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2016年03月20日18:31

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0歳からのオペラ「子どもと魔法」《後編》

「0歳からのオペラ」というのは大胆不敵な企画です。
乳幼児に、果たしてクラシック音楽が分かるのでしょうか?
しかし、多くの乳幼児を相手に音楽をやってきた和田さんには、「乳幼児にも音楽は楽しめる」という確信があったのかもしれません。

下の動画の双子の赤ちゃんは、父親の弾くギターの演奏を確かに楽しんでいるようです。

下の動画の右のオウムは、ロックを聴いて異常にハイテンションになります。
もう一羽はしら〜っとしています。

赤ちゃんや動物にも音楽への感受性があるらしいこと、また感受性には個体差があることが分かります。

それにしても「子どもと魔法」は大胆すぎるのでは?と私も思いました。
前作「白雪姫」がシンプルな三和音ばかりの音楽なのに、「子どもと魔法」は、いきなり現代音楽です。

和田さんは3回生の時に「子どもと魔法」を上演した経験があります。
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(約2年前の写真。この中で4名が今回の上演にも参加している。)

それで、ニコニコでの経験を加味すれば、幼児も楽しめるように演出できる自信があったのでしょう。
あるいは、京芸生としての矜持も、そこにはあったのかもしれません。
そして、子どものいるお母さんたちにもいい音楽を提供したいという強い思いが、和田さんの原動力になっていたと思われます。


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「ニコニコファミリーコンサート実行委員会」は、約半年の準備期間の後、2016年1月より、市内の幼稚園・保育園への宣伝訪問演奏を始めました。
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「白雪姫」を紙芝居と歌で上演するという、大胆な訪問演奏です。
時間もエネルギーも必要なこの活動を、ニコニコのメンバーは「カルメン」の準備期間にも行っていました。

「カルメン」が終わると、総勢30名のスタッフはいよいよ本格的に「子どもと魔法」の準備、練習にとりかかりました。
地道に足で稼いだ宣伝も功を奏し、約400席のチケットを遂に完売します。

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そして迎えた2016年3月13日。よいお天気の日でした。

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京都市西文化会館ウエスティ前にて。えらく早く着いてしまいました。

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手書きのウェルカム・ボードです。

チケットは予約制で、当日会場で現金とチケットを引き換えるという形式をとっていました。
引き換えに時間がかかるのでは?と心配していたのですが、スタッフの適切な誘導、丁寧な対応が非常に良くて、とてもスムーズだったと感じました。

会場には幼児も大勢来ていました。
子どもがあんまり多いので、いつも撮影する会場内の写真は遠慮しました。
限りなく満席に近くて、ギリギリに来た親子は座る場所を探すのに苦労しましたが、それもスタッフの適切な誘導でノートラブルでした。
まったく素晴らしい運営でした。

開演に先立ち、ニコニコ設立時からのメンバー、大井卓也さんが挨拶と諸注意を述べました。
あたたかくジェントルな語りかけで、会場の大人も子どもも安心感を味わいました。
乳幼児が多いので、完全に静粛というのは難しかったのですが、立ち歩いたり走りまわったりする子はいなくて、極めてマナーの良い観客でした。

スタッフが、慌てず、入念に客席の状況をチェックしてから、いよいよ「子どもと魔法」の幕が開きました。

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幕が開くと、そこは子どもの部屋です。
思いのほか簡潔な舞台装置。
子ども役の中谷さんが大きな鉛筆を使っているのが目を引きました。
小道具を大きめに作るのは良い工夫です。
原曲では木管の寂しげな音で始まるので、ピアノだとどうだろう?と心配でしたが、原曲の抒情味を損なわない編曲と演奏で、すぐに作品世界に入れました。

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約45分の上演の間、1度もはけることなく、子ども役で出ずっぱりだった中谷明日香さん。
澄んだメゾの声質、明瞭な歌詞、身軽な動作は子ども役にピッタリ。
演技も至るところ素晴らしくて光っていました。
観客皆の気持ちを集めることができていたと思います。
ケルビーノなどもピッタリな人だと思いました。

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子どもは北薗彩佳さんのママに不勉強を叱られます。ちょっと怖いママです。
北薗さんは、アイちゃん、白雪姫、カルメンと、実に幅広い役をこなせる素晴らしい人です。
「子どもと魔法」でも、ママ、急に追加になったカップ、セクシー担当の雌猫と、大活躍でした。

ママに叱られて、子どもは癇癪を起こし大暴れして部屋の物を投げたり叩いたりします。
その時点で泣き出す客席の子どもがいましたが、阿鼻叫喚はその直後でした。

音楽の表情が一変し、二脚の椅子が動きだし、ピアノが壊れたチェンバロのような不気味な響きを立て始めると、多くの赤ちゃんが一斉に泣き始めました。

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肘掛け椅子の浦方郷成さんと、安楽椅子の山原さくらさん。
ちゃんと椅子の姿のまま動き出したのは期待どおりでした。
多くの赤ちゃんが泣き出して、歌手も最初驚いたかもしれませんが、見事な歌を聴かせました。
私は、可笑しくて仕方がなくて笑いをこらえていました。
ある意味、ラヴェルの狙い通りの展開であり、舞台の出来事と音楽を見聞きしていたが故の幼児の反応で、痛快ですらありました。

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追い打ちをかけるように今度は振り子時計が「ディン!ディン!ディン!」と叫びながら動き出す!
大西凌さんはやはり立派な声でした。時計の造形はもっとしっかり作ってほしかったけれど(笑)


ここで、原曲にはない演出が入りました。

北薗さんのカップと廣田さんのポットが登場し、肘掛け椅子、安楽椅子、振り子時計たちと会話の寸劇を始めたのです。
子どもの乱暴で欠けてしまったことを客席に訴えるカップ。
他の物たちも、子どものいたずらで迷惑していることや動物たちも被害に遭っていることを次々と訴えました。
そして、カップの北薗さんは、客席の子どもたちにも呼びかけをし、客席の子どもたちも呼びかけに応えました。

これは、ニコニコファミリーコンサートらしくもあり、とてもいい演出でした!
椅子が動き出してからの恐怖の展開に翻弄されていた幼児も、少し安心して落ち着くことができました。
何がどうなっているのか、腑に落ちて、舞台を理解して観られるようになりました。
カップとポットによるユーモラスなダンスと歌を受け入れる、心の準備ができました。
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ポットの廣田さんは、グローブをして子どもにパンチをする仕草をしたので、客席の子どもたちも分かり易く楽しめたと思います。

この場面が落ち着くとちょっと舞台は静かになり、子どもは暖炉に当たりに行きます。

そこへ「火」役の和田悠花さんが登場。
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和田さんは当初はカップの予定でしたが、急遽「火」に変更になりました。
「火」は、コロラトゥーラ・ソプラノの超絶技巧を要する、このオペラで一番の難役です。
そのことへの期待もさることながら「火」らしい衣装にも期待していました。

できれば暖炉の中から飛び出してほしかったのですが、「火」は暖炉の後ろから登場。
超豪華な真紅のドレスで、手には炎を模したバトンを持っているものの、オペラ歌手そのままの格好だったので意表を突かれました。
和田さん本人も、せめて燃え上がる炎のようなカツラくらい付けたかったようですが、プロデューサーと音楽監督を兼ねている上に、短期間で「火」の歌を仕上げたので、衣装に凝る余裕がなかったのです。
しかし、歌は全く見事で、難易度の高さを意識させないくらい楽々と歌っているように聴こえました。
「火」は前半は子どもを魔法で操って翻弄しますが、後半は子どもが水鉄砲で反撃し、「火」はたじたじに。
一方的に「火」が優勢の演出より楽しくてよかったです。

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対決!「火VS子ども」


「火」との対決の後、抒情的な場面が続きます。
まずは、少年が破いた壁紙の絵が出てくる場面です。
先に、羊たちが登場し、合唱で歌います。ここで初めて合唱が登場。
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合唱隊は歌うだけでなく、羊、数字、カエルなどモブシーンのすべてに登場し、演技も多彩だし、歌のアンサンブルも非常に上手でした。
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羊に扮するポットも演じた廣田さん。役名の付いている人も、出番以外はモブに参加したので、一人何役もやっていたことになります。

羊の場面の後半に、羊飼いの男の子と女の子が登場。
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ここで、馬場裕子さんと青木美沙季さんが子どものいたずらで引き裂かれた二人の運命を、ロメオとジュリエットを思わせるロマンチックなパントマイムで表現し、非常に美しい場面を作り出していました。
二人の演技は馬場さんと青木さんが考えたようです。
子どもが、自分が絵を裂いたために二人が引き離されたことに気付き、後悔する演出も見事でした。
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子どもと羊飼いの男の子、女の子に扮する3人。

続いて、松尾咲さんのお姫様が登場。
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純白の豪華なドレスで、おそらくウェディングドレスでしょう。
お姫様というより、新婦さんに見えなくもなかったが、子どもたちは見とれたと思います。
お姫様は歌が難しい難役であるため、和田さんの助言もあり、松尾さんは極力パントマイムを省いて歌に専念しました。
静かで動きの少ない場面ですが、幼児が結構泣いたのは、しみじみした音楽のせいでしょう。
幼児によって、泣き出すツボが異なっていました。
私もこの場面で泣けてきました。
音楽が非常に美しく、また、やんちゃだった男の子が「君を守りたい」と、英雄的な面を見せる感動的な場面だったからです。

お姫様が退場すると、一転して賑やかな場面となりました。
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「カルメン」でもいい味を出していた蔦谷明夫さんが、「数を数える老人」役で大活躍。
そして、数字に扮した人々が大勢出てきて、歌だけでなくダンスも非常に楽しい場面になりました。
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写真はリハーサルの様子から。

老人は設定ではアルキメデスらしいのですが、それをピタゴラスということにして「ピタゴラスイッチ」だ!と(笑)
この場面を笑いのとれる楽しい演出にしている例は意外と無いようです。
ニコニコファミリーコンサートならではの冴えた演出で、大成功だったと思います。
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この場面の楽しさがよく伝わる一枚。

あえて言えば、老人の歌の対訳は、もっと思い切って、ペギー葉山版の「ドレミの歌」並みに翻案してもよかったと思います。
幼児でも一聴してデタラメ算数だと分かった方が、より面白かった筈。

蔦谷明夫さんは、3月27日(日)SUENOPERAで「カルメン」のドン・ホセを歌います。
http://kakihouse.com/suenoperaMAP.html
応援しています♪

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ここまでの登場人物のオフショット。
前列左から、ママ、安楽椅子、子ども、ポット。
後列にお姫様、数を数える老人、火。

次に登場するのは北薗さんの雌猫と大西さんの雄猫で、ここからは物ではなく動物編です。
ここはかなりエロい場面で、本当にエロい演出もありますが、北薗さんたちは幼児にも見せられる範囲に抑えていました。
しかし、さかりのついた猫たちの妖しい音楽に泣き出す赤ちゃんも結構いました(笑)

ここで場面は屋外へと移ります。
場面転換は一つの見せ場ですが、この上演は舞台装置にあまり力を入れなかったので、ごく簡単に済ませていました。

後半の最初は「木」です。浦方さんが木の恨み節を好演。
木の造形は振り子時計と同様、もう少しなんとかしてほしかったですね。

後半は動物がごちゃごちゃと出てくるので、大体どの演出でも混沌とした印象になります。
動物が出てきた順番も覚えられません。
しかし、感心したのは、トンボ、こうもり、フクロウ、リスなど、思いを訴える動物はちゃんと舞台の中央で歌ってくれたこと。
これは随分分かり易かったです。
中央で歌う動物以外も周辺でとにかくよく動き、生き生きと演技をしていました。
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こうもり役の宮後優さん。こうもりはクワックワッと鳴きながら飛ぶのですね、
全然こうもりだと分からない演出もあるから、ちゃんと翼の付いたこうもりで良かったです。
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土橋美幸さんのナイチンゲールは、火に次ぐソプラノの難役でしたが、好演しました。

動物編で目を引いたのは、カエルの群れのダンスです。
衣装こそ簡単に済ませていましたが、動きの揃った面白いダンスは見事。
映像で観た他の多くの演出よりも良かったと思います。
ここでも、ニコニコらしい表現の良さを感じさせました。
きちんと観客の子どもに寄り添った演出になっているのです。

動物編も後半になると、演出と合唱が力を発揮しました。
子どもが「ママ」と呟いてしまうのをきっかけに、動物たちが子どもを責め始めます。
非常に迫力のある合唱と群衆シーンでしたね。

騒ぎのさなか、リスが怪我をしてしまう。
それを子どもが首に巻いていたタイを取って手当てするのですが、ここは音楽なしの演技をじっくり時間をかけて見せて、子どもの意外な行動の重みを観客に伝えていました。

最後は、動物役の全員が舞台の中央に集まり、倒れている子どもの周りで子どもを称えて歌う。
その合唱が、演奏の音楽的なクォリティが非常に高くて、美しさと力を感じさせる、大変胸を打つものになっていました。

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(最後の合唱の場面。中谷さんのツイッターから拝借しました。)

私は感激して涙が出ました。
最後の中谷さんの「ママ」も良かった。
演出的には、プログラムのあらすじにあるように、実際にママと再会しても良かったと思います。
そうしなかったのは、原曲がそうなってはいない点を重視したのでしょう。

器楽の活躍にも触れておきましょう。
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ピアノの小澤美鈴さんと竹迫友梨さんの演奏は、もう非常に上手くて美しく、聞き惚れた部分が多々ありました。
民族衣装風の服装で演奏していたのも良かったです。
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子どもとピアノのお二人。

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パーカッションの小椋風花さんと陶山美輝さんの演奏は、現代音楽ほどは前面に出ず、美しいアクセントになっていました。
どこだったか忘れましたが、非常に美しい場面がありました。
会場の音響特性が、ステージの奥に行くほど音量が小さくなる傾向だったため、響きにくかったということもありますが、かえって良かったかもしれません。
大曲の編曲を担当したのは「白雪姫」の中世古早織さん。
楽器が少ないことのリスクを感じさせない編曲で、終始不足を感じずに楽しめました。

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0歳からのオペラ「子どもと魔法」の公演は、演奏としても、集客としても大成功だったと思います。
乳幼児が大勢いれば泣く子がいるのは想定内で、泣くにしてもちゃんと音楽と舞台に反応しての結果であることが分かったのは収穫でもありました。
アンケートがたくさん回収されたようで、「子どもが舞台にくぎ付けだった」という感想もあったようです。
大人も子どもたちも楽しめた公演だったと思います。

舞台装置と衣装は割り切って捨てていた部分もありましたが、限られたスタッフと時間的制約の中で、音楽専攻生として演奏のクォリティを最優先にしたのは正しいことだったと思います。
YouTubeで観られる動画の「子どもと魔法」の中には、舞台美術には凝っているが音楽的なクォリティが低い学生オペラもあります。
それを見て分かったのは、美術が良くても演奏が悪いと見るに堪えないということでした。
「ニコニコファミリーコンサート実行委員会」の「子どもと魔法」は、演奏と演出のクォリティが非常に高かったので、とても感動的なものとなっていました。

それに、誰か一人の力ではなく、本当に全員の創意と意欲が舞台から溢れていたので、終始観ていて楽しかったのです。
終演後、ロビーで出会った出演者たちの表情は、やり遂げた満足感で輝いていました。

「子どもと魔法」という作品の素晴らしさを味わえたことに加え、若者たちが輝く姿を目にすることができて、本当に幸せでした。ありがとうございました♪
今回、学年の若い人が大勢入って活躍したので、「ニコニコファミリーコンサート実行委員会」も世代交代が行われるといいですね。
この、換えがたい価値ある活動がこれからも続いて行ってほしいと思います。
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今回の上演に携わったスタッフほぼ全員の記念撮影。

いつか舞台作品が上演されるなら、また観に来たいです。
これからも、ドキドキワクワクそしてニコニコになるコンサートに期待しています。
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