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2015年10月29日12:58

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夢の小料理屋のはなし 74

猫娘のミーちゃんが、一人ちょっと切ない顔で飲んでる。
あのいつも元気な彼女にしては珍しい。
こう言う時ってのは、おっさんに出来る事は優しく話し掛けるぐらいしか出来ない。
「ミーちゃん、ちょっと半分食べるの手伝わない?おっさん、頼んだは良いけど腹パンでさあ。」
勿論、腹パンは嘘である。
でも、彼女が「あのミーちゃん」ならば、この鮭ハラス焼きは好物な筈だ。
「あ、お兄さんありがとう。」
ベリーショートがよく似合う、物憂げな彼女。
「どうしたのさ、おじさん気になってしょうがないよ、へへへ。」
「いや、今朝ね、昔の彼氏の夢を見たんですよ。そしたら、何か急に懐かしくなっちゃって電話してみたんです。」
「おう、大胆だねぇ。」
「そしたら彼、最近結婚したんだそうです。」
「あちゃー。それは残念だったね。」
「何かね、失恋したみたいな気分になっちゃって。」
ふと女将さんに目をやる。
何か言いたげな女将さん。
「私、彼が大好きだったんですよ。大好きだったから、強がって別れちゃったんです。まぁ、そう言うのってあんまり分かって貰えないかも知れませんけど。」
何か、オトナの恋だった訳ね。
理解出来ない訳じゃ無いけど、美富久と鮭ハラスが超絶うめえ。
箸で皮を剥がし、身をほぐす。
そしたら、ミーちゃん皮をつまんでペロっと食べた。
こいつめ。
「昔の恋なんか思い出しちゃダメだなんて良く分かってるのに、私何やってんだろうって。」
「でもさあ、夢で見ちゃうと心が動く気持ちは分からんでも無いけどさ。」
骨を避けて皿の端っこに積み上げる。
食べやすくしたところで、すかさずミーちゃんが食べる。
こいつめ。
「あら、あなたもそんな気分になる事あるの?」
女将さんが笑う。
目は笑って無いのが本当に怖い。
「あ、いや、そんな気にもなる事もあるかなーって、へへへ。」
こう言う時は、とりあえず笑って誤魔化すに限る。
「でもね。」
女将さんが、熱燗を差し替えながら入ってくる。
「過ぎた日々の愛を今更なぞるなんて止めた方が良いわよ、ミーちゃん。悲し過ぎるわ。」
おお、女将さんこう言う時カッコ良い事言うねぇ。
「無くした夢よりも、芽生えた喜びを抱きしめる方があなたらしいと思うけど?」
「でもね女将さん、私今良い人なんか居ないもの。」
ほぐれたハラスをがっつり食べるミーちゃん。

こいつめ!

「フフフ、分からないわよ。案外新しい恋なんて意外なところから急に始まるものかも知れないし。」
その時、入り口が開いた。
「あ、田中ちゃんおかえり。」
「あるぇ?何今日ハラス?まだ残ってます?」
「あるわよ。」
「じゃあ、僕にも焼いて下さいよハラス!すげー食いたい!」

もしもここから始まる恋があると言うなら、それも悪くない気がしてきたよ。
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