mixiユーザー(id:5347088)

2016年04月02日22:24

62 view

夢の小料理屋のはなし 100

カウンターで、見た事があるような無いような男が飲んでいる。
小太りで、M字脱毛。
そして、メガネ。
女将さんに「タカさん」と呼ばれるそのパーカーを羽織った男は、さっきから黙って聞いていれば、男のくせによく喋る。
「やっぱねー、女将さんねー、男は黙ってサッポロビールってなもんだよねぇ、暑くても寒くてもさー。このさ、泡がヤバいよね。」
全然黙って無いじゃないか。
うるさい男だねぇ。
そして、一見さんのくせに馴れ馴れしい。
三流の営業マンって感じかね、この安っぽさは。
こう言う男はねぇ、喋りすぎて失敗するタイプだぜ、きっと。
「でもねぇ、女将さん。僕、こう言うお店大好きなんですよ。お料理も美味しくて、酒も美味い。そして、綺麗な女性まで居る。こんな出来すぎたお店、そうそう無いもの。もしも僕に文才みたいなのがあったら、ここをモデルにして小説書いちゃうかもね。『夢の小料理屋のはなし』なーんてタイトルでさ。」
鼻の下にビールの泡をくっ付けて、女将さんを相手に喋り倒すその男。
まぁ調子がいいねぇ。
「もしも小説になるんだったら、やっぱり私もカッコよく書いて貰えるのかしらねぇ?」
「勿論!それから…そうだな、カウンターにいつも座ってる常連さんから見た目線で、大きな起伏は無いけど日々の小さな発見なんかを、こう、書きたいっすよねえ。季節の味覚なんかを織り交ぜてね。」
「じゃあ、僕は常連の男役になりますかねぇ?」
一応割って入ってみる。
「お、そうですねぇ。ダンナさんみたいな、ちょっとシュッとしてカッコいい感じの人が主役だと、そりゃあ物語が締まりますよね、ビッとね!」
なんだ、意外といい人じゃ無いか、この人。
じゃあちょっとついでに、聞いてみるかな。
「100話ぐらいまでお話が続いたら、その時はどうします?」
すると、彼は少し考えてから、また喋り出した。
「そうだな、でもまぁ100話まで続くとも思えないけど…続いた時は、自分が登場して、大好きな酒と肴を女将さんに注文するかな。じゃあ、そう言う訳で女将さん、竹鶴と、この今日のオススメの穴子とマッシュポテト下さいな。」
「はい、喜んで!」

どう言う訳か、この調子のいい男とは僕の節目節目で会いそうな予感がしてきた。
7 4

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する