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2015年07月08日07:49

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さよなら木星、また来て巨人

「クレオパトラ」「天国の門」予算を掛けまくって大失敗した映画5選
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=121&from=diary&id=3503031

 『さよならジュピター』さえ作らなければ、小松左京は、日本SF史に残る傑作を、あと数作は書けたんじゃないかと思う。『ジュピター』の功績って、今から思えば、川北紘一を特撮監督として一本立ちさせられたことくらいしかないような。
 『ジュピター』の後、小松は『首都消失』や『日本沈没第二部』を発表しているが、『首都』は初期作『物体O』の焼き直しでスケールも小さくなっており、『日本沈没第二部』は既に小松自身で執筆するだけの力はなく、谷甲州の協力を仰ぐしかなかった。この間、小松左京は長いうつ病との闘いの渦中にあった。
 うつ病になったきっかけについてはよく知らない。1995年の阪神・淡路大震災がきっかけだったとも言われているが、それまでの小松さんの生命力にあふれた発言や活動を見ていると、そこでなぜ小松さんが挫折をしてしまったのか、不思議に思えてくる。『復活の日』の、絶望から立ち上がる人類を描いたあの小松さんですら、「老い」には勝てなかったのかという切なさだ。

 木星を犠牲にしてまでも地球を救う、という壮大なスケール、まさしくどんな災害にもくじけぬ人類の未来を描く映画『さよならジュピター』は、傑作にならねばならなかった。なぜそうならなかったかと言えば、そこに時間経過に沿って展開する筋(ストーリー)はあっても、アイデアを生かすためのドラマが存在しなかったからだ。主人公のラブロマンスとか、宗教団体の自然賛美の歌とか、ドラマを邪魔するだけで、画面を陳腐にすることにしかなっていなかった。
 漏れ聞く話によれば、これらのどうでもいい枝葉末節は、監督の橋本幸治の責任ではなく、製作総指揮の小松左京のゴリ押しだったということである。
 確かに当時、宣伝活動をしていた小松左京は、ワイドショーにゲストに呼ばれた時に三浦友和とディアンヌ・ダンジェリーとの「無重力セックス」の話しかしなかった。三浦友和を世界に通用する俳優に育てると豪語もしていたが、青春スターの型通りの演技から一歩も出ていない当時の三浦には、そんな夢想は画餅に過ぎなかった。俳優を見る目など、小松左京にはなかったとしか言いようがない。
 杉田二郎の歌う頓珍漢な自然礼賛ソングの作詞は小松左京自身だった。橋本幸治は4曲も書いてきて劇中で唄わせる気だった小松に対して、何とか2曲に留めるのに苦労したそうである。
 映画をご覧になった方は御承知だろうけれど、「ジュピター」ってのは、木星のことだけを指すんじゃなくて、杉田二郎が可愛がってたイルカの名前でもあるのね。人間の自然破壊の象徴としてイルカを持ってくるのも反捕鯨団体の主張をそのまんま盲信しただけのアタマの悪い発想だけれども、地球の危機そっちのけでイルカの死を悲しむ描写を入れることにどんなドラマがあるの、と観客から笑われる結果になった。
 「世界に通用する本格SF映画を作りたい」――その思いはどこに消えてしまったのかという迷走ぶりだった。あの頃の小松さんは完全な「そう状態」にあった。そう考えざるを得ない。

 『さよならジュピター』が成功していれば、邦画のSF環境は劇的に変わっていたのではないかと思う。SF映画には投資するだけの価値がある、そう製作会社たちが考えていれば、怪獣ものだけに頼らない、様々なアイデアに満ちたSF映画の数々が花開いていた可能性は大だ。そう思わせるだけの映画を作れなかった小松左京の責任は大きい。単に「失敗しちゃった」映画というだけでなく、彼は晩年に至って、それまでのSF界における功績を無に帰するような、日本のSF映画の進歩を足止めさせるほどの手痛い失策を演じてしまったのだ。
 「SF映画は儲からない」――80年代以降、これが邦画界での「常識」になった。監督や脚本家がいくら面白そうな企画を出しても、「SFでしょ?」の一言で通らなくなっていく。通っても低予算ですむ日常SFばかり。なぜ『時をかける少女』ばかりがリメイクされ続けるのか、それがまさしく日本SF映画・ドラマの貧弱な状況を象徴している。「SF」と「大作」とが一致しない時期が20年以上、続くことになったのだ。
 映画への投資がきちんとなされれば、映像技術の進歩も決して欧米に負けるものではなかったのではないかと思う。『攻殻機動隊』が『マトリックス』に影響を与えたことは有名だが、もしかしたら最初から『攻殻』がアニメーションではなく実写CGで作られていた可能性もあるのだ。
 小説、漫画の世界では、SF作品は百花繚乱であるのに、実写SFは完全に出遅れた。『寄生獣』や『進撃の巨人』の実写版のような作品は、20年以上前に作られていなければいけなかったはずなのである。

 言い換えるなら、『進撃の巨人』は「成功しなければならない」映画だってことなんですよ。次の『ゴジラ』もそうだけど、これがヒットしなかったら、ポシャる企画がもう何十本に及ぶか分からないので。なぜキャストがみんな日本人なんだよとかツッコミたい気持ちは重々分かるけれども、とりあえず劇場には足を運ぼう。間違ってもエレンとミカサの空中セックスとかないから。



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