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2015年07月31日12:13

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「事故物件」

むかしいた会社に
ツクイくんという後輩がいた

所属課が違うので
それほど親しいワケではなかったが
いきつけの飲み屋でときどき顔を合わせるうちに
一緒に飲むようになった

ツクイくんは京王線沿線の
まぁまぁ名前の知られた高級住宅街で独り暮らしをしていた

「家賃が高いだろ?」と聞くと
「実は」と声を落として話しはじめた

「事故物件なんです」

そういう用語は聞いたことはあったが
具体的になにを指すのかは知らなかった

「火事があったとか?」

「そういうのじゃありませんよ」

そのマンションのその部屋で
過去に自殺者が出たというのだという

「気持ち悪いだろ そんな部屋」
「いや そういう部屋は初めてじゃないですから」

話を聞くと
ツクイくんは引っ越す際に
まず生活しやすい街かどうかを調べて
よさそうな街だったら不動産屋をあたり
予算内の部屋を探すのだという

ところがたいていは家賃が高い

どうしてもその街に住みたいと思ったら「事故物件はないのか?」と不動産屋に聞く

ひとつの街に必ずひとつふたつはあるという

「自殺者が出た部屋」が

「不動産屋はそういう部屋を積極的には奨めないんです でも どうしても借りたいという客が来ると説明する義務があるんです」

そういう法律があるんだそうだ

そういう部屋はたいてい敷金がなかったり家賃も割安だったりだから
気にしなきゃお得なんですよ

ツクイくんは上目遣いで笑った

「でもさ そういう部屋って ほら 出るとかいうじゃん」
おれは恐る恐る聞いた

「あぁ 出ますよ」
ツクイくんは事も無げに答えた

「まえの部屋にはオンナがでました」

こいつ
ヤバいぞと
反射的に思った

「でもね 餃子さん 別になんにもしないんです あいつらは」

なんにもしないっていっても…

「ただ 視界の隅に見えたり 鏡に映ったり その程度です 実害ないですから」

ふ〜ん
おれは絶対イヤだけど
そういうの平気なヤツもいるんだ
そう思って
そのあとはエロいハナシをして店を出た


おれは基本的に幽霊を信じていない

しかし
それがなんなのかは判らないが
人間や動植物以外のものがいて
それがときどき見えるひとがいるとは思っている

だから
そんなものが見えたらイヤだなと思う

ひと月ほどして
偶然ツクイくんと会った

かなり酔っていた

最初のうちは仕事の愚痴を軽くしていたのだが

唐突に
「もう限界です」とツクイくんはいった

「シャレんなんないすよ」という

どうも部屋のことをいってるな
そんなかんじがした

「あんなの普通の事故物件じゃないです」

どうも「出る」という程度のハナシではないらしい

完全に「いる」というレベルだという

視界の隅に見えるとか
鏡に映るとかではなく
テレビを観ていると画面の横に女の子が座っていたり
寝ているとベッドの足元に中年男が立っていたり
そんなことがほぼ毎日だという

「何人もいるの?」と聞くと
「最低3人はいますね」といった

本気で悩んでいるようだったが
おれにはなにもできない

第一
おれ自身
幽霊を信じていないのだから

しばらくして
後輩の佐藤から「ツクイが行方不明なんです」と聞いた

何日か無断欠勤が続き
電話にも出ないので部屋を見に行ったんだという

事情を説明して警察官立ち会いのもと管理人にドアを開けてもらった

佐藤は「病死」ぐらいの覚悟はしていたという

ところが
部屋のなかには誰もいず
別に転居した様子もなく
ツクイくんの私物だけが置いてあった

部屋から出たところで
管理人が警察官に
「まえもこの部屋でしたよ あのときは家族でしたけど」というのを
佐藤は聞いたといった

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