ハンブルク・バレエ　人魚姫

Ballet by John Neumeier based on Hans Christian Andersen

Music: Lera Auerbach
Choreography, Staging, Set, Costumes, Light Design: John Neumeier

The Poet: Riggins
The Little Mermaid/His Creation: Azzoni
Edvard/The Prince: Jung
Henriette/The Princess: Bouchet
The Sea Witch: Bubenícek

Conductor: Simon Hewett
Hamburg Philharmonic State Orchestra

2015/7/3金　19:30-　ハンブルク州立歌劇場

人魚姫を観るのは3回目。最初は09年の日本公演（ＮＨＫホール）、その次と今回はハンブルク。でも、ハンブルク初演のロイド・リギンスとシルヴィア・アツォーニの組み合わせを観るのは、今回が初めてでした。そしてこのキャストの人魚姫は、おそらくこれが最後。細部まで見逃すまい、という覚悟でのぞみました。

あらためて、人魚姫はとてもよくできた作品だと思います。実はゲイであったと言われるアンデルセンその人を詩人という立場に置き、彼の涙のしずくから生まれた創作物、そして彼の報われない愛の思いが凝縮された創作物、それが人魚姫。彼女が能天気な王子に出会い、恋をして、大切なものと引き換えに人間の姿を得、でも人間界では異形のものとして王子に恋の相手にはされず、最後は愛を永遠に得られないことに絶望して天上に昇っていく。その彼女を常にはらはらしながら見守る詩人の姿、彼の恋心とその本体を分離することで、より切ないストーリーになっています。レーラ・アウエルバッハのテルミンを多用する音楽は、人魚姫の住んでいたすべてがゆらめく海中の世界とぴったり。陸上の世界は西洋的なセットと衣装、一方海の中の世界は歌舞伎に似たメイクと衣装で表現されます。舞台を横切る複数の細いLEDライトが上がったり下がったりすることで陸上と海を行ったり来たりするセットも秀逸。衣装も含め、まったく一人ではないでしょうがノイマイヤーの手によるもの。この人、ただの振付家ではありません。演出家としても超絶一流です。

そして、このキャスト、やっぱりすごかった。

何より凄かったのは人魚姫のシルヴィアでした。普段の彼女はいつでも太陽のように朗らかでおしゃべりで可愛い人。でもこの舞台にいるのは、彼女のピュアな面は残っているものの、言葉を持たない、いたいけで、でも人間から見ると異形のもの。役に憑依されたかのような演技。本当にかわいそうな人魚姫にしか見えなくて、途中からは痛々しくて切なくてたまらない気持にさせられました。今でも彼女の人魚姫が声なき声で叫ぶ姿が目に焼き付いて離れません。実は振付もすごく難しくて、彼女の類まれな身体能力をフルに活用しているのですが、そういうことを感じさせないところが凄いと思います。ふー。

そしてそして、詩人のロイド！彼もしっかり踊ってるのですが、それより演技をしていたという印象が強い。私はちょっと気弱でヘタれで切なさを感じる役を演じるロイドが大好き。体の動きはもちろん、表情も、遠くから見ても分かるほど豊かで胸を打ちます。高い重心、ピンととがった足先、キレのいい動き。この作品では見納めと思ったら本当に悲しくなりました。

そしてもう一人見納めが。今シーズンでハンブルクを退団するオットー・ブベニチェクはSea Witchを演じました。近年の彼の動きはかなりコンテンポラリー寄りですが、この作品では特に隈取を模したメイクと羽織袴のような衣装も相まって、武闘のようなかっこよさ！彼の舞台上での存在感は本当に凄いです。痺れました。

とにかく圧倒された舞台でした。実はこれと「ヴェニスに死す」を観るのが今回のハンブルクへの旅の大きな目的だったのですが、これだけでも来る価値があったと思えるほどのものでした。

ちなみに、人魚姫はハンブルクでとても人気のある作品で、チケットも完売になることが多かったようです。この日も観客の反応は熱烈で、主役のシルヴィアにはたくさんの花束が飛んでいました。（シルヴィア、一人で持ちきれなくて二日に分けて持って帰っていました！）

人魚姫、サンフランシスコバレエでDVDになっていますが、このハンブルク初演キャストも残してほしかったな・・・。

参考までに、2012年にハンブルクで、サンフランシスコ・バレエのヤンヤン・タン主演で観たときの感想は、こちら→http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1855577581&owner_id=2438654