新入生説明会会場にたどり着くまで随分迷った。時間に余裕をもっていたので、ぎりぎり間に合った。
席が近かった数人とお喋りして、彼女達とぶらぶらとそこらを散策することにした。そのうちの一人、サトミさんは何でもよく気が付き、痒い所に手が届く。ほんのちょっとしたことなのだが、周囲の人達の心を読んでいるように先回りをしてお世話をしてくれる。
親切な人だなあ、と思いつつ、先ほど偶然見かけた光景が引っかかっていた。カフェテリアで彼女が向かいに座っていた男性の顔にコップの水をぶっかけていたのだ。
どんな事情があったのかは知らない。でも彼女の親切さには多少気を付けなければ、と思っていた。
駐車場でつかつかとサトミさんが近づいてきた。彼女はいきなり私のコートとバッグを奪い取り、ぶん投げた。呆然としている私に構わず、中身が散乱したバッグの方にずんずん歩いていき、ピンク色の油性マジックでバッグに落書きをしようとした。
ものすごくお気に入りのバッグだ。
「やめてー!!」私は絶叫した。
それを聞いたサトミさんはバッグには何もせず、コートに近づいた。今度は油性マジックでコートを滅茶苦茶にしようとした。私は駆け寄り、「止めてください!」と叫んだ。
サトミさんはそれでもマジックでちょんちょんとコートに染みをつけた。更にコートを踏みにじってどこかへ行ってしまった。
すごく親切そうな人だったが、不満をため込むタイプだったのだろう。私のコートを踏みにじっている時でさえ、顔は微笑していた。怒りを溜めて溜めて、いきなり爆発する、多分そういう人だ。
汚されちゃったコート、クリーニングに出してきれいになるのかな。
駐車場の端っこに、お花が植えてあって、そこに小さな鶏のような鳥が数羽、うろうろしていた。
傷ついた心を癒すために鳥達と触れ合うことにした。顔は鶏だが、ウズラ程の大きさで羽毛は水色。こんな鳥がいるんだなー。
手を出して掴まえても、大人しくじっとしている。気持ちがすーっと穏やかになった。
「まいちんさん、本当に鳥が好きなんですね」
一緒に行動していた人達の一人が話しかけてきた。彼女も先程から私に何回か話しかけてくれている。でも、どうしても彼女の名前が思い出せない。今更、それ聞いたら失礼だろうしなあ。
ログインしてコメントを確認・投稿する