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2015年12月18日14:36

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【プロ野球】 ブルペン捕手

 野球の独立リーグ・四国アイランドリーグplus愛媛の宏誓選手(本名・河原宏誓)と、ルートインBCリーグ信濃の尾中智哉選手が、読売ジャイアンツに入団したと発表されました。
 二人とも、「ブルペン捕手」としての入団です。

 「壁」などと揶揄されるブルペン捕手は、その名の通りブルペンで投手の球を受けるのが専門の捕手ですね。従って現役選手ではなく裏方さん、縁の下の力持ちです。
 
【今季成績】
 宏誓(四国リーグ愛媛)
  54試合出場142打数28安打 打率.197
 尾中智哉(BCリーグ信濃)
  41試合出場119打数42安打 打率.353

四国・BC両リーグの年間試合数は各70試合前後ですので、二人とも半数以上に出場していますね。宏誓選手ははっきり「正捕手」(しかも主将)でしたし、試合数ではやや劣る尾中選手も、打撃成績は立派なものです。
 このような、各チームの主力選手が、現役選手としてではなくブルペン捕手としてしか入団できなかった、という現実には、プロ野球(NPB)と独立リーグとの巨大な実力差を再認識させられます。宏誓選手は今季、独立リーグ日本一に輝いた愛媛MPの正捕手だけに、猶更です。独立リーグのファンとしては、やや寂しい結果と言えます。
 と同時に、本人の立場になってみれば、それはそれとして良かったな、とも思うのです。

 四国・BC両リーグには、NPB入りの夢を抱いた内外の選手が、集まっています。日本人選手に関して言えば、高卒や大卒の時点でドラフト指名されなかった選手たちですから、「夢を諦めない(諦められない)選手たちの集まり」と言えましょう。
 そして、四国・BCリーグからは各リーグ創設一年目から毎年、ドラフト・育成ドラフト指名される選手が輩出され続けています。先日行われたドラフト会議でも、四国からはドラフト指名1名、育成ドラフト指名5名(うち1人は負傷の為、入団辞退)。BCからは育成ドラフト6名。外国人選手も、開幕前のカラバイヨ選手(BC群馬→オリックス)に始まり、つい先日のアブレイユ選手(四国リーグ高知→巨人)まで四国から2名、BCから6名が移籍しています。加えて今季、四国リーグ高知に在籍した藤川球児投手の阪神復帰も決まりました。
 四国・BC両リーグは、「NPB入りという選手の夢を叶える場所」としての役割を果たし続け、その役割はNPB側からも評価されているのです。

 ……ですが一方で、独立リーグは「夢を諦めさせる場所」でもあります。

 たった今、こんなに大勢の選手がNPB入りできた、と書きましたが、その全員を合計しても(入団辞退者や藤川球児投手まで含めて)、両リーグ12球団で21名に過ぎません。今季は例年になくNPB入りが多かった年です。それでも、この程度なのです。
 それ以外の選手は、来季も独立リーグでプレーするか、アマチュア野球に転身するか、野球選手の夢を諦めて一般就職するか、この三つの選択肢しかないのです。(プロ野球選手が引退してアマチュア野球選手になる為にはブランクを置かなくてはなりませんが、四国・BC選手については近年、規約が改定され、引退後すぐにアマ選手になれるようになりました。同じ独立リーグでも、BFLだけはブランクが必要になります。)
 四国・BC両リーグは月給制で、月額10万円〜40万円。しかも支給はシーズン中だけです。(ポストシーズンに進出した場合は、日割りで支給。)当然、シーズンオフはアルバイトをしなければ生活できません。あくまで若い間の数年間だけ出来ることなのであって、一生の仕事にするわけにはいかないのです。(ちなみにBFLは無給です。)NPBのスカウトからしても、実力が同程度なら若い選手を欲しがります。従って、毎年オフには、「夢を諦める」選手が大量に出るのです。四国もBCも、スポンサー企業への就職を斡旋する等、夢を諦めた選手のアフターケア体制を敷いています。(ちなみに四国にしろ、BCリーグ球団の多い北信越にしろ、少子高齢化が進んでいますから、そこに若い選手の就職を斡旋すること自体が、一種の地域貢献にもなっているのです。)

 こう考えると、宏誓選手も尾中選手も「プロ野球選手」という夢こそ叶いませんでしたが、「野球に専念して生活が送れる」という意味では、それなりに喜ばしい結果が出た、と言えると思います。宏誓選手は26歳、尾中選手は28歳です。同年代の独立リーグ選手たちは、十数年来も抱えてきた夢を諦めなければならない時機です。しかし、二人は違います。昨季まではアルバイトをしていた筈の2月になれば、キャンプ地で、或いはジャイアンツ球場で、二人はブルペンに入り、プロ野球投手の球を受けることになるのです。
 最近はスカパーのチャンネルやニコ動等で、秋季・春季キャンプの中継も見られるようになりました。昨年春に、オリックス一軍キャンプの様子を見ていたのですが、一度に八人ぐらいの投手がブルペンに入り、一斉に投球練習をするのですね。しかもグランドでは同時並行で、野手陣が打撃練習をしています。当然、こちらにも捕手が必要になります。で、これが一軍だけの話で、二軍は全く別の場所(一軍が宮崎で、二軍が宮古島)で同時にキャンプを行っているわけですよ。
 これでは確かに、現役の捕手だけでは人手が足らない筈です。それはもう、ブルペン捕手が必要でしょうとも。キャンプ中に、いったいどれだけの球を受けるのでしょう。あれが毎日毎日ですから、とてつもない球数になるだろうということだけは、容易に推察できますが。
 しかも、ただ受けるだけではない。投手が気持ちよく投げられるように、良い音を響かせたり(絶対に手が痛い筈)、声を掛けたりする。投球練習が終わると、必ず投手と捕手とで話をしています。捕手が投球の印象を伝えたりしているのでしょう。
 素人である私が「ブルペン捕手」と言われて連想するのは、試合中にブルペンで肩を作っているリリーフ投手の相手をしている人、です。でも、キャンプ場ならぬ野球場のブルペンって、一度に二人ぐらいしか投げられないですよね。
 となると、ブルベン捕手だからと言って、一軍公式戦中のブルペンに座れるとは限らない、ということになりそうです。うわー、ブルペン捕手にも競争があるのか。誰だ「壁」なんて呼んでいたのは。
 逆に考えると、一軍公式戦の試合中にブルペンでリリーフ投手の球を受け、その投手が登板して好投し、チームに勝利をもたらしたら、きっと充実感があるんでしょうね。グランドにこそ出ていないが、自分も勝利に貢献できた、そんな歓びがあるのではないでしょうか。

 尾中選手は将来、高校か大学の指導者になりたいそうです。一つの夢(NPB選手)は諦めても、既に次の夢を描き、それに向かっているのですね。尾中選手や宏誓選手をはじめ、ブルペン捕手や打撃投手としてNPB入りした独立リーグOBの野球生活が、実り多いものでありますように。
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