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2015年11月09日22:46

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夢の小料理屋のはなし 78

寒いね。
ホント寒い。
こうなることが分かってるんだったら、コート持ってくるんだった。
逃げるように転がり込んだ先は、勿論あの小料理屋。

「女将さん、寒いよ!」
「今日はホント寒いわよね。もう冬の雨って感じ。」
こんな夜は、鍋から立ち昇る湯気がとても幸せなものに見える。
この感覚は、きっと子供の頃から変わらない。
湯気の向こうが、まるでソフトフィルターが掛かったように柔らかく見えるせいだけではあるまい。

ともあれ、僕の寛ぎの時間はここから始まる。
暖かいおしぼりで顔の筋肉をほぐし、そして、手を拭く。
毎度お馴染みのルーティンワークだ。

「はい、今日はクリームシチュー煮たわ。」
「おほ、いいねえ!」
これこれ、今の僕が欲していたものは。
人参、玉ねぎ、じゃがいも、しめじ、そして鶏肉。
シンプルなクリームシチュー。
しかしながら、暖かさが胃に染み渡る。
「寒いとこう言うのが美味しくなるもんね。さっき、どうしても食べたくなって作っちゃった。」
女将さん、分かってらっしゃる。
とろける寸前の人参を頬張りつつ、ちょっと感動。

でもさ、料理ってそう言うもんかも知れない。
高級食材をふんだんに使った料理も素晴らしいけれど、多少チープでも「今これ食べたい!」って言う時にそれが出てくる幸せって、やっぱり素晴らしい。
それにしても、女将さんは割とジャストなタイミングでジャストなものを作ることが多い。
「女将さんてさ。」
「ん?」
「割と、僕がこう言うの食べたいって思った時に、そう言う料理を出すよね。」
「そう?」
「うん。ちょっと凄いと思う。」
「今日は私が食べたかったから作っただけよ?」
「でも、僕は今日はこれ食べたかった。」
にっこり笑う女将さん。
「ちょっと暖かくなった?」
「そりゃあもう。」
「じゃあ、今日は熱燗やめとく?」
「いや、それはそれで飲みたい。」
「あら、欲張りだこと、フフフ。」
そう言うと、女将さんは二合徳利をカウンターに置いた。
「でもね、フフ、私も今日は熱燗飲みたかったんだ。お客さん来るまで、ちょっと飲んじゃおうか?」

肩を寄せ合って飲む熱燗。
そうだねぇ、寒い夜はそれが一番幸せかもね。

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