女将さんが風邪を引いてしまった。
どうも、熱もある。
今日一日寝てはいたものの、あんまり良くなってる気配が無い。
「嫌ねぇ、何とか明日までには何とか治さないとね。」
ベッドで体温計を咥えながら朦朧とする女将さん。
熱のせいかだいぶ顔が赤い。
「週初めはお休みにしたく無いのよねぇ。」
「どうして?」
「だって、みんな月曜日に無理矢理働いてるのに、私が休んだらおかしなもんだわ。」
水まくらの中の氷がゴロゴロと音を立てる。
「もう、汗でシャツがビショビショだわ。」
「着替えあるからいつでも言ってよ。あ、背中拭こうか?」
「ありがとう、助かるわ。」
後ろ向きになって、女将さんがシャツを脱ぐ。
白い背中が、露わになる。
蒸しタオルで背中を拭く。
当たり前なのだが、夫婦なので別に裸自体は見慣れていたりする。
だが、今日の女将さんの背中はいつもより小さく見える。
風邪で元気が無いせいもあるんだろうけれど。
でも、この小さな背中で日々お客さんのいろんな期待に応えてるんだねぇ。
改めてまじまじと見てたら、物凄く愛おしい気分になってきた。
よし、じゃあ何か作って差し上げますかね。
「女将さん、何か食べたいものある?」
「今?そうねぇ、鶏雑炊が食べたいわ。あったかいからいっぱい汗かきそうじゃない?」
「そうだね、おやすい御用。」
「でも、その前に…」
「その前に?」
「Tシャツを取ってくれる?流石に服は着たいわ。」
胸を腕で隠しながら笑う女将さん。
まあ、そりゃそうだ。
冷凍しておいた鷄ガラスープを解凍して鍋に入れてひと煮立ちさせたら、細かく切った鶏肉と竹輪、それから白菜を入れて、最後に水で洗ったご飯を入れて、上に卵を割ったら出来上がり。
「あなたが作る鷄雑炊はホントに美味しいわよね。」
「でも、スープを作ったのは女将さんだよ。」
「それはそうなんだけど、でも、この具のセンスは絶妙だわ。」
寝込んでいる人とは思えないぐらい、女将さんは雑炊を夢中で食べている。
「まあ、それだけ食欲があるなら明日は元気になるだろうね。」
そう言うと、女将さんは手を止めて言った。
「でも、あなたがまたご飯作ってくれるなら、もう一日ぐらい病人で居ても良い気がしてきたわ、フフフ。」
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