その男

プロローグ
ホテルのフロントにて

その男は、千鳥足でエレベーターに向かいながら言った。
あれ、車のカギはどこだ？
恐らく相当酒を飲んだのだろう。
そう言いながら、ポケットから部屋の鍵らしき物を取り出すと、何かを落として意図せずに蹴とばした。
チャリ〜ン。
あ、有ったぁ〜。
それは、問題の車の鍵だったようだ。
エレベータの扉がタイミング悪く開いたが、奇跡的にも隙間に落ちずにエレベーター内に着地した。
何という強運にして、凶運だろうか？
お前凄い奴だなぁとか言いながら、周囲にいたその男の仲間が笑い転げていた。
きっと、その一団は飲み屋帰りだったのだろう。



今日は、自転車でスーパーを7軒も梯子してしまった。
予想外にケーキのスポンジ台がなかなか見つからなかったのだ。
失敗だった。
まさか、こんなにも見つからないとは思わなかった。
そして、自転車で行くべきではなかった。
諦めかけて入った最後の一軒でついに発見した…。
そこまでは良かった。
すると、その店に入ると同じ会社の別部署の偉い人の声にそっくりな声が聞こえてきた。
もしや…と思いながら振り返ると、その人だった。
仕方なく、「こんにちわ」と言ってその場をさっさと離れた。
色々と詮索されたくなかったからさ…。
それにしても、珍しいことも有った物だ。