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2015年09月09日12:05

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五輪エンブレム:デザイナーの『ごまかし』理論について

 デザイナーの一般人に向けた詭弁を、わかりやすく明快に論破している記事を紹介します。


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◯デザイナーの『ごまかし』 本当に「五輪とリエージュのロゴは似てない」か?
 ツイナビ 2015年9月7日 21時00分
 http://twinavi.jp/topics/news/55ed5ffc-0a30-4ffc-a057-3b8eac133a21

9/7にYahoo!ニュースに掲載された「よくわかる、なぜ「五輪とリエージュのロゴは似てない」と考えるデザイナーが多いのか?」という記事が話題を集めています。

この記事では、著名なUIデザイナー(ユーザーインターフェイス・デザイナー)が「五輪とリエージュのロゴが似てない」と考える理由を説明しており、ツイッターには、この記事を読んだ人々から「なるほど、よくわかった」「はじめから、こんな説明があれば…」と言ったツイートが多く投稿されています。

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類似騒動に燃えた五輪とリエージュのロゴ。素人目にはそっくりに見えるのに、デザイナー達はみな「まったく違う」と主張するのが印象的でした。カルチャーギャップの裏にある考えの違いを、わかりやすく解説します…

http://bylines.news.yahoo.co.jp/takayukifukatsu/20150907-00049112/
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しかし、この記事はデザイン知識の少ない人にむけたデザイナーの「ごまかし」に感じられました。

記事に書かれた例や説明の多くは事実ですが、しかし実は、自説に都合のいい部分だけを取り出し、説明に不利なことは触れずにおく、という取捨選択がうかがえます。

佐野研二郎氏が意図的にリエージュ劇場のロゴを模倣したものではないだろうことは、冷静にあのデザインと状況とを見ている人には推測可能なことだと思います。

しかし「模倣かどうか」と「似ているか、いないか」は全く別のことです。いびつな検証をもとに「似ていない」と言い切ってしまうことは、職業デザイナーとして非常に危険なことだと思います。なぜなら、デザインの依頼主である顧客に大きなリスクを負わせることになるからです。

記事は五輪とリエージュのデザインが似ていないことを「ステンシル書体か、そうでないか」「合字か、モジュールの構成か」という二つの視点から説明しています。

後者については、佐野研二郎氏自身が会見で説明していて、すでにその説得力の有無は評価が確定していると思いますので、以下では「ステンシル書体か、そうでないか」についてデザイン的な視点から検証してみたいと思います。

◆「ステンシル書体か、そうでないか」

記事は「ステンシル書体か、そうでないか」について、一般的なPCにもインストールされているフォント「ステンシル(Stencil)」を用いて説明しています。

しかしこの説明には、デザインにおける「ステンシル書体」の位置付けについて、明らかなミスリード(読者を誤った理解へ導く誘導)があると感じました。

ステンシルとはもともと(活字や写植を使用せずに)型となる板や紙の「穴」を使って、なぞったりインクをスプレーしたりすることで、統一された書体を描くために生まれたステンシル・テンプレートに由来します。その文字の形は、テンプレートがちぎれてしまわないように、完全に閉じた部分がないのが特徴です。

人間の目は、二つの要素が接する部分──「T」で言えば縦線と横線が合わさる箇所──や、直線やなだらか曲線の途中にわずかな隙間があっても「つながっている」と認識しやすい、という特性があります。ステンシル書体の文字が、隙間があっても文字として読めるのはそのためです。

ステンシル書体には、記事の例の他にも五輪ロゴがモチーフにしたと言われているローマン体をステンシル・テンプレート用にデザインした物が多くあります。

上もその一例ですが、この「T」には記事が指摘するような「分割(縦線の脇のすき間)」はありません。なぜなら「T」には「完全に閉じた部分」がないので必ずしも隙間を作る必要がないからです。

Tに隙間を作るのは(テンプレートの丈夫さを高める、という実用的な理由がなければ)一般的なデザインにおける、装飾的意図によるものです。

記事にある「リエージュロゴの想定されるプロセス」という説明図版(下)は、こうしたデザインにおける論理や手法を隠して、あたかも「パソコン用のステンシル書体がリエージュロゴの出発点にある」と読者を錯覚させるための、意図的な誘導に思われます。

最終的にモダンな造形をイメージしているデザイナーが、図で使用されているような無粋なフォントを用いようとまさか考えないだろうことは、デザイナーが一番よく知っているはずです。リエージュロゴについて言えばむしろ、(佐野氏が五輪エンブレムのモチーフとして紹介した)DidotやBodoniのようなローマン系のフォントのセリフ(文字の端のヒゲの部分)から発想し、エリアを囲む四角形を外円の円周をあてて切り抜いた、と考えるほうが自然に思われます。

ただ「T」に分割(縦線の脇に隙間)があるかないかで発想の源が「ステンシル」かどうかが決まり、それだけで「似ているか似ていないか」が決まるのであれば、上掲のふたつのデザインについてもデザイナーは「似ていない」と言うのでしょうか?

◆「ごまかし」の危うさと、与える影響の大きさ

記事は五輪とリエージュふたつのデザインの相違について、次のようにまとめています。

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視覚的な要素としては、両者は主要部分が類似している。
コア・コンセプト面では、合字とモジュールという異なった設計思想である。
機能面では、遠距離から判別できるため、ロゴとしては差別化されている。
法律面では、リエージュが商標未登録のため、問題ないと判断される。
感情面を排除すれば、「問題ない」と判断される可能性は高い。
このうちデザイン上「似ていない」根拠は、2と3です。類似が指摘されているのは外形(四角と円)ではなく、主要なモチーフの見栄えについてですから、3は意味を成しません。
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残るのは「2. コア・コンセプト面では、合字とモジュールという異なった設計思想である。」という点のみです。

となれば「似てない」根拠は、「似て見えるか、似て見えないか」でも、エンブレムのデザインそのものではなく、デザインする上での「設計思想」のみと言うことになります。

──つまるところ、この記事の解説は、佐野氏が会見で行った解説に、自分に都合のいい事例だけを付加しただけの「ごまかし」ということになるのではないでしょうか?


このような「ごまかし」の印象は、佐野研二郎氏の会見などにも感じられることでした。

会見時もっとも説得力が感じられた「亀倉雄策氏の1964年エンブレムへのリスペクト」というコンセプトは、アルファベット展開例や原案が公開されたことで、一貫性のない後付けであったことも判明しました。そのために多くの人が佐野氏の言葉に「その場しのぎの言い逃れ」「ごまかし」という印象を深めてきたわけです。

そんな状況を受けてのこの記事の解説は、その後に不正確さが指摘されることで、さらに日本におけるデザイナーたちの立場を悪くしかねないと思います。

デザイナーはその場かぎりのごまかしを言うし、深くは物事を考えない人種だ……と。


◆デザイナーを信じていいのか?

記事では今回の騒動から学ぶべきデザインの選定方法について次のようにまとめています。

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まとめ

1)大衆によるデザイン判断は、デザインの一側面しかジャッジできない。
2)多面的にジャッジするためには、専門家への信任が必要。
3)デザイン業界は説明とコミュニケーションを怠り、
  盗用騒動もあいまって信任を得られなかった。
4)信頼を取り戻すには、業界全体で丁寧な説明やコミュニケーションを
  積み重ねるしかない。
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3、4については異論はありません。しかし1、2についてはどうでしょう?

デザイナーもまた、デザインの一側面しかジャッジできないのではないでしょうか?

たとえば、日本国民あげての行事のシンボルに「T」という記号はふさわしいのでしょうか?これまでのオリンピックのエンブレムの多くは、オリンピック自体や開催地を象徴する具体的なモノ・ヒトをモチーフにしています。あえて、そのような意味を持つ形ではなく、それ自体は意味を持たない(しかも他国の文化を起源とする)「T」を選ぶのかについて、これまで誰一人、国民が納得できる説明をした人はいません。

エンブレムの発表後、一般の人々から扇やサクラをモチーフにした多くのエンブレム私案が出てきたのは、このことが大きな原因だと思います。

「現代のデザイナーにはデザイン以外の広い見識をもってコンセプトを立てられるような人がいないこと、そして実績あるデザイナーたちが審査してもそのような見識を期待できないことが、今回のデザインと選考で証明された」

それが今回の騒動を経た上での一般的な認識だと、デザイナーの方々にはぜひ理解していただきたいと思います。

……本当は、デザイナーの多くはすでにこの事を理解しているのではないかと思います。だからこそ、こうしたいい加減な「ごまかし」はすべきでない、と思うのです。
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