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2016年02月14日18:56

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夢の小料理屋のはなし 91

今日は比較的暖かい日だった東京。
こう暖かいと、軽いコートにしたくなるよねぇ。
本屋を覗いたり、小諸そばに寄ったりしつつ都心を徘徊して夕方に向かう先は、勿論、あの小料理屋である。

「おかえり、休日のパトロールお疲れ様です!」
厨房の中から僕の方へ、菜箸を持ったまま敬礼して笑い出す女将さん。
まぁ、特に都民の安全の為に徘徊していた訳でも無いし、むしろただ一日中遊んでいた訳だが、何となく一仕事したような気分になってくる。
「仕事の後は、やっぱりビールかねぇ、ナンチャッテ。」
「そう来ると思っていたわ。はい、ビール。」
何故か自分も中生を取り出して乾杯する女将さん。
そして、何やら包み紙を出す。
「はい、チョコレート。今日はバレンタインデーだもんね。」
「あ、もう菓子業界の策略に乗せられちゃって。」
「じゃあ、要らない?」
「貰う貰う、貰いますとも。」
正直な話、この歳になってもチョコレートを貰うのはやっぱり嬉しい。
ましてや、女房からなら尚更だ。
「開けてみてもいい?一緒に食べようよ。」
「あら、頂戴しても良いのかしら?じゃあ、今日は日本酒じゃない方が良いわね。」
そう言って女将さんが出してきたのは、岩井・ワインカスクフィニッシュ。
最近女将さんが痛く気に入っているウイスキーだ。
二つのロックグラスに、シングルとは言いがたい量のウイスキーを注ぎ、もう一度乾杯をし直す。
チョコレートは、おほ、北海道のあのお店の生チョコである。
一つ摘み上げて口に放り込み、チョコレートのとろける舌触りを楽しむ。
甘さとほろ苦さが口いっぱいに広がったところで、ウイスキーを舐めてみる。
これでもかと言わんばかりの、大人の味。
ふと女将さんを見ると、女将さんも同じことをしていて、恍惚の表情を浮かべている。
あ、僕その表情が好きなんだ…まぁ、大体の男は女性のその表情が好きで一生懸命に…いかんいかん、別に変な意味じゃ無いんだからねっ。
「美味しいわよね、この組み合わせって。」
どうにかこちらの世界にもどってきた女将さんが、口を開く。
「たまんないよね。」
「ねぇ、ウフっ。」
「もう一つ、どう?」
「え、良いの?」
再びチョコレートを口に入れ、目を閉じて味に身を任せる女将さん。
「わぁ、もう堪らないわね、これ。こう、美味しさがね、ねっとりと舌に絡みついて来るのよねぇ。もう、どうにでもして、って感じ。」
「堪らないよね、もう。」
今日のウイスキーは、一段と旨い気がする。
いや、旨い。
確実に。
そして、男で良かった。
「もう一つ、どう?」
すると、女将さんは目を開けて笑った。
「そうしたいのは山々だけど、いつまでもここでチョコレートを楽しんでる訳にもいかないわ。お客さんだって来るもの、フフフ。」
あーあ、僕のお楽しみもここでおしまいか。
岩井のふくよかな味と香りが、チョコレートを洗い流す。
「この続きは、帰ってからにしましょう、ね。」
そう言って、ロックグラスを小刻みに振りながらウインクしてみせる女将さん。

おほ、明日は月曜日だってのに、今日はちょっと長い夜になり…いや、べ、別に変な意味じゃ無いんだからねっ。

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