25日の深夜のこと、時雨君が執務室を訪ねてきた。
「秋は、少し寂しいね・・・あ、ううん、僕は元気だよ」
最近そうつぶやくことが増えた時雨君。
ややあって、扶桑姉様と山城が、もがみんが、山雲が、珍しく満潮も入ってきた。
そうか、この面子、そして今日は・・・
1944年10月25日、スリガオ海峡海戦。時雨一隻を残して全滅した西村艦隊。
朝雲も遠征に出てなければ来てたかも。
皆でとりとめのない話をしている。
さらに瑞鶴、千歳お姉、千代田、瑞鳳、多摩も。
こちらも同日エンガノ岬沖海戦で戦没した小沢艦隊の面々。
本人達としてはただなんとなく足が向いたのだろうが、まるで申し合わせたように・・・
時雨を残して一旦皆が退室したあと、
間をおいて今度は鈴谷、トリさん、筑摩、阿武隈がやってきた。
サマール沖海戦栗田艦隊戦没組と、阿武隈はスリガオ第二陣の志摩艦隊だったか。
栗田ということで他の皆と顔をあわせるのがばつが悪かったのかな・・・
皆が沈んだのは「謎の反転」の前のこと。気にすることないのに。
シブヤン組は来なかったがスリガオ・エンガノ・サマール・・・
一連の「レイテ沖海戦」の面々。
そしてまた時雨と二人。
時雨「何も、訊かなかったね」
提督「今の俺にとっては未だ『レイテ』は不可侵の領域だ。
君達の間に割って入って直接あれこれ訊くことが許される域に未だ達してない、
と思う」
時雨「気にすることないのに・・・言ってるでしょ、『なんでも訊いてよ』って。
皆同じ気持ちさ。僕達艦娘はある意味『語り部』としての役割も担ってるのかも
しれない。少なくとも僕自身はそう思ってる」
提督「そうか。・・・じゃ、来年の今夜、こんな風に皆が集まったらその時には
肝を据えてみんなの話を聞くとしよう」
時雨「うん。でも、今夜は皆、提督がここに居てくれただけでだいぶ救われたと思う。
ありがとう――おやすみ」
その後、ふらりと足が向き、鎮守府内のカウンターバーへ。
カウンターに早霜が入り、止まり木で那智さんがロックグラスを傾けていた。
那智「司令官じゃないか。飲んでいくか？」
提督「もう遅いし明日も早いので一杯だけ」
那智「ん。早霜、私の達磨を開けてくれ」
那智「――なるほどな。私も時雨と同意見だが、貴様の配慮も尊重できる。
私の体験で良ければ少し話をしてやろう。一応私もレイテ組だった、ってのは
知ってるか？」
提督「志摩艦隊？」
那智「ああ。旗艦だった。西村の次にスリガオに突入したんだが目的を果たせず
退却を 余儀なくされた。突入の途中でゆっくり移動していた火だるまの最上が
停止しているものと誤認して衝突してしまった。
その衝突による最上へのダメージは無かったが最上は私が曙を護衛に付けて
退避させた。でも結局乗員を移乗させたあと雷撃処分だ。
それ以来、表には出さないが最上にはどこか申し訳ない気持ちがあってな。
守りきれなくてすまなかった、と。
あれだけの激戦の中、仕方が無いといえばそれまでなんだが」
早霜「レイテなら私も栗田艦隊でした。サマール沖で戦闘中に破損、能代さんから
退避を命じられました。
退避中にも敵の追い討ちは続き、舳と煙突をやられて航行不能、何とか近くの
島の浅瀬に乗り上げました。
そんな私を不知火と、まだ艦娘としてこの世界には来てない藤波が
助けようと・・・」
「私は『敵が襲ってくるから来るな』と言ったんですが、2隻とも相次いで・・・」
「四日後に私を探しに来てくれた那智さんの水偵のなんと眩しかったことか」
提督「改装の時に那智さんの水偵をやたら羨んでたのはそれか」
早霜「ええ。その後生き残った私の乗員は救助されましたが、私が憶えているのは
そこまでです」
提督「今日はやけに饒舌だね」
早霜「時雨と同じ気持ちからです。機会があれば知っておいていただきたい。
今がその時かも知れないと思いまして小出しながら・・・」
那智「少しずつでいい。これから更に我々のことを深く知ってくれればいいさ。
これからも共に過ごし、共に戦ううちにおのずと・・・」
提督「そうだね、有難う」
気がつくともう一杯飲んでいた。
提督「それじゃ、俺はそろそろ・・・」
那智「司令官、さっきの最上のことだが・・・
貴様も心の内にしまっておいてくれないか」
提督「承知」
那智「助かる」
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