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2015年08月23日22:25

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聞こえてくるのは、電子音の重なりにチェロとコントラバスのもうもうたる響き
こんな暗く、闇のような響きを耳にすることはない

四方のスピーカーからは、膨大なテキストが八方から降り注ぐ
ヴィトゲンシュタイン、ローマ法皇、ジョイス
テキストはぶつ切りにされ、脈絡なく重ねられていく
合唱によりレクイエムが歌われるが、すぐに膨大なテキストの海に飲み込まれていく
親から捨てられた子どものように、アコーディオンとマンドリンが奏でられる

静かだと思う
途切れることのない、言葉の海
でもそれは八方のスピーカーから中心に向けて放射され外に漏れることはない
まるでサントリーホールという巨大な頭蓋骨に閉じ込められたような気になる
頭蓋内に響くのは、BAツィンマーマンのメモリー
世界大戦の間に生まれ、世界大戦と冷戦の時代を生きた孤独なドイツ人の魂は(ボイジャーのように)
打ち上げられ宇宙空間を漂い、他の星系の生命体に発見されるまでその記憶を繰り返している

オーケストラとコーラスは響きを探している
ニューオリンズジャズやフリージャズ、ビートルズを通過しながら
そして戦争指導者たちのアジテーションを聞きながら
作曲者はレクイエムを奏でようと苦闘しているのだと思う

でもレクイエムは歴史の騒音の中に埋もれていく
ヒットラー、ゲッペルス、スターリン、チャーチルの声
戦争にかき消されていくレクイエムの断末魔、悲痛な響き

暴力的な混乱の中、再びオーケストラとコーラスが立ち上がる
それはもうレクイエムとは言えないような断片
「我らに平和を与えたまえ!」を
ただ、力一杯叫ぶ
(一瞬流れるベートーベンとビートルズのコラージュに涙がでる)
かき消されてもかき消されても何度も何度も叫ぶ、
「我らに平和を与えたまえ!」ハンマーが三度振り下ろされる

いきなり壁が消えた
今までサントリーホールを覆っていた頭蓋骨が消え、外から音が入ってくる
民衆の声
何万もの民衆の足音、声に広場は埋め尽くされる

やがて静まりかえった広場に静かに男の声が流れる中、
今一度の大合唱
「我らに平和を!」
── 【音楽】BAツィンマーマン:ある若き詩人のためのレクイエム[演奏]東京交響楽団/サントリーホール
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