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2015年08月02日01:30

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「サンセット大通り」(赤坂ACTシアター/愛知県芸術劇場)

東京と名古屋で1回ずつ観劇。Wキャストだったけれど、結局見られたのは片方だけなのがちょっと残念ですが、2回とも安蘭ノーマ&平方ジョー。だいたいWキャストが2役あると、組合せは4パターンというのが定番だと思っていたのに、組合せ固定だったのはちょっと意外。どうやらそれぞれでまったく違うアプローチをしているようで、だからこそ、両方見たかったんだけどな。こればっかりはしょうがない。
アンドリュー・ロイド=ウェーバー作曲。彼の作品で有名なのは「オペラ座の怪人」ですが、やっぱり彼の音楽は素敵だなあ。華やかなショーの雰囲気と、人の心の内の不安をかきたてるような音楽のドラマチックなこと。耳に残るけれど、聴いていてうまいこと拍がとれないというか、メロディーの動きが予想外すぎて、歌う方はとても難易度が高いんだろうなあ。聴いているだけだと、何がどうなっているのかさっぱりわからない、摩訶不思議な音楽。けれど、不思議と心惹かれるものがあります。

貧乏脚本家のジョーが借金取りに追われて迷い込んだのが、往年の大女優ノーマの邸宅。映画業界は無声映画からトーキーへと移り変わった時代。無声映画の大スターのノーマは過去の栄光の中で生きていて、ひとり別の時間を生きているかのよう。そんな二人に用意される結末は、最初からどう考えても破滅しか見えなくて、そもそも物語の冒頭から、庭のプールに死体、ですからね。ハッピーエンドにはならないことは最初から提示されて、そのプールから上がってきた死体が半年前を振り返る体裁で話が展開していくのはなんともシュール。ジョーはとにかく巻き込まれて流されて終始フラフラしてるから、あなたがちゃんとしてればこんなことにはならなかったんだから!とついつい思ってしまったりもするけれど、それでもどこか憎めないんですよね。文無しの脚本家だけど、いつかは・・・という野望はあったと思うのに、いつの間にかノーマに巻き込まれて、たぶん彼には後戻りする機会はたくさんあったはずなのに、結局離れられなかったところがすべての悲劇のはじまり。「もう、わかったよ!」ってノーマに降参するたびに、ああっだめだから、それ!と心の中で思ってしまいます。ジョーのノーマへの気持ちこそ、愛情ではないのかもしれないし、それでも離れられない放っておけないっていう、ジョーのまっすぐな優しさは、可愛くもありますが、まあ、ちょっといらっとはしますけどね(笑)。
舞台で印象に残っているのは、照明の使い方。ステージの上だけでなく、客席まではみだした使い方が面白かったです。ノーマ邸のプールは、客席を青いライトで染めて、一面の水面がとても綺麗でした。ええっと、ということは、我々はプールの中からノーマ邸での出来事を見ている、という視点?と思ったときに、ジョーが客席から上がってきて過去を振り返るという物語の構図になんだかはまってるな、と気づいたりしたのでした。あとは、自動車のヘッドライドが客席側を照らすようにして自動車の動きを表現したり、映画を上映する映写機の光を客席側の壁の方へ当てたり、客席をまきこむような照明の使い方が面白いなと思いました。

ノーマ:安蘭けい。往年の大女優のオーラがすさまじかったです。ひとり別次元を生きている雰囲気にぞくっとするほどの存在感。女優っておそろしい。「With One Look」とか、登場してすぐのソロ曲は既に彼女のオンステージでいきなり空気が変わってその世界観に引き込まれていきます。それでも、女性の可愛らしいところも見え隠れしているのが微笑ましくもあるのですが、年を重ねた女のそういうところがなぜか少し滑稽にも見えてしまうのが哀しいところ。若い男を着飾らせて喜ぶとか、なんだかツボを心得てます(笑)。ノーマの、ジョーへの気持ちが愛情だったのかはよく分かりませんが、いつの間にかジョーも彼女の世界の均衡を支える存在になっていたのは確か。
ラストシーンのノーマはとても印象的でした。ジョーを殺して心のバランスが崩れているのかと思いきや、まるでそこが映画のセットでもあるかのように、マスコミのカメラや照明が、映画撮影用のそれに見たてられ、大女優ノーマがそこにいる、という圧倒的な存在感。ミュージカルというのにそこには歌はなく、無声映画の大スターであったというノーマの姿そのもの。最後まで別の世界を生きている人でした。

ジョー:平方元基。このひとはそもそもが「陽」のイメージで、歌声もまっすぐなところが好きなのではありますが、ジョーのキャラクターもそういうまっすぐすぎるくらいの雰囲気。脚本家を志してハリウッドに出てきているからにはそれなりに野心とかもあるでしょうし、ノーマのもとで金のある暮らしは手に入れたけれど、それは自分の力ではなく、女の金というところに、やっぱり屈折した思いはあるんだろうと思います。そういう意味では、もうちょっと毒のある感じがあっても良かったかなという気はします。
そんなジョーの想いを吐露するソロ曲の「Sunset Boulevard」は印象的なメロディーですが、なんだかやたらと拍がとりにくい、と思ってたら、これ、5拍子だったのですね・・・。ジョー最大の見せ場ではありますが、とにかく難しそうなこの曲を頑張って歌いこなしていました。この曲に限らずですけど、一番高音のあたりが、もうちょっとガツンと出るようになったら良いのになあ。

マックス:鈴木綜馬。ノーマを献身的に支える執事。そのひたむきさは純愛といっていいほどで、すべてはノーマのため。優しく包容力のある歌声で、ノーマを想う気持ちを歌いあげていました。マックスの印象的な台詞は、ラストシーン。「アクション!」の一言は、マックスの一世一代の大芝居だったんだなあと思って、ちょっと鳥肌ものでした。
ベティ:夢咲ねね。ジョーの親友アーティの婚約者。脚本家志望でジョーと一緒に脚本を作っていくうちに、いつの間にかジョーと惹かれあっていくのが、脚本の中の男と女の恋物語に重ねて距離が近づいていく感じ。年上のノーマとの対比の、若いベティという構図はとてもわかりやすいけれど、ジョー、そこは親友の婚約者なんだからだめでしょう、とやっぱりジョーにダメだししたくなるんですが(笑)。「今なら戻れる」とか歌ってるけど、戻る気がまったく見られません(笑)。冷静に考えると結構すごいことしてる女性ですが、夢咲さんがとてもキュートで、他が殺伐としているだけに、なんだか癒される雰囲気でした。
アーティ:水田航生。ジョーの親友で、ベティの婚約者。とにかくいい人!ベティとラブラブだったのに、ちょっと撮影で出張に出ている間に大変なことになっていて、なんだかひたすら気の毒な感じがします。誰もジョーにお金貸してくれなかった中で、唯一貸してくれたのがアーティなのに、ジョーったらなんて仕打ち!(笑)でも、ジョーとベティが惹かれあったのも、ジョーが殺されたのも、全部彼が不在の間の出来事で、何も知らないのが逆に幸せなのかも。そんなまっすぐなアーティを、まっすぐ明るく好演していました。
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