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2015年07月11日21:15

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ハンブルク・バレエ ヴェニスに死す

A Dance of Death by John Neumeier based on the novella by Thomas Mann

Music: Johann Sebastian Bach, Richard Wagner
Choreography, Staging: John Neumeier
Set: Peter Schmidt
Costumes: John Neumeier, Peter Schmidt
Lighting Concept: John Neumeier

Gustav von Aschenbach: Riggins
his assistant/his mother/Tadzio's mother: Laudere
Tadzio: Trusch
Frederick the Great: Urban
La Barbarina: Bouchet
Aschenbach's Concepts: Azzoni, Riabko
The Wanderer, the Gondolier, Dionysos, the Hairdresser, The Guitar Player: Bubenícek, Jung
A young Aschenbach: Tselikov
Jaschu, Tadzio's friend: Stuhrmann

Piano: Elizabeth Cooper

2015/7/5日 19:30- ハンブルク州立歌劇場

私の今年のハンブルクバレエ週間の最終日は、トーマス・マンの小説を元にした「ヴェニスに死す」でした。この作品、来シーズンはプログラムに入っていません。主な役に2003年当時の初演キャストを揃えた(ただしタッジオはエドウィンではなくTrush )この日の公演、ロイド・リギンスの最後のアッシェンバッハになるだろうとのこと。今回のバレエ週間はこれを観ることが一番の目的でした。そして、本当に観に来てよかったと思わされた公演でした。

ストーリーはトーマス・マンの小説に忠実で、アッシェンバッハが旅先のヴェニスで美少年に恋に落ちて彼のそばで死んでいくというもの。ただしノイマイヤーのバレエではアッシェンバッハは振付家になっており、Frederick the Greatに関する作品を創作しているという設定です。

タッジオを初演したエドウィン・レヴァツォフのルックスなどからも、ノイマイヤーが小説だけではなくヴィスコンティの映画から影響を受けていることは感じられます。が、音楽に関しては、バッハをベースに、ヴィスコンティの映画で印象的に使われているマーラーの代わりにワーグナーが使われています。バッハはタッジオに恋に落ちるまでのアッシェンバッハの厳格で禁欲的な側面を表現し、ワーグナーは彼の解放された感情を表現する。この組み合わせが実に素晴らしい・・・!ちなみに音楽は半分くらい録音テープが使われており、半分くらいは舞台上のピアニストが弾きます。このピアニストがエリザベット・クーパーさん(この方、ヌレエフはじめ数々のダンサー達と共演した経験がおありだそう。日本にもベルリン国立バレエがベジャールのニーベルングの指輪を持ってきたときにピアニストとしていらしてます)。ピアニストと言っても、舞台上で登場人物と視線を交わしたりなど演技もする、重要な存在です。

さて。ロイドのアッシェンバッハ引退公演というのもあり、本当に気合いの入った舞台でした。一番凄かったのは、もちろんロイド。美少年だった彼もだいぶ髪も薄くなってしまいましたが、そのしょぼくれ感がアッシェンバッハという役の持つ哀れで寂しい感じと重なって深みを増します。人魚姫でも書きましたが、彼は本当に素晴らしく上手いダンサーなんですが、彼の舞台を観ると踊っていたというイメージが少なくて、演じていたなぁという印象が残るのです。それだけ踊りと演技が一体化しているということ。道ならぬ恋にはまった自分にとまどい苦しみ、でも最後は解放されて死んでいくアッシェンバッハを、全身全霊で演じていました。このバレエの最後は、ヴィスコンティの映画よりも解放感が強いなあ、そういえば。

もう舞台を観ながらその素晴らしいパフォーマンスとキャラクターへの共感とで何度も涙が出てしまったのですが、一番泣けたのはFrederickが恋に苦しむアッシェンバッハに対して、もういいんだよ、感情を解放していいんだよ、というように彼に赦しを与えるシーン・・・。これは小説にも映画にもなくてジョンのオリジナルな設定なんですね。Frederick役のイヴァン、怪我からほぼ2年ぶりの復帰とは思えない素晴らしい踊りと演技でした。ぐっすん。

アッシェンバッハを導く目に見えない力みたいなものを一挙に請け負っているのがThe Wanderer, the Gondolier, Dionysos, the Hairdresser, The Guitar Playerの役ですが、これのオットーがエロくてかっこよくて、いやはや。

アッシェンバッハの頭の中の創作活動を表現するConceptを演じたのはシルヴィアとサーシャ。この二人の演技っていつも演じるのではなくなりきる感じで、それは人格のない役の時でもやっぱりそうで。限りなく抽象的で透明感のある存在でした。そして本当にサーシャの動きって滑らかでまったく無駄がなくて美しい・・・。あーこの人やっぱり大好き。

タッジオ役のTrushは、踊りも上手いし演技で無垢でキラキラした美しい若者をうまく表現していたと思います。でもねー、タッジオってやっぱり金髪じゃなきゃいけないよね、と思う自分も。ヴェニスは3回観たのですが、結局一度もエドウィンのタッジオには当たらなかったわ。ちょっと残念。

もう、何も見逃すまい、と必死に目を凝らして観ていたせいで、すっごくよかったけどすっごく疲れた公演でもありました。終演後の出待ちでは、ロイドが出てくると待っていたファンが一斉に拍手。引退公演みたいでした・・・。来シーズンもダンサーとして名前が残ってますし舞台には出るようですけど、人魚やヴェニスのような主役級を踊るのはもう見られないかもしれない。本当に悲しいです。

*昨年9月にコペンハーゲンまで「ヴェニスに死す」を追っかけたときの感想はこちら→http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1932361510&owner_id=2438654
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