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2016年01月19日18:36

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精神疾患は脳の病気である。しかし―― 評者 大谷卓史 (吉備国際大学 政策マネジメント学部 知的財産マネジメント学科)

今年(2008年?)から,メチルフェニードを含む医薬
品リタリン
レジスタードトレードマーク
の処方が厳格化された。儲け
を優先してリタリンを乱発するモラルの低
い医師に加えて,気分や性格の改善薬とし
て濫用する一部の人びとによって,この薬
が社会問題化したためだ。この結果,リタ
リンを必要とする患者たちの手元に届かな
くなると心配する精神科医も少なくない。
 精神薬理学や脳科学の発達によって,
精神疾患が生物学的基盤をもつ病気であ
ると解明されてきた。試行錯誤や偶然も
あったが,精神疾患の薬物療法も確立しつ
つある。精神疾患は糖尿病のようなもの
だと主張されることも増えてきた。確か
に,このたとえは正しい。精神疾患も糖尿
病も,遺伝などの生物学的要因と生活や社
会などの環境的要因の相互作用で発症す
る病気だからだ。
 しかし,精神疾患は糖尿病ほどそのメカ
ニズムも解明されていないし,どちらの病
気も薬物だけでは治療困難だ。にもかかわ
らず,精神疾患治療に薬物療法が優先され
る状況が生まれている。薬物による精神疾
患治療は有効であるものの,まだ万能では
ない。健常者の気分や性格,知性も薬物に
よって改善できるという考えも社会通念化
しつつあるが,倫理的に健全だろうか。
 行動神経学者のヴァレンスタインは,ま
るで脳の分子レベルのはたらきが完全に解
明されたかのように,精神疾患の治療を薬
物療法だけに頼る傾向に警鐘を鳴らした。
行動療法や精神療法と併用することで効果
があがるにもかかわらず,一部の精神科医
たちは費用が安く済むという理由だけで薬
物療法を優先する。また,医薬品企業は,向精神薬の効果を誇張し,宣伝に役立つ治験
結果を積み重ねるために,研究者や医師に
補助金などの便宜を図る。
 そもそも精神疾患の原因もその治療法
も,現在,まだ完全に確立したわけではな
い。理化学研究所脳科学総合研究セン
ターの10周年を記念して発行されたシ
リーズの1冊である『精神の脳科学』は,精
神疾患が分子レベルでどこまで解明され
てきたか,その最前線をみることができる
1冊だ。世の中に流布しているうつ病のモ
ノアミン仮説や統合失調症のドーパミン過
剰説も,現在塗り替えられつつある。双極
性障害(躁うつ病)のミトコンドリア障害説
など,分子レベルでの発見はまだ目白押し
だ。発見が相次ぐ活発な分野は科学として
魅力的だが,現在の薬物療法の絶対視は危
険だ。
 精神疾患をまるで人格や道徳心の欠陥と
みなす偏見も,患者や家族の誤解を増進す
る。偏見にさらされた患者は自分の性格を
責め,家族も患者を追い込んだのではと自
責の念が募る。薬だけで治るならば,道徳
的病気という偏見は的外れと簡単に片付け
られる。
 経済・社会のメカニズムを通じて,限界が
ある現在の脳科学がまるで万能のように祭
り上げられ,患者の福祉に貢献しない事態
にヴァレンスタインの怒りはむけられる。
 リタリンの濫用にみられるように,一部
の精神科医を含めて,社会の向精神薬に対
する誤解はまだ深い。ヴァレンスタインの
指摘するように,科学主義・還元主義の濫用
という深い社会的風潮にも確実に問題があ
るだろう。

2008年の本・・http://home.kiui.ac.jp/~ootani/2008_07_p108.pdf
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