバシー保護より街の安全を重視するようになった人々の意識の変化を映し出す。


 ■小泉劇場、首相権力強まる

 ○か×か。「数の力」の政治を最大限に演出したのが、小泉純一郎首相だ。05年の衆院選で、郵政民営化に反対する議員を「抵抗勢力」に見立てて、「刺客候補」をぶつけた。解散権を握る首相が、小選挙区制とともに導入された政党交付金を手に、公認権も差配すれば「鬼に金棒」。首相の権力を見せつけた。

 小泉劇場に人々が熱狂したのはなぜか。二つの要因がある。一つは強いリーダー待望論。「党首の顔」で戦う小選挙区制には欠かせない。毎年のように代わった首相より、「自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉氏に期待が膨らんだ。

 二つめは官邸の機能が強化されていたこと。90年代から、首相補佐官制度や予算編成の基本方針を決める経済財政諮問会議などを設けて、首相に権限を集めてきた。それを小泉首相は初めてフル活用した。

 そしていま、安倍官邸は内閣人事局をつくって霞が関の人事を掌握し、民間企業の賃上げにも口を出す。

 かつて菅直人首相(当時)は「議会制民主主義は期限を切った独裁を認めること」と言い、大阪市の橋下徹市長(同)も選挙を「ある種の白紙委任」と明言した。託された者の強引さが増してきている。

 「権力は抑制的に使うべし」という穏健な保守思想が揺らいでいる。(論説委員・坪井ゆづる、藤原慎一)


 ■<視点>立憲主義、私たちの行動しだい

 小選挙区制になってからの投票率は05年の郵政選挙の67・51%と、09年の民主党政権誕生の69・28%が高い。その後の12年は戦後最低の59・32%。自民党は、下野した09年より比例代表の得票を200万票減らしながら政権を奪回した。

 09年と12年の落差が、小選挙区制導入の目的だった「政権選択」への期待感が冷めた実情を物語る。

 14年衆院選での自民党の絶対得票率(棄権者も含む全有権者に占める割合)を見ると、小選挙区は24・49%、比例代表は16・99%だ。明確な支持は5人に1人ほどしかない。

 それでも自民党はいま衆院の6割余を占める。一票の格差問題で最高裁から「違憲状態」と指摘され続ける国会で改憲が語られる不条理とともに、憲法を論じる舞台が民意を反映しきれていない現状に驚く。

 権力の暴走にブレーキをかける立憲主義の精神に背く「非立憲」への流れが加速している。

 「決められる政治」を求めたこの20年、権力に抑制を求める憲法は後景に追いやられた。私たち有権者の多くも、それを問題にはしなかった。そして今、政権は「憲法のくびき」を解こうとしている。

 現行憲法の是非を論じる以前に、「立憲か非立憲か」が問われる事態に立ち至っていることに気づかされ、立ちすくむ。

 立憲主義のもと、憲法が守る個人の尊厳、自由や権利は普遍的なものだ。多数決や時の権力者の都合では変えられない。そもそも憲法は権力を縛るものだ。

 だが、権力者が立憲主義を打ち壊して「非立憲」にしても罰則はない。私たちが黙認すれば、そのまま行く。そのことに気づいたからこそ、人々は街頭に出て声を上げ始めた。立憲主義を守るのも、手放すのも、私たちの行動しだいだ。(藤原慎一)

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