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2016年04月05日23:46

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マリネラ核武装への長い道のり(承前)

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1951016807&owner_id=78391
の続き

 サンダース達がキューバ沖の海中でニセ映画を撮影していたのとほぼ同じ頃,マリネラの空中ではマリネラ空軍史上有名な「新婚カップル撃墜未遂事件」が起きていた.
 ある富豪家の新婚カップルが新婚旅行を兼ね,飛行機の機内で結婚式を挙げようと思いついたのが,事の発端.
 彼らはコスタリカ航空(Avianca Costa Rica)のDC-6型旅客機※1を貸し切り,サンホセのフアン・サンタマリーア国際空港※2から遊覧飛行へと飛び立った.
 カリブ海クルーズして,最終目的地はリゾート地フロリダ.
 ところが機長は操縦を誤り,同機はマリネラ領空に迷い込んだ.
 しかも間の悪いことに,原子炉建設中のパタリロ湖上空にやってきてしまった.

 マリネラ空軍の戦闘機が緊急発進した.
 戦闘機は新婚機に対し,直ちに進路を変えてマリネラ空港に着陸するよう命令した.
「さもなければ撃墜する」
と.

 しかし新婚機の機長は,命令を無視.
 領空外へ出ようとした.
 どうやら機長は,マリネラ軍機が本気で撃つとは思わなかったらしい.

 その判断は誤りだった.
 旅客機が進路を変えないと見るや,その機銃で戦闘機は攻撃をかけた.
 コックピットに銃弾が降り注いだ.
 機長は負傷,新婚機は急降下し,何が起こったのかも知らない新婚カップルやその親族・友人らはパニックに陥った.

 だが,新婚機にとって幸いだったのは,スクランブルをかけてきた戦闘機が,旧式の「グラディエーター」複葉機だったことだった.
(だからこそ,機長も油断したらしい)
 マリネラ空軍にとっても史上初の緊急発進であり,そのとき直ちに発進可能なほど整備されていたのは,整備員にとっては手慣れた「グラディエーター」だけだった.
 急速なジェット機への転換に,整備員の技術が追いついていなかったのである.

 「グラディエーター」に搭載されている7.7mm機銃は非力で,機長を負傷させた以外は,幾つか小さな穴を新婚機に開けただけだった.
 副操縦士が慌てて操縦を代わり,機体の姿勢を立て直すと,大急ぎでその場を逃げ出した.
 DC-6型旅客機の最高時速は644km.
 追いかける「グラディエーター」戦闘機は,老朽化もあって時速400kmがやっと.
 新婚機は命からがら逃げ切って,タークス・カイコス諸島はグランド・カイコス島の浜辺に不時着した.

 富豪家がコスタリカ政界とも繋がりがあることから,事件はコスタリカのマリオ・エツァンディ・ヒメネス Mario Echandi Jimenez 大統領(当時)を激怒させた.
 彼は在サンホセのマリネラ大使を召喚し,宣戦布告も辞さない勢いで抗議した.
 コスタリカは1948年の憲法改正で軍隊を廃止しており,当時は非武装.
 しかし,警察にしては重武装の准軍隊「警備隊」がある.
 また,同国憲法第12条の規定により,予備役を招集,また,民間人を徴兵し,軍隊を復活させることを議会演説の中で大統領は述べた.

 もちろん,これはポーズに過ぎなかった.
 治安警備隊や沿岸警備隊の装備では,マリネラに対して上陸作戦を敢行することは到底不可能だったからだ.
 
 マリネラ側も戦争などは望まなかった.
 マリネラ首相は事件に対して早い段階で公式に謝罪し,被害を受けた会社や人々に補償を行うことで,事件は決着した.
 そして事件はたちまち風化し,忘れ去られた.

 なぜ新婚機の機長は針路を誤ったのか?
 原因は不明だが,一部計器に狂いがあったのだろう,というのが機長やコスタリカ航空の説明だった.
 しかしこれは虚偽の説明だった.

 2012年12月12日,ある文書がウィキリークスにアップロードされた.※3
 ウィキリークスは世界各国の機密情報の漏洩情報を投稿できるサイト.
 その「ある文書」とは,1950〜1960年代の英国の,中南米諸国に対する情報収集活動に関するもので,その中にはマリネラに対する諜報活動も含まれていた.
 同文書によれば,「新婚カップル撃墜未遂事件」において新婚機がマリネラ湖上空を侵犯飛行したのは,機長の故意によるものだったというのである.

 当時,事態の重要性を鑑みて英軍情報部は,逃亡したナチスの追跡任務は他の者に任せ,イヨマンテ・サンダースをマリネラの核兵器開発に関する情報収集に専従させていた.
 彼はMI6に転属し,若干数の部下も持たされた.

 マリネラ湖畔に「ロス・マリネロス(マリネラのロスアラモス)」とそれに付随する原子炉が建設中であることを,サンダースらは突き止めた.
 日雇い建設労働者の証言.
 しかし,彼らは核の専門家ではないので,証言の内容は曖昧,信憑性にも疑問符が付いた.
「ビールを1缶やるだけで,彼らはあることないこと何でも喋った」
とは,同文書の中のメモ書きのフレーズだ.

 そこでMI6が思いついたのが,上空から工事現場を撮影することだった.
 しかし,小国とはいえれっきとした独立国の領空を,英軍偵察機が無断で侵入するわけにはいかない.
 ましてマリネラは,半ば忘れ去られていたとは言え,条約上は英国の同盟国だ.
 また,領空侵犯をとやかく言われない偵察衛星などというものは,当時はまだ存在もしていなかった.

 これがアメリカなら,国籍不明機ということにしてU-2偵察機を侵入させるだろうが,英国はもっとスマートな方法をとることにした.
 どこかの民間機の機長を買収して,「うっかり」領空に侵犯させることにしたのである.
 そしてサンダースらが買収に成功したのが,件の新婚機の機長.
「『うっかり』操縦を誤っただけで1万ドル頂ける」
と聞いて,機長は二つ返事だった.
 そんなパイロットと知らずにチャーターしてしまったのが,新婚カップルの不運だった.

 もちろんサンダースは,その際の危険性については機長に知らせなかった.
 そもそも彼自身,マリネラの防空体制を低く評価していた.
 そしてそれは結果的には正解だった.
 サンダースの予測より素早くマリネラ空軍は反応できたが,サンダースの予測より低性能の戦闘機しか迎撃してこなかった.

 マリネラとコスタリカとが,一連の外交上の騒動を繰り広げている間に,MI6は新婚機にこっそり取り付けてあった航空カメラを回収した.
 カメラを取り付けたのも回収したのも,コスタリカ航空のとある整備員で,彼もまたMI6に買収されていた.
 機長と整備員とは,互いに買収されていることは知らなかった.
 整備員は,
「フライト前にこの装置を取り付けて,フライト後に回収してきてほしい」
と言われただけ.
 カメラであることすら知らされなかった.
 MI6の「Q」が開発した超小型特殊カメラ.
 カメラは直ちにMI6本部に空輸されて,フィルムを現像された.
 大成功.
 ロス・マリネロスに建設中の原子炉の様子が,鮮明に写っていた.

 なお,カップルはその後,3か月で離婚したそうである.

※1
 事件の機体と同型の,「コスタリカ航空」のDC-6
https://en.wikipedia.org/wiki/Avianca_Costa_Rica#/media/File:Douglas_DC-6BF_TI-1018C_LACSA_MIA_08.02.71_edited-3.jpg

※2
 フアン・サンタマリーア国際空港の公式サイトはこちら
http://fly2sanjose.com/es/

※3
https://wikileaks.org/
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