まだ認知症が、老人性痴ほう症と呼ばれていた1973年の映画だが、
働きながら舅の信造(森繁久弥)の世話をする昭子(高嶺秀子)と、サラリーマンの夫の
信利(田村高廣)、昭子の息子敏が一つ屋根で暮らす波乱に富む日常が、
数々のエピソードを元に描かれている。
この人はどなたですか?と昭子に尋ねる信造、家を飛出し徘徊する信造を必死で探し回る
昭子、夜中に信造の様子を伺いに寝室を覗いた信利に、大きな声で続が入ったと喚く信造。
信造に老いらくの恋を感じている隣家のおばあさんが、世話をしてあげようと信造を訪れると、
婆は嫌い、この人は誰?臭いから帰って貰って!と暴言を吐く信造など、介護の現場で
よく見聞きすることばかりでみにつまされる。
息子の敏も、御爺さんはもう人間じゃないね、動物だよと、昭子との会話で暴言を吐いたりする
が、信造が徘徊した時には、懸命に探すなどおじいさんの事は気にかけている。
昭子が信造を風呂に入れ、ちょっと先まで買い物に出かけて戻ってみると風呂場で
溺れているのを発見した時、昭子がうろたえるシーンは当然ながら尋常ではなかった。
幸い一命は取り留めたものの、この先の気苦労を思うと施設でも探して入れるより
仕方がないかと信利は考えるのだが、引き取って貰える施設がない現実を直視せざるを
得なくなる。ある日、掛かってきた電話の音にびっくりして家を飛出し、また
徘徊、昭子がやっとの思いで林の木の根元で座り込んでいる信造を見つけ家に連れ戻って
まもなく、信三はこの世を去る。この頃にはもう昭子の名は呼べずもしもしと呼びかけるように
なっていたが、ラストは、信造がよく見つめていた小鳥に向ってもしもしと一筋の涙を
流しながら声掛けするシーンで終わっている。その涙には、さんざん苦労を掛けられながらも、
愛すべき家族の一員として愛した昭子の愛情が滲んでいて心が温まるものだった。
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